ドラマ「モンスターズ:メネンデス兄弟の物語」&ドキュメンタリー「メネンデス兄弟」

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思えば10月はドラマや映画について、ひとつも投稿していませんでした。ということで少し前に観たドラマ「モンスターズ:メネンデス兄弟の物語」、ドキュメンタリー映画「メネンデス兄弟」について書きます。10月24日にロサンゼルス郡の地方検事がメネンデス兄弟の量刑見直しと仮釈放を裁判所に勧告すると発表。タイムリーではあります。

ドラマの後にドキュメンタリー映画を公開するという両輪手法はNetflixにおいて散見され、これまでのところ玉石混交。そんななかで本ドラマ&映画はよくできていると思いました。

あらすじ(事の次第)

1989年8月20日、成功した事業家で資産家のホセ・メネンデスと妻のキティがビバリーヒルズの自宅で銃によって殺害されます。その後2カ月が経過しても犯人逮捕に至らず、マフィアの関与が囁かれていました。

ハロウィーンの時期となり、メネンデス兄弟の弟エリックは心理カウンセリングを行うオジエル医師を訪ね、死んだ両親が毎晩夢に出てくることに心を痛めていると話します。もともと精神面に強靭さを欠いていたエリックは、医師に守秘義務があることを確認したうえで、両親の殺害を兄と共謀して行ったことを告白。それ以外にもエリックには彼らの犯行であることを匂わせる挙動があったようです。その辺りから事件捜査は新たな局面へ。ライルは当時21歳、エリックは18歳。

裕福で社会的成功者の印象が強かったメネンデス家が抱えていた闇、親による精神的/身体的/性的虐待が兄弟によって語られます。しかし裁判はメネンデス兄弟と弁護団の望むようには展開せず、彼らは第1級殺人罪で仮釈放なしの終身刑となります。

ドラマ「モンスターズ:メネンデス兄弟の物語」の構成

メネンデス兄弟が凶行に至った経緯、成育歴などが綴られていきます。支配的な虐待者だった父ホセ・メネンデスが息子たちに与えてきた影響、メネンデス一家の “人となり” が描かれます。

弟エリックがカウンセラーのジェローム・オジエルに犯行を告白しなければ、友人クレイグに殺人の気配をみせることがなければ彼らが事件の真犯人として逮捕されることはなかったか、逮捕までの時期を遅らせることができたと思われます。罪悪感によってカウンセラーに自分たちの犯行だと告白した弟のエリックを、兄ライルはあまり責めることなく、兄弟には親から虐待され続けた者同士としての親愛の絆があったようです。

両親の死をきっかけに浪費・豪遊、メネンデス家の事業を拡大しようとする兄。そんな兄を不安げに見守り行動を共にする弟。性格、性質の違いも俳優たちによって上手に演じられています。

被疑者となってからは、死んだ両親の非道について友人やガールフレンドに偽証するよう主張し始めるライル(裁判を自分たちに有利に導こうという意図ですかね?)。世間の注目を集め、にわかに人気者となってご満悦の兄弟(特にライル。その後いろいろあって彼らの人気は急降下)。死刑反対論者(人権派ってやつでしょうか)の刑事弁護士レスリー・エイブラムソンや検察の法廷戦術、陪審員たちの議論など、興味深い内容です。

登場人物

メネンデス家

(ジョセフ)・ライル・メネンデス:興奮しやすく攻撃的な性格。虚栄心強め。名門プリンストン大学の学生だったが問題を起こして停学となる。ストレスからか10代の頃から禿げたためカツラを装着。よく怒鳴る

エリック・(ゲイレン)・メネンデス:兄ライルに比較して大人しく情緒不安定でもろい。両親殺害の前年にライルと連続窃盗事件に関与。ゲイの傾向がみられた(当人は否定)。俳優志望だったようだが兄ライルのように見栄っ張りではない。よく泣く

ホセ・メネンデス:ライル&エリックの父。キューバからの移民であったが、レコード会社RCAの重役を務めるなどを経てビジネスマンとして大成功。富と名声を築く。息子たちがアメリカ社会の上流階級に食い込むことを願っており、厳しく接した

