1989年以降、ウクライナの公用語は “ウクライナ語” とされていますが、このドラマは “ロシア語” で演じられています。ウクライナ住民の母語はロシア語であることが多いそうなので、その辺りを反映しているのでしょう。
2019年の作品です。原題は “Возвращение” で「戻る」という意味。ドラマを最後まで視聴すると、タイトルがなぜ「戻る」なのかが腑に落ちます。そして「トワイライト」というタイトルが、いかに的外れであるかがわかります。
字幕の書体が古臭いというか、今どきの日本では使われていない印象で、中国辺りのフォントを使ったのではと思ってしまいます。ところどころ文字組みも奇妙なんですよね。冒頭に出てくる出演者の名前にも、なぜかカタカナの字幕(あるいはフリガナ)をつけています。
簡単に言うと「怪しさを感じる人物がやっぱり鍵を握っていて、通常あり得ないことがいろいろ起きるけれど、大ネタ&小ネタがモリモリなのでトータルでは及第点を超えているサスペンスドラマ」です。
一途で頑張り屋なマーシャの苦難を描く
マーシャ(マリア)は貧しい家の娘。豊かな事業家の息子オレ・トミリンに恋をしていましたが、大人の世界では、ふたりは身分違いで縁のない間柄です。高校を卒業したオレは首都の大学へ。マーシャは成績優秀でありながら、経済的な理由で望む進路を歩むことはできませんでした。
しばらくの間、ふたりが再会することはありませんでした。その後、オレはバイクのレースで大事故を起こし、腎臓の機能を失います。彼の母親の腎臓が移植に適合せず、マーシャが無償で提供します。オレには母親が決めた、やはり資産家の娘である婚約者ネリヤがいました。しかし彼はマーシャと恋に落ち、強い反対、ふたりを別れさせるための工作を押し切って結婚します。
結婚式当日、父親によって監禁されたマーシャも意思を貫きます。オレの両親は彼女を息子の妻と認めようとしませんでした。マーシャは非常に賢く頑張り屋であったので、なかなか定職に就けない夫オレの代わりに働いて家計を支えました。その後オレは車の整備士になりますが、詐欺に遭い、マフィアに対して資金の穴埋めをしなくてはならなくなります。そのお金も、銀行の支店長に引き抜かれたマーシャが半年分の給料を前借りして返却。マフィアに借金を返しに行った際、マーシャは流れ弾に当たってお腹にいた2人目の子どもを失います。
何事につけそんな感じで、マーシャは愛するオレとの生活のために一途に頑張り通します。彼女が背負い込まなくてもいいようなことまで背負う人生が続きます。「大丈夫だから」と言って他者からのサポートも辞退します。甘えることが下手なのでしょう。しかし資産家の息子だったオレは不遇でも腐らず(すなわち、困難に遭うと逃げて横道に逸れるバカ息子ではなく)善き夫でした。マーシャと娘を深く愛していました。
マーシャには華やかな妹リャリヤがいました。高校では演劇の主役を務めていたリャリヤ、卒業してからは女優になります。自分の両親、オレの両親、いずれからも冷遇されて苦境にある姉のマーシャをリャリヤはサポートします。
やがて男の子を出産したあたりから、マーシャは心身ともにどんどん追い込まれていき、行方知れずとなります。彼女の人生の歯車がどんどん狂っていった背景には何者かの策略があったのでしょうか。
細かなレンジが明記されるストーリー
このドラマでは時系列の流れがテロップで明示されます。
オレのオートバイ事故は2001年。大怪我から回復して結婚。マーシャが第一子ナスティアを出産した4年後、オレは車の整備士、マーシャは企業の主任会計士になっています。その頃、女優をしている妹リャリヤが結婚。相手の表向きの職業はビジネスマン。裏の顔はマフィアです。
第二子を妊娠したマーシャは支店長にスカウトされて銀行に転職。銀行からの前払いの給料を持ってマフィアに夫オレの借金を返しに行き、流れ弾に当たったのが2006年。その1年後にリャリヤが再婚。相手は先の結婚相手と同類です。
銀行に勤めるマーシャの伝手で、整備士だった夫のオレはバイクサービス会社の社長に就任します。夫妻の経済状況は上向きとなり、その手腕と献身に心を動かされたオレの両親は歩み寄ってきます。何年にも亘りマーシャを息子の妻と認めず、別れさせようと画策すらしていたにも関わらず、愛想がよくなり「孫の顔が見たい」等とぬかすジジババに変化します。
さらに6年後へと場面が移り、マーシャとオレの娘ナスティアはかなり大きく成長しています。このドラマの撮影期間を通じて、ナスティアは上方向に巨大化していきます。オレのモーターバイク事業は成長し、知人のクロトフスキーとレストラン事業に進出します。オレの元婚約者ネリアやオレを誘惑する野心家の女性が現れ、辛抱強い長女キャラのマーシャはストレスから解放されることがありません。
オレのビジネス周辺にも大小の波風があり、どういうわけか不意の事故・事件に巻き込まれがちなマーシャ。詳しく語られてはいませんが、彼女は銀行とオレの会社の財務、ふたつの仕事を掛け持っているようです。マーシャは三度目の妊娠。男の子バンヤを出産します。一方で彼女の精神状態はどんどん不安定になっていきます。
ストーリーが完結するのは、さらに “2+数年後” なのでトータルで20年に亘る物語です。
端折らないのでわかりやすいドラマ
前述の通り、これが何年時点で、何年後にこういう展開があり、というのがおおよそ示されていますし、急展開や説明不足でワケがわからない部分が少ないため、視聴しやすいドラマです。
主人公のマーシャが不幸な出来事に見舞われ過ぎるのでメロドラマっぽくもあるのですが、彼女の強さゆえに湿っぽくはありません。
結末へと収束していく後半エピソードではサスペンスドラマらしさが増し、観る側のハラハラやイライラも募ります。
偶然にしては出来過ぎなところ、不自然なところもありますが、トータルで評価すれば楽しめるドラマです。
[ロケ地]ウクライナ