私が利用しているのはNetflixとAmazonプライムビデオです。何か作品を視聴すると同じ傾向の作品がオススメされます。そのような経緯により映画「スヘルデの戦い」に続いて映画「正義のレジスタンス(原題:THE RESISTANCE BANKER)」を取り上げます。
映画「スヘルデの戦い」にもあるように、第二次世界大戦中のオランダの人々をざっくり分けると①ナチスドイツシンパ(ドイツ軍として戦う人々を含む)、②反ファシズムのレジスタンス、③ “①と②の間のどこか” に位置する人々、という3種類となります。
“レジスタンス” とは
レジスタンスとは “抵抗運動” を指し、オランダに限らず、いろんな国でみられます。フランス、ポーランド、ソビエト、ユーゴスラビアの抵抗運動も有名です。
抵抗運動といっても内容や段階には違いがあり、整理するとおおよそ以下のようです。
[レジスタンスの内容や段階]
- 非暴力
- サボタージュ/ストライキ/デモ など
- 武装
- 重要拠点の襲撃/連合国軍と協力しての蜂起/継続的な戦闘/ゲリラ戦 など
- スパイ活動、他国メディアを通じた情報収集
- プロパガンダに対抗するための報道・伝達
- 人々をかくまう(たとえばユダヤ人をドイツ人の目に触れぬようにする)
- 捕虜に対する物資・通信・脱出の支援
- 文書の偽造
オランダの “レジスタンス組織”
オランダのレジスタンスは主に “非暴力” 路線であり、主導したのは共産/社会主義者・教会・独立系グループでした。
「正義のレジスタンス」はオランダで実際にあったことを映画化したものです。反ナチスのレジスタンスを資金面から支援するアンダーグラウンドな活動を現役銀行家らが支えます。
“資金調達” は活動に不可欠。レジスタンスのようにアンダーグラウンドな活動にも資金が必要です。言い方を変えると “資金調達ルート” を絶たれると活動の存続が危機に晒されます。「●●マネーが××へ流れる」という状況は政治・宗教・裏社会において今も随所で繰り広げられています。
CIAの歴史家スチュワート・ベントレーによると、1944年半ばまでにオランダ国内には4つの独立した主要な抵抗組織があったそうです。映画「正義のレジスタンス」で描かれる NSF(Nationale Steun Fonds)は LO (Landelijke Organisatie voor Hulp aan Onderduikers)の傘下に位置付けられています。
[オランダの主要なレジスタンスグループ]
- Landelijke Organisatie voor Hulp aan Onderduikers(LO):ヨーロッパで最も成功した非合法組織で身を隠している人々を助ける全国組織。1942年に設立され、ウォルラベン・ファン・ホールが運営する非合法な社会サービス “Nationaal Steun Fonds(NSF ⇒ 国家支援基金)” を含み、船員や隠れ家の親戚を含む、困っている家族に定期的に資金を提供していた
- NSFの主要人物は銀行家のウォルラベン・ファン・ホール。三等航海士として数年間働いた後、視力の問題から転向を余儀なくされる。1929年にニューヨーク市に引っ越し、兄の口添えでウォール街の会社に就職。その後オランダに戻り、銀行家および株式仲買人となる
- “身を隠している人たち” とはユダヤ人、ドイツ人の元で働くのがイヤな人たち、政治犯など
- Landelijke Knokploeg(LKP):妨害活動と暗殺を行う。LKPは襲撃を通じてLOに配給カードを提供
- Raad van Verzet(RVV):妨害、暗殺、および隠れている人々の保護を行う
- Orde Dienst(OD):オランダ亡命政府の諜報部隊
銀行家ウォルラベン・ファン・ホールとNSF
※映画字幕では “ウォーリー” “ファン・ホール” と表記されることが多く、これ以降は “ウォーリー” とします。
1942年のある日、出勤してこないマイヤーを不審に思い、自宅を訪問するウォーリー。そこで心中した一家を発見します。傍らには、ユダヤ人であることを根拠にザーンダムの家から出ていくよう通達する書面がありました。
そんな頃、レジスタンスに身を投じている海軍将校のファンデンベルクを名乗る男がウォーリーに地下銀行の設立・運営を依頼します。ウォーリーの妻は気持ちにおいて反対ですが「でも、やるべきよ」と彼を励まします。そしてNSFが始動します。やはり銀行家である兄ヘイスは弟ウォーリーほど冒険的ではないので腰が引けていますが、やむを得ず協力します。ざっくりと、そのように理解しておけば映画の視聴に差し支えありません。
もう少し詳しく経緯を辿ると以下のようになります。
- 1940年5月にドイツ軍がオランダに侵攻した際、商船員とその家族を支援する船員基金が設立されたがナチスドイツからの横槍が入っていた。ウォーリーはアムステルダム支部の設立を依頼される
- 戦争が終わったらオランダ政府が返金する約束を武器に、船員基金に出資してもらう体で資金集めを考える。銀行家としての実績ゆえにウォーリーはロンドンのオランダ亡命政府による保証を得て資金調達できた
- その後まもなくドイツは反ユダヤ主義を強化し強制労働を課すように。それらに対する人々の抵抗が強まり、ウォーリーはあらゆる種類のレジスタンスグループの資金調達へと活動を拡大
- ウォーリーが採った方法のひとつは銀行債(映画では約束手形)の偽造。オランダ亡命政府の保証を得て銀行で本物と交換することで資金調達。この方法には犯罪の性質があったが彼らは危険を冒した
- 裕福なオランダ人に資金を提供してもらい、投資の証拠として価値のない古い株券を渡す方法も採った。戦後、彼らは株券と引き換えに資金を取り戻すことができた
- ナチスによって身柄を拘束されるまでウォーリーの主導によりNSFは、さまざまなレジスタンスグループ、地下活動を行う情報紙を支援した
- 戦後、基金の発行した株式(と映画では言っているが債券では?)は国によって換金された。今の通貨に換算して5億ユーロ以上の金額であり、使途不明金はなかった
名前まで覚えておかないとストーリーが分からなくなる人物は少ないです。
視聴後の感想
ウォルラベン・ファン・ホールが処刑されたのは1945年2月12日(享年39歳)。オランダがナチスドイツから解放されたのが5月5日。あと3カ月を上手く切り抜けることができていたら違う人生になっていただろうと思います。気の毒です。
彼の兄ヘイスはその後、上院議員を経てアムステルダム市長となりました。この兄弟を見ていて思い出したことがあります。猟犬はチームで動きます。リーダー犬はアタマがよくて少し臆病な犬がふさわしいと言われています。リーダー犬が勇敢過ぎると当犬は当然のことながら従う犬たちも命を失うからです。ウォーリーは勇敢でした。恐らくは少し過剰なレベルで。兄のヘイスは弟より慎重であったがゆえに生き長らえ、出世しました。
しかしウォーリーの勇気と行動力がなければ、この地下銀行は成果を出すことができなかったことでしょう。30代の若さでレジスタンスを資金面から支え、多くの人命を救ったことには敬意を抱きます。
私は世界史と地理が苦手な生徒でした。言い訳をするつもりはありませんが、歴史の教科書はあまり役に立たず、映画を含め、いろんなつながりのなかから情報を統合して考察していくことのほうが世界についての学びに通じると思います。
[ロケ地]オランダ(オーバーアイセル州/ヘルダーラント州/北ホラント州(アムステルダム)/スヘルトーヘンボス)、ベルギー(オースト=フランデレン州)