タイムスリップものの映画やドラマはいろいろあれど英米共同制作の「アウトランダー」とドイツ制作の「ダーク」は、それぞれの制作や舞台の特色がはっきり見て取れる作品と思います。
まずは「アウトランダー」。現在日本で公開されているのはシーズン5まで。シーズン7までの制作は既に決まっているようです。ラブシーンやシーズンによっては拷問シーンが多く、しかも尺が長いです。「そういうのはちょっと」という方は、その手のシーンの間に周囲の片付けをするとか、床に掃除機をかけるとか、料理の下ごしらえをするとかするといいのではないでしょうか。家族と観るドラマではないのは確か。原作はハーレクインロマンス的な小説らしいです。
官能的なシーンが多い点はハーレクインロマンス的ですが(実は「ハーレクインロマンス」を読んだことがないのでよく分からない)、かなりよく出来たドラマではないかと思います(俳優陣の演技が見事、ということを含む)。女性の好むアドベンチャーとロマンスの絡み合いの色は濃いかもしれません。しかしスコットランド、パリ、アメリカと、時代ごとの文化伝統や習俗の描写も丁寧ですし、ストーリーも風景も壮大で、見ていて楽しいです。
「アウトランダー」では20世紀から18世紀へと、主人公クレアがタイムスリップします。そこが話のスタート地点です。
- クレアは20世紀においてはイングランドの人妻(クレアの認識としてはこちらが先の出来事)
- タイムスリップした18世紀でスコットランドの青年ジェイミーと結婚(クレアの認識としてはこちらの結婚のほうが後の出来事)
- 18世紀の事柄がどんな形でその後の歴史を作っていくかを、クレアは既に知っている。なぜなら未来から来た人だから
- 20世紀の愛する人たちのことを考えると、変えたくても変えるわけにはいかない18世紀の現実もあれば、未来がどうなるかを知っているがゆえ18世紀の人たちの選択を変えさせようという試みもする
時間があることによって因果律(原因と結果)を生む空間に私たちは生きています。時間と空間があることによって人間の世界にはストーリー(ドラマ)が生まれます。時間がなければ認知しうる空間もないし、ストーリーや歴史の存在する余地がありません。
20世紀から18世紀へとタイムスリップしたクレア。その後「妻クレアとお腹の子どもの命を守りたい」という18世紀に生きるジェイミーの強い意向により、ひとり(+お腹の子ども)で再び20世紀に戻り、ジェイミーと生きた時代の記録を振り返ります。死を覚悟して臨んだカロデンの戦い(注・ジャコバイト軍とグレートブリテン王国軍が戦いジャコバイト軍が完敗する)の直前に彼と連名で署名した書類、永遠の別れを予感して彼に渡したお守りを再び目にする、といったことが起こります。
私たちは今の自分につながる連綿とした歴史をリアルで知ることがありません。今のこの人生以外もリアルに知っていれば、莫大な量のストーリーを体験していることになります。今の私が、ここにかくあるのは、現在と同時に存在しているようには感じられない “自分やあの人やこの人” の強さや弱さ、努力と怠慢、愛と憎しみ、葛藤や苦しみ、決断や勇気と優柔不断等の賜物でもある、というリアリティや実感が生じます。「アウトランダー」を観ていると、今は見ることのない時間と空間のつながりに対する感謝の念が湧いてきます。
今の人生において可視化されてこない過去や未来の多くの人たちもまた、心身に限界や克服できない愚かさを持ちながら、そのときの、その人の立場において必死だったということを知ります。
そんな視点でドラマを観ていると、エロが多いと言われる点についても、それなりの必然性があると感じられてきます。
「アウトランダー」では、20世紀の世界と18世紀の世界がパラレルにあって1日や1年の経過する速度はどちらも同じに設定されているのではないかと思います。またどちらかの世界にいるときは、もうひとつの世界では行方不明となるようです。
タイムスリップもの、SFファンタジーではありますが、ストーリーの基底をなす構造がシンプルです。そんなところがハーレクインロマンスに喩えられる所以かもしれません。ゆえに分かりやすく面白いドラマになっている面があるのだろうと思います。