原作はドイツの作家で弁護士でもあるカルステン・デュッセのベストセラー犯罪小説「Achtsam Morden(Murder Mindfully)」。
カルテルの汚れ仕事を請け負っている弁護士ビョルンが、“マインドフルネス” の手法を活用しながら、苦境・苦難と折り合いをつけ、乗り切っていくコメディタッチの物語です。
ご存じの方には不要でしょうが “マインドフルネス” について簡単な解説を。
“マインドフルネス” とは…
たとえば Wikipedia によれば「現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程である。瞑想、およびその他の訓練を通じて発達させることができるとされる」とあります。
マインドフルネスは瞑想の手法のひとつとしても有効とされ、常に起きていることに注意を払います。上座仏教、テーラワーダ仏教をベースにしており、日本でよく使われる分類でいえば小乗仏教に由来しています。
過去を憂えたり、今にストレスを抱えたり、未来を心配したりする人間の性質を改善へ導くと言われています。
書籍が出版されていますので、関心のある方は読んで実践してみてください。日々の生活においてマインドフルであることの難しさに気づくでしょう。
主人公ビョルンは、家庭がさらに不調和へ向かうことを危惧し、妻カタリーナの勧めで “マインドフルネス” を学びます。
家庭の危機の解決策として “マインドフルネス” を提案する妻はかなり珍しいと思います。ひょっとしたらドイツで流行っている/流行っていたのかもしれません。精神修養、心理療法、認知パターンの自覚をクライムストーリーのフックにしているのが、この作品の特徴・面白さといえるでしょう
導入部あらすじ
ビョルンはカルテルのボスであるドラガンを得意客にもつ弁護士。ドラガンの手下の弁護・救済などで多忙であり、家庭に振り向けるエネルギーが残っていません。最愛の娘エミリーがいますが、彼女の誕生日をともに祝う余裕すらありません。
そんな夫ビョルンに不満を抱くカタリーナは、娘のために自分を変えてほしいと願い、彼に “マインドフルネス” を学ぶよう勧めます。
当のビョルンは “マインドフルネス” を胡散臭い流行りものとしか思っていませんでした。しかし家庭崩壊の危機を脱するためにはやむを得ないと、コーチのヨシュカ・ブライトナーを訪問。そこで意識の置き方、呼吸の大切さを学びます。
彼の指導を受けるうちに娘エミリーと過ごす時間を作り出せるようになっていくビョルン。円満な同意のもと、妻カタリーナと別居してホテル暮らしをする運びにもなります。仕事に対して感じるストレスも減っていきます。
しかし依然として顧客ドラガンらに悩まされます。麻薬取引をめぐり、ドラガンらは敵対するカルテルのボスであるボリスの腹心イゴールに乱暴を働き、火をつけます。ビョルンはその犯罪の後始末を依頼されますが、そのとき彼は娘エミリーと休暇を楽しむはずでした。しかしドラガンを放っておくわけにもいかなかったため、彼をトランクに匿って湖畔の彼の別荘へと向かいます。
別荘に到着。そこで “マインドフルネス” のコーチのヨシュカ・ブライトナーの教えを思い出し、ビョルンは「したくないことはしない」という選択をします。
車のトランクに閉じ込められたままのドラガンは死に、殺人者となった弁護士ビョルンには証拠を隠匿する必要が生まれます。彼は折に触れて “マインドフルネス” の手法を用いることで難局や無理難題を潜り抜けていきます。
ビョルンはドラガンの死を秘匿したまま、カルテルの動きや私生活をマネジメントしようとします。しかしドラガンやビョルンの命を狙ったかのような事件が相次ぎます。彼はそれらに上手く対処して、よりよいライフワークバランスを実現できるのでしょうか。
主な登場人物
[主人公とその家族]
- ビョルン・ディーメル:法律事務所に所属する弁護士。弁護活動のほか、顧客であるカルテルの汚れ仕事を請け負っている
- カタリーナ・ディーメル:ビョルンの妻。①夫が家庭を顧みないこと、②夫の仕事(カルテルの顧問弁護士)を理由に娘が幼稚園入園を許可されないことが悩み
- エミリー・ディーメル:ビョルンとカタリーナの娘で4歳。最終的に「水を得た魚幼稚園」に入園する
[カルテルの人たち]
- ドラガン・ゼルゴビッチ:カルテルのボスでビョルンの顧客
- サッシャ・イワノフ:ドラガンの子分で静かな性質。ブルガリア出身。ビョルンと利害が一致して「水を得た魚幼稚園」の園長となる
- トニ:ドラガンの子分で気性が激しい。彼のクラブで麻薬取引を行っている
- ムラート:トニの子分。ドラガンのクラブで働いている
- ウォルター:ドラガンの子分で元軍人。武器売買担当
- スタニスラフ:ドラガンの子分。密輸担当
- カーラ:ドラガンの子分で元売春婦。売春の責任者
- マルテ:爆破事件の実行犯と目された男
- パウラ:サッシャの指示でマルテを拷問にかける等する
- ペペ:サッシャの指示でマルテを拉致する等する
- ボリス:かつてドラガンと悪事を行っていたが仲間割れ。ドラガンとは別のカルテルのボスとなる。ロシア料理を好むドイツ系ロシア人。イゴールは彼の腹心
- ウラジーミル:ボリスの手下
[弁護士事務所のメンバー]
- ブレゲンツ:事務所の受付。勤続20年
- ドロ:研修生
- エルケル/フォン・ドレーゼン:経営陣
[警察関係者]
- ニコル・エグマン:捜査チームのリーダーで刑事。シングルマザーでベニという娘がいる。ビョルンの旧友であるらしい
- メラー:捜査チームの刑事。アグニエシュカという女性と懇意にしている
感想:テンポもノリも軽快なサスペンス
“マインドフルネス” を齧ることができる
「“マインドフルネス” とは視点を集中させることだ」と主人公ビョルンは言っています。厳密には “集中“ とは “それ” から “それ以外を排除する” ことなので、正式な “マインドフルネス” ではないように感じますが、認知行動療法的に用いるならば “視点の集中” と表現するのも妥当かもしれません。
ドラマのところどころでビョルンが想起する、“マインドフルネス” コーチであるヨシュカ・ブライトナーのアドバイスは参考になります。試しに実践したら「確かに効果があるかも」と思いました。
ロジックの組み立てがわかりやすい
子どもだましな面もありますが「おお、そういうふうに話法を展開すると周囲は納得し、パズルのように物事が上手く運ぶのか」という、ちょっとした “目ウロコ” な口八丁手八丁が繰り広げられます。視聴者は思いも寄らなかったけれど、具体的なシーンとして展開していくとわかりやすい、そんな感じです。
ビョルンの意思によるものだけとは限りませんが、悪徳弁護士(ビョルン)と彼の家族、カルテル、警察などが玉突きのように連鎖して動いていく印象で小気味よく、ビョルンらが手を染めているのは重犯罪であるにも関わらず深刻なムードに陥ることはなく、むしろ軽快な印象をもちます。
1エピソード30~40分なので気軽に視聴できます。
リミテッドシーズではないようなので、評判がよければ続編があるのかもしれません。