ひょっとしたら、原作があるのかもしれません。「トラップ著『レオ・ベラミの7つの人生』に基づく」とテロップに出ます。高校生が主たる登場人物で、2021年6月15~21日の出来事を描いたもの。手間暇とお金をかけて作ったようには見えません。しかしそれなりに面白く、若いみなさんの演技もなかなかのものですし、犯罪SFであるにも関わらず、ほのぼのした気持ちになる不思議な作品です。原題は “Les 7 vies de Léa” 。
下記のように、立ち位置が複数にまたがるドラマです。
- 白骨化した遺体の発見 ⇒ 犯罪もの。事件性やいかに。殺人だとしたら誰がなぜ殺したのか。
- 目を覚ますと時代を遡って別人になっている ⇒ タイムトラベルの要素あり(ただし意図したものではない)。
- 過去と現在を行き来しているうちに、現在につながる過去を変えねばならないと思うようになる ⇒ ドラマ「アンブレラ・アカデミー」で言うところの『祖父のパラドックス』を解決しなくてはならない。他者理解のプロセスでもある点がヒューマンドラマ的。
「高校生がたくさん出てくるから、ティーンエイジャー対象のドラマ」というわけでもなさそうですし、ストーリーの出発点が白骨化遺体の割には心穏やかに、気楽に楽しめる内容です。フランスの作品はそれほど見ていませんが、どこかしらに脱力感があるものが多いように感じます。
2021年6月15日:白骨化した遺体は誰なのか
2021年6月、ヴァルミー渓谷で白骨化遺体が見つかります。発見者は17歳の女子高校生レア。パーティーでは楽しそうに振る舞っていますが、孤独感に苛まれており、自分に自信がありません。ドラッグで気を紛らわせています。
遺体を発見した日、親に伴われての帰宅後、眠ったレア。翌朝7時に目を覚ますと、そこは30年前の1991年でした。レアはイスマエルという青年になっています。会った事のないアラブ系の両親と弟が自分の家族、自分だけが話せないアラビア語、男の子の身体の不思議のリアル体験。周囲はイスマエルの中身が女子高校生のレアであることに気付きません。それはそうでしょう。未来からやってきたレアなんて、誰も知りませんから。
イスマエルになったレアは、白骨化した遺体と同じ銀のブレスレットをしていることに気付きます。イスマエルの弟に「自分はイスマエルではなく、未来から来たレアなのだ」と訴えます。弟は「それはSFにある、寝ている間に起きる入れ替わりだ。始まった場所に戻らなきゃ」とヴァルミー渓谷へ行くよう促します。
目を覚ますと、レアは “元通りのレア” でした。彼女は1991年で体験したことを基に「見つかった遺体はイスマエル」「彼の死は自殺によるものではない」と主張します。
簡単そうで難しいと思う、別人になっている“レア”の演技
2021年のレアが眠りから覚めると、1991年のイスマエル、母カリーヌや父ステファン、いじわるグループの女王サンドラなど、別人になっています。1991年の別人が眠りから覚めると、2021年のレアに戻っています。
すなわち6月15~21日の7日間にわたってイスマエル役、高校時代の両親役(ステファンとカリーヌ)、サンドラ役など、異なる役者さんたちが “レア” という “ひとつの人格” を共通項として演じることになります。「イスマエルの中に入った “レア” が、サンドラの中に入った “レア” と同じに見えない」のでは困ります。
その点で演技の難易度がやや高いと思うのですね。男性の外見でも中身は女の子、同じ女性でもタイプが異なるので演じ分けが求められます。日本では無名の人ばかりですが、若い役者さんたちが、その違いを上手に表現していて感心しました。
1991年における人間関係の謎解きと修正
レアは1991年へのタイムトラベルでイスマエル、父ステファン、母カリーヌなどの体内に入っているため、イスマエルと両親が親しかったことを知っています。しかし両親はその事実を否定。訝しく感じるレアは、イスマエルの死について仮説を立てます。
レアの両親は、2021年においては湖のほとりでカヌーやカヤックのレンタル業をしていますが、1991年当時は一緒にバンド活動をしている仲間(高校生)でした。「母 ⇒ ギター&ボーカル、父 ⇒ ドラム、イスマエル ⇒ ベース&ボーカル」の3人編成で、パリで演奏することを目指していました。
父と母とイスマエル、この3者の間に何があったのでしょう。母とイスマエルは恋人同士だったのでしょうか。レアは1991年へ行くたびに、いろいろなことを試みて確認/検証します。
1991年との行き来を通じてイスマエルに恋をしたレアは、彼の不慮の死を修正したいと考えます。「きっとこうに違いない」という仮説に基づいて、1991年の別人の身体に入り、人と人とを取り持ち、2021年に戻ってニュースをチェックします。遺体発見のニュースが依然として存在していたなら、レアの1991年における対処は的外れだったことになります。一方で、1991年の人間関係を不用意に変えることが、2021年の各方面に多大な影響を与えてしまうことの危険に彼女は気づきます。
1991年の6月15~21日において「①イスマエル ⇒ ②母カリーヌ ⇒ ③イスマエルと仲の悪いパイ ⇒ ④意地悪女王サンドラ ⇒ ⑤レコード店主のパトリシア ⇒ ⑥父ステファン ⇒ ⑦イスマエル」の順で6人の人生と自分自身の人生を体験するレア。それぞれにコミカルな要素があり、登場人物に対する見方も変わります。私は「④意地悪女王サンドラ」の回が特に好きです。
どの登場人物も、1991年の若い頃と2021年の見た目が似ていないのですが、フランス人には同一人物に見えるのでしょうか。
明らかになる死の真相、レアの選択
レアが1991年との間を行き来し、大変な思いをしながらイスマエルの死を食い止めようとしていた頃、2021年では警察の捜査によって彼の死因が判明します。それは彼女の仮説とは異なったものでした。
娘レアが、イスマエルに関する秘められた過去を蒸し返したことにより、母カリーヌと父ステファンの夫婦関係は破たん。1991年6月20日の「⑥父ステファン」の身体の中にレアが入ることにより、父の真実が明らかになります。
2021年6月21日、白骨化した遺体で発見されたイスマエルの葬儀が執り行われます。葬儀が現実のものになったということは、“1991年のイスマエルの死” を阻止する有効な手立てを、レアが見つけられなかったことを意味します。彼女は1991年6月21日へと移行し、大きな決断をします。
「私は誰かの人生を助けてる?」
全体を通じて17歳の女の子の可愛らしさを感じる描写が多く、ときにお茶目で心を打つ、そんなオハナシ。なかなかいいドラマだと思います。