「わりと早々にやはり来た!」という感じの新ドラマシリーズ。
「ボッシュ:受け継がれるもの」が尻切れトンボで打ち切りとなり、「このタイトルにある “受け継がれるもの” って何だったのか、わからずじまいで終わってしまった」と思っていた私。そういう視聴者側の心情はともかく、とっくの昔に次のスピンオフドラマの製作に取り掛かっていたんですね。原題は “Ballard” といたってシンプル。
「ボッシュ:受け継がれるもの」シーズン3の最終エピソードで登場した刑事レネイ・バラード。彼女が本作の主人公で、私立探偵ハリー・ボッシュはたまに登場する先達、アドバイザーといった位置づけです。モー、ハニー・チャンドラー、そして懐かしの刑事ジェリー・エドガー(ハリーの元相棒)も少しだけ登場。マディは出てきません。総じて新顔で展開していく新機軸ドラマです。
いろんな未解決事件が出てきて少しガチャガチャしていますが、私の好きなトーン&マナーの作品でした。シーズン2へ続くことを前提に作られています。
あらすじ
ロス市警の刑事レネイ・バラードは未解決事件捜査班を指揮しています。拠点はアーマンソン警察訓練所の地下。他国のドラマ(「沈黙の墓地」とか「特捜部Q」とか)でもそうですが、未解決捜査班は資料室の隅っこみたいな場所を与えられることが多いですね。
未解決捜査班はもともと、パールマン議員の妹サラ殺害事件を解決するために議員の肝煎りで設置されたばかりの部署。その意味では本質的に公益性はなく、特定の人物のために用意されたチームです。予算も不十分でレネイ刑事を除き、予備警官を含むボランティアによってサポートされています。リタイア人材、ボランティアを活用している点も他国の未解決捜査班ドラマと同じです。
未解決捜査班新設には、そういった忖度以外にも事情があり、レネイ刑事は先に在籍していた強盗殺人課で問題を起こし、同僚たちとの間に軋轢が生じていました。それもあって彼女の側が異動となったようです。
- 前述のサラ・パールマン殺害事件(2001年)の真相を追うのが未解決捜査班の本来的かつ最大のタスク
- それ以外にも2020年の身元不明遺体事件を再捜査。退職した警官ザミラ・パーカーを復職させる(彼女にはマイノリティとしての志がある)。ロス市警によって何かが隠匿された形跡があると彼女は言う
- それ以外にもローラ・ウィルソン殺害事件(2008年)、大学生ニック不審死事件(2006年)などを取り上げる(互いに関連が出てきたりするし、実際のところ複数事案を追っているのが警察としての自然な姿)。失礼ながら単なる埋め草のような事件もある
- たまに私立探偵ハリー・ボッシュが絡む(私はやっぱりハリーが好き)
- 伏線のひとつとしてレネイ刑事が強盗殺人課にいた当時、同僚たちの裏切り/ハラスメントにあった経緯やトラウマも明らかにされていく
- ザミラ・パーカーがロス市警を退職した理由も明らかにされていく
- 未解決捜査班が満身創痍で取り組んでいた捜査のいくつかは強盗殺人課に持っていかれる
- それでも未解決捜査班の尽力により、ロス市警(汚職警官ら)が関与する闇社会の陰謀が少しずつ暴き出されていくのだが…
という内容/構成になっています。
登場人物
ロス市警関係者
未解決捜査班
- レネイ・バラード:タフで男前で女っぷりもよいロス市警の刑事。本作では未解決捜査班を指揮している。トゥトゥはルームメイト(祖母であるらしい)。ローラは愛犬。サーフィンが好きで、ライフガードのアーロン(気のせいか、あまりかっこよくない)とはときどきいい仲
- トーマス・ラフォン:レネイが刑事になった際の最初の相棒。数年前にリタイアしたが未解決捜査班に呼び戻された。ゲイのパートナー(レオ)がいる
- テッド・ロウルズ:未解決捜査班のメンバー。パールマン議員の高校時代からの友人。キャリア12年の予備警官であり、民間警備会社を経営。雇っている警備員のひとりがアンドレイ
- コリーン・ハタラス:未解決捜査班のメンバー。ボランティアだが、謎の直感とセンスがある
- マルティナ・カストロ:未解決捜査班のメンバー。学生インターンであり、書類整理を担当
- ザミラ・パーカー:強盗殺人課の元警官。2020年の身元不明遺体捜査を担当していた。レネイ刑事に口説かれて未解決捜査班として現場復帰。祖父も元警官
強盗殺人課