キティ(メアリー・ルイーズ)・メネンデス:ホセの妻。ライル&エリックの母でアメリカ人。息子によれば、夫ホセの長年の浮気によりドラッグとアルコールの依存症だった

メネンデス家周辺の人たち

《兄ライルの関係者》

ジェイミー・ピサルシック:ライルのガールフレンド。両親は家柄の釣り合わない、ふしだらな娘とみなしてライルとの交際を受け入れなかった

ペリー・バーマン:ライルの友人。ライルは自分たちのアリバイ作りに利用しようとする

グレン・スティーヴンス/ヘイデン・ロジャース:ライルの友人。彼が逮捕された場合の対処を依頼される

マーク・ヘファーナン:ライルの友人。ライルによる脱走計画の協力者として名前が挙がった人物

ドノバン・グッドロー:ライルの大学でのルームメイト。ライルが父親から性的虐待を受けていたことを知っていたとされる。ドノバン自身も性的虐待の被害者だった

ノーマ・ノヴェッリ:ライルの支援者。本を出版したいというライルのために彼の無防備な発言をテープに記録する

アンナ・エリクソン:勾留中のライルの交際相手

《弟エリックの関係者》

ビリー・ライト:エリックの友人。父ランドルフは遺言専門の弁護士

クレイグ・チニャレッリ:エリックの友人。彼とともに脚本(「フレンズ」)を書いた。警察の捜査に協力

タミー:ミネソタ州在住の女性。勾留中のエリックの交際相手

《兄弟ふたりの関係者》

ピーター・ホフマン:ホセがCEOを務める映像会社の役員(たぶん)

カルロス・バラルト:メネンデス兄弟の伯父。ホセの遺言執行人

ジェローム・オジエル:カウンセリングを担当していた医師。ローレルという妻がいる

ジュダロン・スミス:オジエルの愛人で元患者。オジエルからメネンデス兄弟の犯行について聞き、警察に情報提供する

アル:兄弟のいとこ。ふたりが性的虐待を受けていたことについて状況証拠的証言を行う

アンディ・カノ:兄弟のいとこ(ホセ・メンデスの姉マルタの息子)。エリック(12歳当時)から性的虐待を受けていることを聞いていた

ダイアン・ヴァンダーモレン:兄弟のいとこ(キティ・メネンデスの姉ジョアンの娘)。兄弟が母キティと寝るのを嫌がっていたと証言。ライルからホセによる性的虐待の話を聴き、キティに確認するが相手にされなかった

ブライアン・エスラミニア:ライルとエリックの友人。勾留中のライルから偽証を依頼される

《父ホセの関係者》

マルツィ・アイゼンバーグ:仕事仲間(プエルトリコのボーイズバンド「メヌード」関連)

マリア・メネンデス:ホセの母。幼少時のホセに性的虐待を行った。マリア自身も親族から虐待を受けたことがあるようだ

マルタ・カノ:ホセの姉

メネンデス兄弟の弁護人たち

ジェラルド・チャレフ:逮捕以前のメネンデス兄弟の弁護士

ロバート・シャピロ:ジェラルド・チャレフの友人の刑事弁護士。メネンデス兄弟の弁護を担当するが目指していたのが司法取引であったため、親族によって解任される。のちに弁護団のひとりとしてO・J・シンプソンを担当

レスリー・エイブラムソン:ジェラルド・チャレフの紹介でエリックを担当することになる刑事弁護士。離婚した夫との間に成人した娘がいる。新パートナーティム・ルッテン(記者)との間に赤ん坊を迎える。男性陪審員たちにあまり好感をもたれておらず、それが裁判を左右した面があったように描かれている

ウイリアム・ヴィカリー:刑事弁護士レスリー・エイブラムソンによって雇われた司法精神科医

ジル・ランシング:第一審でライルを担当した弁護士。ライルがノーマ・ノヴェッリに行った不用意な発言、弁護費用の枯渇により再審理では担当から降りる

チャールズ・ゲスラー:ジル・ランシングからライルの弁護を引き継いだ公選弁護人

警察関係者

マービン・イアノーネ:ビバリーヒルズ市警察署長

レス・ゼラートム・リネハン:ビバリーヒルズ市警の刑事

モ・エンジェル:ビバリーヒルズ市警の巡査

その他

ドミニク(Dominick)・ダン:娘(Dominique)を殺害された元映画プロデューサー。その犯人を弁護したのがレスリー・エイブラムソンという関係にある。ヴァニティ・フェアの記者でメネンデス事件を取材、彼を囲む人たちに向けてサロン活動みたいなことをしている

