“Home”(存在基盤)
前シーズンのヒットにより、ナバロカレッジのチアは非常に注目を集めるようになり、コーチや選手はチアの世界だけでなく、広い世界での有名人となります。そこでセレブリティとして扱われ天国のような機会を得ること、衆目のなかで地獄に落とされること、その両方を体験します。
後者のなかでも大きかったのが、2019年にナバロカレッジが優勝した際のメンバーであるジェリー・ハリスが、少年たちから性虐待を受けたという告発をしたことでした。…というところからシーズン2がスタートします。
アメリカの教育システムがよく分からないのですが、逮捕される以前に、ジェリーは「自分に合わなかった」という理由で進学先の大学からナバロへ戻ってきています。ラダリウス、レキシー、ガビも一旦は大学から離れたものの「再びナバロのみんなとチアをしたい」と復帰しています。一方で2020年当時、モーガンはナバロに在学中でした。
声高な主張をせず、なすべきことを黙々となす、謙虚で情緒の安定した可愛いモーガンが私は好きです。レキシーは「普通」からかなりズレたところでマイペースで生きていてキュートだし、ガビ様は瞳の色を含めてお美しいと思います。ジェリーとラダリウスは男性(ゲイ)で、ジェリーは愛嬌のあるムード―メーカーだけど一瞬の表情が二面性を感じさせます。ラダリウスは心に傷と痛みを多くもっている人なのでしょうね、真摯に向き合う相手としては厄介でしょう。彼らは「チアの女王・シーズン1」を経て認知度がさらに高まったので、メディアにも多数露出し、チームの活動資金を得ることにも協力しています。
一方、ナバロカレッジ(デイトナ大会において14回制覇)東60㎞のところにあるのが、かつての王者トリニティヴァレーコミュニティカレッジ(同、過去11回制覇)。コーチのボンティは着任して3年目であり「インスタを使う人、有名人はうちのチームには要らない。トップを目指す人にだけ来てほしい」と言います。積極的にSNSやマスメディアに打って出るナバロとは対照的に “硬派” ってやつですね。過去には「TVCCのチアに合格できなかった人がナバロへ行っていた」ようですが、コーチのモニカがナバロを強豪校に育て上げてからは決して優勢ではなくなりました。
ナバロのコーチであるモニカは、クセの強い、個性的な選手をスターに仕上げていくのが上手なように見えます。TVCCのボンティは自己顕示欲の強い選手を引き立てることはせず「性格を大切にする。誰でも教えればちゃんとできる」と言います。
両校のカラーは異なりますが、トップに輝く強いチームになるために「チームが家族であること」を大切しているのは同じです。OBたちも「勝利を得たいのならば、チームが家族にならなければいけない」と折に触れ、後輩たちに説いて諭します。「勝負に勝つため」という目的がまずあり、「そのためにチームが家族同然であることを大切にする」という順序ではあるのですが、自分にとっての強く安定した基盤(「家」)だから、一旦チームを離れた選手たちも「みんなのところへ戻りたい」「仲間は自分にとって家族のようなもの」「また一緒にみんなでチアをしたい」と言って戻ってきます。
特にナバロでは「モニカは母親のような存在」「モニカに必要とされたい」という声が大きく、個性の強いスターを育てるだけあって彼女自身もカリスマなのでしょう。モニカも選手たちを「自分の子ども同然」と言っていますし、手を抜いた関わり方をしません。
本ドキュメンタリーの原題は “CHEER”、邦題は「チアの女王」。恐らくシーズン1制作当初、モニカを「チアの女王」に見立てて邦題を決定したのでは。
「モニカは私たちを鼓舞してくれる。彼女から賞賛を受けると、人間として成長していると感じるわ」
(マディ/ナバロのトップ&フライヤー)
ドラマチックでストーリー性があるので、ドキュメンタリーでは生い立ちや家族に問題を抱えている選手をより多く取り上げるという側面もあるのでしょうが、それを差し引いてもトップクラスの選手には家族や家庭に深刻な問題のある人たちが多いようです(奨学金を得て在籍している)。
貧困・暴力・麻薬・犯罪・家庭不和。何かが欠落した家庭に育った彼らは「理想の我が家(自分が安心していられる基盤)」をチームに見出します。励まし合い、互いの良いところをフィードバックし、困ったときには手を差し伸べ、本音や弱みを見せあい、とことん話し合い、厳しい練習を乗り越えていきます。虐待ではなく前向きな厳しさ、温かさ、深い関わり合いによる相互理解。一緒に過ごす時間が長く、競技の性質上スキンシップも豊富ですし、「大好き」「愛してる」等、互いを労り称え合うハグも頻繁です。
実際のところ、それらをすべて備えた家族は多くないでしょうし、問題のまったくない家庭は存在しないことから、コーチを含むチームが、選手にとって欠け替えのない基盤となることは想像に難くありません。
やがて巣立つときがやってくるものの、苦楽をともにしたチームは心の拠り所、離れがたいのです。
楽しいことばかりではないけれど「理想の我が家」に求めているものがほぼすべて揃う、それが大学チアのトップチームであり、その要件を満たしているチームこそが、選手の潜在能力を十二分に開花させることができるのだなあと感じました。