- ロバート・オリーヴァス:刑事。レネイ刑事との間に過去のわだかまりがある。ザミラ・パーカーの元相棒。彼女との間にもわだかまりがある。妻はジャネット
- ケン・チャステイン:レネイ刑事の元相棒。彼女との間に過去のわだかまりがある。物語の途中で死んでしまうのだが、葬式に「ボッシュ」シリーズでおなじみの退職デカ2人組(「ビア樽」&「デカ箱」コンビ)も参列。「ビア樽」がスピーチをしており、ケンの最初の相棒が「ビア樽」だったことが判明する
- ピンテロ:オリーヴァスやチャンステインの仲間の刑事
- リデル:サラ・パールマン殺害事件捜査を未解決捜査班から引き継いだ刑事
特別捜査部(SIS)
- ジェラルド・ウィリス:刑事。チームを指揮
- コグリン:刑事。未解決事件捜査班のレネイ刑事としばしば意見が対立
その他
- ヒューズ:本部長。当人は出てこない
- ベルチェム:警部。レネイ刑事の理解者
- ダーシー:車いすのラボメンバー
- ネイロン:ヴァレー管区の刑事。管区とは地域・交通局 (Office of Operations)における管轄。ヴァンナイズ、ミッション、ノースハリウッド、フットヒル、デヴォンシャー、ウエストヴァレー、トパンガの各警察署とヴァレー地区交通隊を担当している
- フレディ:火器分析班メンバー。銃/銃弾に関する鑑定を行う
- マニー(エマニュエル)・サントス:ロス市警の警官。インターンのマルティナに接近する
- チャック・トーリ:ロス市警の警官
- ダーメン・ピンチャー:ロス市警の警官
- シンディ・ブンシュー:ロス市警の警官
各事件の関係者
[重要度:高]サラ・パールマン殺害事件(2001年)関係者
- ジェイク・パールマン:市議会議員。妹サラ(当時16歳)を何者かによって殺害された。ゲイリーという父がいる
- ネルソン・ヘイスティングス:パールマン議員の友人(政治家らしい)。警察とのパイプ役だが、パールマン議員単独で乗り込んでくることも多く、役割が今ひとつわからない
- ブライアン・リッチモンド:サラの元ボーイフレンド。タトゥの彫師
- ナオミ・ベネット:事件の関与が疑われた女性。元美容師
- ケイシー・ロビンス:かつてナオミの働く美容院の隣の飲食店で働いていた。現在は母ヘレンと暮らしている
[重要度:高]身元不明遺体事件(2020年)関係者
- 身元不明遺体:メキシコ系男性で子ども連れだった。後にルイス・イバラという名であることが判明(所属組織:サカテカス・ヌエバス)
- スペンサー:モーテル “サンビーム・ロッジ” の従業員
- ユリア・クラベツ:モーテルの清掃係。ウクライナからの不法移民
- クラウディア:モーテルの清掃係で不法移民
- レナータ・カルデナス:モーテルの元従業員
- ドローレス:美容室を経営。ユリアやクラウディアの知人
- ショーン・“フロスティ”・ライト:薬物中毒者。精神疾患がある
- チャーリー・グラント:かつてロス市警の風紀課に所属していた元刑事
- ハビエル・フエンテス:ギャングの一員。サウスイースト管区で2023年11月に発生した銃の不法所持/発砲の罪で服役中
- ダマーニ:ハビエルを担当している恐らくは弁護士(刑事たちがジャケットに付けている襟章がない)。別件でハイメ・オチョアの釈放にも関わる
- アンソニー・ドリスコル:ロス市警の元警官。2022年に辞職
- トレハーノ:DEA捜査官。2018年に “ホホジロ” 作戦部隊を指揮
- アブリル・コルテス:ルイス・イバラの恋人
- ヘスース・ベラスコ:カルテルの男
[重要度:高]ローラ・ウィルソン殺害事件(2008年)関係者
- ローラ・ウィルソン:被害者。女優の卵の黒人女性。捜査を担当したのが当時、市警刑事だったハリー・ボッシュ
- ハーモン・ハリス:演技クラスの講師でゲイ
- アダム・レノックス:ローラの友人。ハリスの生徒だった。ケータリング業を営んでいる
- ザンダー・コールマン:青いフォードのバンの登録者
- ジェニー・ギャリソン:青いフォードのバンの登録者。元夫はマイク。彼との間に娘トリッシュがいる
- デニース・マッケンジー:マイク・ギャリソンの浮気相手。28年前に消息不明となっている
- ポーラ・ホプキンソン:クレストラインを所轄とする警部。マイク・ギャリソンの件でレネイ刑事と面会する
