イスラエルで非常に人気があり、たくさんの賞を獲得しているドラマです。イスラエル外でも評価がとても高いようです。イスラエルは一度訪問したことがあります。とてもいいところでした。かなうものなら、もう一度渡航したいくらいです。しかしイスラエルは特殊な国でもあります。そういうエリアで、こういったドラマが放映されていて、とても人気がある、ということに驚きました。
(てっとり早く、各シーズンの導入部分のあらすじや主要メンバーを知りたい方はコチラへ)
主役&監督のリオル・ラズは、イラク・アルジェリア系移民で、かつてはイスラエル国防軍のエリートアンダーカバーテロ対策ユニットのメンバーでした。アンダーカバーということは覆面捜査、潜入捜査等をしていたのでしょうか。イスラエルはテロ案件に事欠かないでしょうから、仕事がたくさんありそうです。兵役後はアメリカでアーノルド・シュワルツェネッガーのボディーガードをしており、後年、演技の世界に入ったのは、そこで見聞きしたことが関係しているのかもしれません。考えてみれば、晒される危険が架空かホンモノかの違いはありますが、潜入捜査ってお芝居ですしね。親近性があります。
さて「ファウダ-報復の連鎖-」 は、大ざっぱに言うと、イスラエル国防軍特殊部隊とイスラム原理主義組織ハマスやISIS(シリア・イスラム国)、ガザ地区の戦い。細かく言うと、こちらの身内が殺され、あちらの身内も殺され、互いに報復を誓い、あの手この手で敵を征しようとする話。あの手この手が、些細なことから大掛かりなことまで非常に手が込んでいて、テロリストもテロを防ごうとする側も、まあ大変なことです。「●●は死んだ」と見せかけ、実は潜伏中というのは、この世界ではよくあることなんだと思いました。
イスラエル側と反政府組織側とは、つまるところ「ユダヤ人」と「アラブ人(かつイスラム教徒)」。
旧約聖書に伝えられる三大宗教の父アブラハムと正妻サライとの間に生まれた子どもは「ユダヤ人」の先祖、奴隷女のハガルとの間に生まれた子どもは「アラブ人」の先祖とされています。「彼(ハガルとの子イシュマエル)は野驢馬のような人になるだろう。その手はすべての人に敵し、すべての人の手は彼に敵する。そのすべての兄弟たちに対峙して彼は住むだろう」とヤハウェの使いはハガルに言います。この辺りから火種は始まっているのです。聖書の文脈をどう読むかは難しいところですが「アラブ人=面倒を起こす厄介者」「ユダヤ人=神に選ばれし者」みたいで、にわかに信じがたいというのが正直なところ。
このドラマはイスラエル側と反政府組織側、どちらかに肩入れして描かれてはいません。攻防を両方の視点から描いているので、比較的公正な立場からの制作と感じます。
さてリオル・ラズ演じる 「ファウダ-報復の連鎖-」の主人公ドロン。「HOMELAND」のキャリー・マティソンに相当する存在とも表現できます。どちらも周囲の意見を聞かずに突っ走ります。
ドロンは特殊部隊を辞め、ブドウを栽培したり、ワインを醸造したりする暮らしを家族と送っていました。そこへ死んだと思われていたハマスのテロリストが生存していることの知らせを受け、本当にそのテロリストが生きているかどうかの確認に協力することになります。計画は上手くいかず、納得のいかないドロンは部隊に復帰、独断専行気味の粘り強さでテロ組織を追いつめていきます。
タフで勇敢で使命感があり、強くて(=なかなかくたばらず)総じて優秀なのだろうけれど、こんなにも上司や同僚の言うことに耳を貸さない人でもいいんでしょうかね、特殊部隊のメンバーとして。そんな疑問が浮かびます。
ともあれ潜入して敵の中枢に入り込むなど、命がけで動きまくり、私情にも流されるドロンを中心に息をつかせぬ展開の嵐ですし、イスラエルの景観や宗教世界の習俗盛沢山という点からも興味深いドラマです。銃撃戦やアクションも臨場感に溢れています。イスラエルのエンタメの底力を感じます。
「ガリ」とか「サギ」とか、登場人物の名前が面白いです。現在日本で見られるのはシーズン1~3、シーズン4はイスラエルでは既に公開されているようで、日本でのリリースが楽しみです。
[追記1]このたびリリースされた「ファウダ」シーズン4(+シーズン1~3のおさらい)についてはコチラ。出演者情報も追加しました。
[追記2]「ファウダ」のアブ・アハメド(パンサー)役、ワリード役、アブ・サマラ役、アヴィハイ役らは、ノルウェーとの合作ドラマ「オスロの少女」にも出演しています。