何がどうとか、ことさら考察しなくても楽しめる作品。派手なアクションの多いサスペンスドラマでシーズン2のリリースが決定しています。原題は “Reacher” あるいは “Magic”。リー・チャイルドによるジャック・リーチャー・シリーズのうち「キリング・フロアー」をベースにしています。
ジョージア州マーグレイヴという街が舞台。“マーグレイヴ” は “辺境伯” という意味。そもそも “辺境伯” という言葉に馴染みがないわけですが「ヨーロッパにおける貴族の称号の一種。中央から離れて大きな権限を認められた地方長官」を指すとのこと。
撮影のため、カナダのオンタリオ州ノースピカリングに仮設の町並みを建設して “マーグレイヴ” を作りました。その他の場面もオンタリオ州内で撮影したようです。ベネズエラとか沖縄とかも物語には登場しますが、ほぼカナダで撮影しているところがすごいですね。そういう予備知識がなくても、少年時代の主人公が暮らした沖縄がこれっぽっちも沖縄に見えません。米軍ハウスは世界各地、どこのものでも同じかもしれませんが、空や木々や土が沖縄じゃないんですよ。
主人公ジャック・リーチャーについて
主人公ジャック・リーチャーは幾度も表彰された元軍人で、軍警察の第110特別捜査部隊を指揮していた時期もあります。物語が始まった時点では、それらの職を離れて自由な放浪生活を送っています。怪物のような大きく逞しい身体をもち、頭脳明晰で強靭な男性です。演じているのはアラン・リッチソン。大きくて強くて負け知らずの役柄から、かつてのシュワルツェネッガーを思い出します(私だけかもしれません)。
余談ですが、アーノルド・シュワルツェネッガー(オーストリア出身)の役どころの特徴は「アメリカ人にとっての外国人」というところにあり、訛った英語さばきが面白さのポイントなのだそうです。日本人は吹き替えや字幕に意識を集中することもあって、アメリカ人にとってのツボがそこであることに気付きません。一方のアラン・リッチソンはノースダコタ州生まれのアメリカ人。父は軍人で各地を転属、世界各地を転々としたリーチャーの役柄に似たバックボーンをもっています。
導入部あらすじ
深夜のハイウェイ脇でチェック柄のシャツを着た男が銃で撃たれ暴行されます。翌朝、主人公ジャック・リーチャーは都市間を走るグレイハウンドのバスから広大な土地に降り立ち「マーグレイヴへようこそ。クライナー財団」という看板を通り過ぎます。ダイナーに入って注文をしますが、ベイカー巡査とスティーブンソン巡査によって殺人容疑で逮捕され、警察へ連行されます。リーチャーはオスカー・フィンリー警部、女性巡査のロスコー・コンクリンによって取り調べを受けます。
ハイウェイ脇の殺人を自白した銀行員ポール・ハブルとともにリーチャーは地元の刑務所へと送られます。そこで彼らは命を狙われます。ポールもリーチャーも真犯人ではないため釈放されます。その後ふたり目の死体が発見され、リーチャーは最初の犠牲者が兄のジョーであることを知ります。リーチャーは事件の真相を突き止めることを誓います。
主要な登場人物
[警察関係者]
ジャック・リーチャー : 元アメリカ軍人、元軍警察特別捜査官。道理と正義を貫く男。犬にも優しい。大柄で逞しく力がある。一方で頭脳明晰で推理や分析に長けている。既に警察関係者ではないが、警察と協力し合って捜査にあたる
オスカー・フィンリー:マーグレイヴ警察の警部、ハーバード大学卒。ボストン警察から異動してきた。リーチャーと捜査にあたる
ロスコー・コンクリン:マーグレイヴ警察の巡査。リーチャーと捜査にあたる。互いに好意をもつ。コンクリン家もかつてはマーグレイヴの有力者だった
ベイカー:マーグレイヴ警察の巡査
スティーヴンソン:マーグレイヴ警察の警官。ポール・ハブルの妻チャーリーは、妊娠中の妻の従姉妹にあたる