- ジョジー・カルヴァー:バレー・ビレッジで起きた未解決事件の被害者。当時29歳で選挙運動のボランティアをしていた。ローラの事件とのつながりが疑われた
- エレナ・セルバンテス:マイクの借りていた倉庫に彼女の遺留品(婚約者ハイメ・オチョアが贈ったブレスレット)があった
[重要度:中~低]挿話的位置づけの事件
[ニック・サッチャー転落死事件(2006年)関係者]
- ラケル・サッチャー:兄ニック(当時大学生)の死に友愛会が絡んでいると主張している
- カイル・バーネット:友愛会のメンバー。弁護士
- ダン・ギブソン:友愛会のメンバー。弁護士
- ジョーイ・ルーカス:友愛会のメンバー。コールズデパートの店長
- ルーシー・ダンカン:女子友愛会のメンバー。ニックが死ぬ前日に肉体関係をもった女性
- メレディス・ヘインズ:ニックの元ガールフレンド
[キャシー・グッドマン殺害事件(1998年)関係者]
- キャシー・グッドマン:被害者で当時27歳。ラスベガスをひとり旅していていてモーテルで絞殺された
[レイ・リー失踪殺害事件(2017年)関係者]
- レヒョン(レイ)・リー:当時は高校生。コリアンタウンのギャング集団 “アジアンG” に所属していた
- リリアン・リー:レヒョン(レイ)の母。ジュンという次男がいる
- マーカス・ジョン:レイと揉めた男子生徒
- クリスタ・フォートソン:発見された銃の所有者。エディという弟がいる
- ネイサン・キム:高校の教師
感想・メモ:今のところ、かなり面白い
正義を守る立場の人間と闇社会のもつれが気を持たせる
シーズン1はロス市警(汚職警官ら)を糸口に彼らが関与していた闇社会の陰謀へと迫りそうなところで横槍が入って終了(それは地方検事ハニー・チャンドラーの判断によるものでもあり、レネイ刑事はいたく憤慨)。
物語にはその続きがあるはずで100%、シーズン2がないとおかしい作りになっています。
言ってみれば汚職警官(小遣いが欲しいとか)は闇社会のコマであり雑魚なので、裏にはもっと力をもった大物が控えていることが窺えます。しかし、それを紐解かんとしたところで寸止めに遭い(ネタバレなので伏せておきますが衝撃的な事件が最後に起こり)私たちは次のシーズンを心待ちにすることになります。
闇社会、カルテル、政財界、警察のつながりはいろんな映画/ドラマで描かれてきましたが、「バラード 未解決事件捜査班」がどのように魅せてくれるのか、とても楽しみになりました。
「ボッシュ:受け継がれるもの」とは風味の異なるよさがある
私はハリー・ボッシュが好きなので、本来なら「BOSCH/ボッシュ」のように彼の出番が多いほうが嬉しいのです。そのスピンオフ「ボッシュ:受け継がれるもの」は娘マディの成長物語を含んだファミリーテイストが強く、ほっこりしたり、警察とは異なる私立探偵の世界を味わえたり、それはそれでよかったし、好きな作品でした。
正直なところ「バラード 未解決事件捜査班」にはあまり期待していませんでした。しかし観てみると「ボッシュ:受け継がれるもの」とは異なる面白さ/よさがあります。今のところ「バラード 未解決事件捜査班」のほうが好きです。
「ボッシュ:受け継がれるもの」の最終エピソードにレネイ・バラード刑事が登場した際は彼女の魅力が今ひとつピンとこなかったのですが、喜怒哀楽等の感情表現がほどよいレンジに入っていて、スッキリとした美人で性格が男前というところが気に入りました。マディ・ボッシュ巡査同様に、あの細身で無法者らと格闘するのは無理がありますが(もっと体重を増やしたほうがリアルに感じられる)。
出演者について少しだけ
レネイ・バラードを演じるマギー・Q。名前は以前から知っていました。しかし出演作をほぼ視聴したことがありませんでした(観ていても印象に残っていない)。東洋人の血が混じっていることは、そのルックスからわかります。母親がベトナム人なんですね。キャリアを本格的に開始したのは香港のようですが、中国系の血筋ではないのが面白いところ。
車いすのラボメンバー、ダーシーを演じているのはダニエル・プレス。ダニエル自身も車いす生活を送っているそうです。
強盗殺人課の刑事ロバート・オリーヴァスを演じるリカルド・チャビラ。大昔「デスパレートな妻たち」という超面白いドラマがありまして、そこでカルロス・ソリス(ガブリエルの夫)を演じていた人です。私が視聴するタイプの映画/ドラマに登場することがなく、久しぶりの再会です。