パム・ボザニッチ:第一審の検察官

O・J・シンプソン:勾留された独房がエリックの近くであったため(セレブ区画と呼ばれていたらしい)ふたりは会話や情報交換をする。兄弟の親族が解任したロバート・シャピロが弁護を担当

デヴィッド・コン:第二審(再審理)の検察官

スタンリー・ワイズバーグ:裁判を担当した判事

ドキュメンタリー「メネンデス兄弟」の視点

収監されて34年、仮釈放なしの終身刑に服しているメネンデス兄弟に対して20時間に及ぶインタビューを行っています。

ジャーナリスト・作家であるロバート・ランド(「メネンデス・マーダーズ」の著者)らが事件発生当時の超高級住宅地ビバリーヒルズの位置づけを語っています。桁違いのセレブリティ(超富裕層、有名人、芸能人)でもない限り住めない場所でした。そこにメネンデス一家は居住しており、アメリカ国内でも治安のよいエリアとされていました。

およそ殺人事件とは縁遠いビバリーヒルズ。裕福かつ社会的成功者であるメネンデス家の邸宅が惨劇の舞台となったこと自体が異例。息子たちが逮捕されてからは世間の耳目を集めるようになりました。

メネンデス兄弟に対する当時の事情聴取の録音テープや映像、直近のインタビュー、彼らの親族、事件捜査や報道の関係者、陪審員たちへの取材などによって構成されています。ほどよく客観的、網羅的であり、情緒的要素の盛り込み方も常識的な範囲だったので私はよい印象をもちました。

エリックの弁護を担当したレスリー・エイブラムソンについては「聡明で高慢な女性」と紹介。彼女は特に男性陪審員から嫌われており、それが理由で裁判を有利に運ぶことができなかったとドラマで指摘されていましたが、私の目には特段問題のある人物として映りませんでしたし、不快感もありませんでした。気づかなかっただけで、鼻持ちならないところがたくさんあったのかもしれませんね。

機能不全家族、毒親といった言葉はよく聞かれるものですが、メネンデス家がどのように機能不全でホセとキティがどのような面で毒親だったのか、そのような家庭で痛みを負いつつ育った息子たちにどこまで責任を問えるのか、といった面に焦点を当てています。

そして裁判の一審と二審の相違点、なぜ兄弟が第1級殺人で有罪、すなわち仮釈放なしの終身刑となったのかについてドラマよりもテクニカルな見地から解説。ドラマでは登場しなかった専門家たちのコメントも盛り込まれています。

メネンデス兄弟が服役している20年もの間に社会における男児や少年に対する性的虐待の認知度が高まったことで、ふたりの量刑に対して疑問の声をあげる人たちが増えていきました。性的虐待サバイバーとしてのメネンデス兄弟に再び注目が集まるようになっていった経緯も取り上げています。

エリックを担当した刑事弁護士レスリー・エイブラムソンは「30年は長い。過去は過去のままにしたい。メディアや若者の嘆願で2人の運命は変わらない。それができるのは裁判所だけだ」と映画制作者へのメールに書いたそうです。彼女の近況は知りませんが、かつて司法の世界で打ち負かされたことによる無力感を感じ取ることができます。

2023年5月、メネンデス兄弟は判決の無効を求めて嘆願書を提出。2024年10月、彼らの量刑見直しと仮釈放を裁判所に勧告するとロサンゼルス郡検事が発表しました。

感想:「親の因果が子に報い」は普遍的なテーマ

負の連鎖:“毒親の親”もまた“毒親”

私はメネンデス兄弟に対して不憫との思いを大いに抱きます。社会的成功者の父ホセ、彼に選ばれた美しい母キティ、ビバリーヒルズに住み、桁違いの裕福さと社会的影響力。周囲から羨望のまなざしを向けられることが多く、息子たちもそんな家庭環境に優越感をもっていた面があったと思います。

彼らにとって父は “ヒーロー“ または “神のような存在” で、そこが親子関係の出発点。

息子たちは絶対的存在である父に愛されたいと願いましたが、社会的成功者の父は自分のエゴによって決めた基準をクリアしない限り彼らを認めることがなく、思う結果を得られなかったときは罵声や暴力を無慈悲に浴びせました。加えて「男として鍛えるために」という名目で5~6歳の頃から性的虐待を行いました。