ジャスパー : 検視官
モリソン:マーグレイヴ警察の署長。特徴的な方法で殺害される
ピカード : FBIアトランタ支局の捜査官。オスカー・フィンリーの友人
フランセス・ニーグリー : 私立探偵。かつて軍警察で特別捜査官としてリーチャーの元で働いていた
オコイン: メンフィス警察の巡査。リビドーと組んでいる
リビドー: メンフィス警察の巡査
[ハイウェイ脇殺人事件の関係者]
ポール・ハブル:マーグレイヴの銀行員。妻チャーリーとふたりの娘ルーシーとタリーがいる
ジョー・リーチャー : ジャックの2歳上の兄。国土安全保障省シークレットサービスの捜査局長で通貨偽造対策課の指揮を執っていた
タナー・スパイヴィー : 汚職刑務官
ピート・ジョブリン : サウスフレイト運輸のトラック運転手
モリー・ベス・ゴードン : ジョー・リーチャー(ジャックの兄)の同僚。国土安全保障省シークレットサービスの特別捜査官
ステファニー・カスティーリョ : コロンビア大学の教授。表向きの専門は金融政策
[マーグレイヴの有力者]
グローヴァー・ティール : マーグレイヴ町長。有利な条件を提示して5年前にクライナー一族を町に誘致。モリソンが殺されたことで警察署長を兼任する
クライナー・シニア : 財団やコングロマリットによって町への投資を行っている
クライナー・ジュニア(KJ) : クライナー・シニアのドラ息子
ドーソン : クライナー・シニアの甥。KJの従兄弟。やはりロクでもない
本作品のポイント
[優れているところ]
- 小説ベースのためか物語仕立て(構成やプロット)がよくできている
- テンポがよく描写に無駄がない
- 結末をそれなりに予想できる(ワケがわからな過ぎて脱落する、ということがない)
- 予想外の展開や山場の設け方が上手(いくつものクライマックスがあり、事件の黒幕がなかなかわからない点がよい)
- アクションや戦闘シーンが本格的
- 主人公リーチャーにまつわるLOVEネタがくどくない。ちょうどよい
- シーズンごとに物語が区切られていそう(次のシーズンに事件を持ち越されると思い出さねばならないことが増える)
[微妙なところ]
- 主人公リーチャーが超人過ぎる(情緒面でのブレや揺れが少なく人間味に欠けているように感じるときがある。怒りの沸点は低いように見えるし、それなりに涙を流したり、動揺したり、LOVEアフェアがあったりもするのだが)
- リーチャー(いい年をした大人)の母のビジュアルが、リーチャー12歳当時からほぼ変化していない。しかも晩年はフランス語でも話す。「リーチャーにはフランスの血が流れているらしい」ことが突然わかる。しかしストーリーとの関連性がみえない
[トリビア]
- 主人公を演じるアラン・リッチソンは撮影中、手術を必要とするレベルの肩の骨折をした(痛ーい!)
- さらに戦うシーンでは腹筋が切れた(どういう状況?)
- エピソード8の終わり、ダイナーでリーチャーとすれ違うのが本作の著者リー・チャイルド
そしてシーズン2へ
主人公リーチャーは放浪者という設定なので、事件が終わるとその街やそこで培った人間関係から離れるようです。
もろもろをリセットして新たな物語を始めるとしたらいいですね。ただし主人公リーチャーがずっとあのままだと行動や反応のパターンが機械的に見え過ぎて、先々マンネリに陥るような気がします。そうなると事件のトリックや周囲の状況(登場人物など)に趣向を凝らして起伏を作る必要が出てきます。それならそれでもOKですが、リーチャーの人間としての幅も見てみたいです。
サスペンスは好き。しかしアクションに重点を置いたものはそれほどでもないので視聴していませんでした。観てみれば面白かったのでシーズン2を楽しみにしています。