母は自分の夫が子どもたちに何をしているかを知っていながら、彼らを守ることはせず黙認。夫ホセには8年来の愛人がいて、息子たちは「母も父の被害者」と思っていたようです。彼女がワンマンな夫の被害者であったことと子どもたちへの虐待を黙認したことは別の問題と私は思いますが、父親だけ殺すほうがむしろ残酷との判断で母親も射殺したと彼らは述べています。

常に条件付きの愛情しか与えられてこなかったため、裕福な家庭という物質的基盤はあっても、生存への信頼や受容といった精神的基盤は絶えず揺らいでいます。ライルは攻撃的な性格だったようですが、支配的な父、夫の行為を咎めない母によって不安、悲しみ、怒りが量産され続け、年月を経て蓄積した恐怖と怒りに背中を押される形で犯行に及んだのでしょう。

メネンデス兄弟はふたりとも獄中で結婚。かつてのエリックに同性愛的傾向がみられたのは愛する父親によって性的に虐待され続けたことによって、自分が異性愛者なのか同性愛者なのかがわからなくなっていたからではないでしょうか。

諸悪の根源のような父ホセもまた、彼の母の性的虐待のターゲットになっていたようにドラマでは描かれています。

“毒親” が “次世代の毒親” を生み、家系の文化/業として連綿とつながっていくのです。傷ついた子どもたちは通常癒されることがなく、親との関わりから学習した間違ったやり方で自分の内面の欠損を埋めようとします。

司法の思惑:“不完全な正当防衛” なき裁判二審

裁判一審ではメネンデス兄弟の犯行が “不完全な正当防衛” なのか否かが問われました(ドキュメンタリー参照)。

“不完全な正当防衛” とは「身の危険を感じるあまりに状況を勘違いして、さほど危険ではなくとも人を殺して自らを防衛しようとすること」。地域社会や大学で問題を起こしていた不出来な息子たちは絶対的権力、支配力を行使する父ホセによって殺されることを怖れていました。「殺さないと殺される」という強迫観念に吞み込まれて銃殺に及んだ、ゆえに故意故殺罪(第2級殺人罪)相当であるという結論に弁護団は持ち込もうとしました。

しかし陪審の意見が割れて審理無効となります。判事のスタンリー・ワイズバーグは無能と評価され、彼は二審での名誉挽回を目論みます。

兄弟の再審はO・J・シンプソン事件において彼(O・J・シンプソン)が無罪となった8日後に開廷。資金と人脈にものを言わせて弁護団「ドリームチーム」を雇うことで無罪を勝ち取ったO・J・シンプソン。彼と彼に対する判決に納得しない人々は多く、その数日後に裁判を迎えたメネンデス兄弟もそのムードの煽りを受けることになります。

スタンリー・ワイズバーグ判事は①兄弟は女性でないため “被虐待症候群” には該当しない、②したがって殺人の言い訳として虐待を持ち出すことを許可しない、という戦術を採ります。兄弟が日常的に父ホセによる虐待に晒されていたことについての証言は法廷で取り上げられず、一審と異なりテレビ中継もなかったため、限られた情報に基づいて陪審員が評決を下すことになりました。第1級殺人罪か、無罪か。第2級殺人罪という選択肢はありません。彼らは両親を射殺していますので無罪になるわけがなく、全陪審員の意見が一致。第1級殺人罪、仮釈放なしの終身刑との評決に至ります。

メネンデス兄弟は量刑に不服として連邦裁判所に上訴。しかし訴えに妥当性が認められないとして却下されます。

当時、性的虐待とは女性に対して行われるものであり、例えば女の子が父親の加虐を怖れて強迫観念に囚われることはあっても、その男の子版は考えにくいという見方が主流だったことも背景にあったと思われます。

その後、男児や少年に対する性的虐待が認められるようになり、メネンデス兄弟の量刑見直しと仮釈放が裁判所に勧告されることになりました。元を辿れば父のホセも性的虐待のサバイバーだったのかもしれません。しかしホセと息子のライル&エリックの関係性においてはホセが100%悪い。非があったのは親の側であって、父ホセの行ったことは非道です。その点は斟酌されるべきと思います。

子どもは親を無条件に愛しますが、親が子どもに無条件の愛を注ぐことは(滅多に)ない。それがこの世の真実なのだなあと感じ入る作品でした。

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