視聴していて非常に複雑な心境になる史実ベースのドラマ「リベリオン」。原題は “Rebellion” で “反乱” という意味です。イギリス領アイルランド島の人々が、アイルランド独立を巡り家族内や友人同士で敵味方となります。
先の記事に “レジスタンス” の具体的な活動内容を掲載しました。 “レジスタンス” は抵抗運動。さらにスケールが大きくなり、国家としての独立性を勝ち取ろうとするのが “独立戦争” なのではと歴史や社会運動に疎い私は安直に思うわけですが、アイルランド独立戦争ではレジスタンスに含まれる活動のすべてが行われます。
ドラマ「リベリオン」のシーズン1は1916年のイースター蜂起、シーズン2は1921年の英愛条約締結までを描いています。その続編が “Resistance(抵抗)” というドラマシリーズで、日本ではリリースされていないようです。
「リベリオン」はドラマとして面白いし、歴史の勉強にもなって優れた作品ではあるのですが、似たような顔をした人たちがたくさん出てきて集団で暗がりにいることも多く、諜報活動を行うスパイも複数いて、誰がどちら側(英国側/アイルランド共和主義側)の人間なのかが分かりづらいのが難点です。
シーズン1の時代背景
1801年にイギリスに併合されたアイルランドでは、アイルランド人による自治を求める声が高まっていました。そのムードを受けてアイルランド国民党に協調してもらおうと、自由党のグラッドストンはイギリス議会内でアイルランド自治法案をたびたび提案します。しかし可決されることはありませんでした。
一方アイルランドでは “イギリス議会内で自治を実現するのではなく、民族の独立を勝ち取ろう” というシン=フェイン党が生まれます。1905年のことです。
紆余曲折を経てイギリスでは1914年に “アイルランド自治法” が成立。その法への意見の違いによりアイルランドは分裂します。北アイルランドのプロテスタント教徒たちは自治によるイギリスからの分離を望みませんでした。片や「自治法はアイルランドの完全な独立を意味しない」と主張する民族主義者たちも自治法に反対。それぞれが義勇軍を組織するようになります。 “アルスター義勇軍” は北アイルランドがイギリス傘下であり続けることを、 “アイルランド義勇軍” はアイルランド全体のイギリスからの独立を目指しました。
第一次世界大戦が始まり、混乱を避けるためにイギリス政府は自治法の施行を戦争終結まで延期することを決定。それに対してアイルランドの人々は、それぞれの立場からフラストレーションを抱えることになります。第一次大戦が終わるのは1918年11月11日のことです。
戦争終結を待つことなく1916年4月24日から30日、主にダブリンで起きた武装蜂起が “イースター蜂起” と呼ばれるもの。アイルランド共和主義同盟(IRB)の軍事部門によって組織されました。教師で弁護士のパトリック・ピアースが率いるアイルランド義勇軍、ジェームズ・コノリーが率いるアイルランド市民軍、200人の女性連盟(Cumann na mBan)がダブリンの主要部を占拠して、アイルランド共和国のイギリスからの独立を宣言します。シン・フェイン党はイースター蜂起に組織として加わることはしていませんでした。
シーズン1の主な登場人物と相関関係
ドラマにはたくさんの人々が登場します。主要な人物についてざっくりとまとめてみました。
第一次世界大戦開戦当時(1914年)フランシス、メイ、エリザベスはダブリンの女学生でした。その後、3人はそれぞれの道を歩みます。
[3人の若い女性たち]
- フランシス・オフラハティ 私生児として生まれる。パトリック・ピアースの学校に勤務。民族主義者で武器を携えてアイルランド義勇軍に参加している。男性と同等の扱いを望んでいる。メイとはルームメイト
- メイ・レイシー キャリア志向で在アイルランド英国行政府で働く。次官補佐官の英国人チャールズ・ハモンドと不倫関係にあり妊娠。ふたりの関係性に苛立ちを感じていたときにフランシスに頼まれ、彼の元から重要資料を持ち出す
- エリザベス・バトラー 事業家の娘で医学生。社会主義者でアイルランド市民軍に参加。婚約者として裕福な家系のスティーブン(イギリス軍将校)がいる。市民軍の活動を通じてジミー・マハンと接近する
アイルランド市民軍のジミー・マハンの兄アーサーはイースター蜂起に際し、反乱軍を鎮圧するイギリス軍兵士として戦います。マハン家だけをとっても内側には政治的立場の相違があります。労働者階級であるアーサーの家族はスラム街で暮らしており、主要な人物は以下の通りです。
[マハン家]
- ジェームズ(ジミー)・マハン イギリス軍として戦っているアーサーの弟。兄の家に居候していた。アイルランド市民軍のなかで少しずつ重要なポジションになっていく。ブルジョア(あるいは中産階級のてっぺん辺りに位置する家柄の)令嬢エリザベス・バトラーと惹かれ合う
- ペギー・マハン アーサーの妻。夫が戦地に赴き不在がちのなか、子どもを4人抱えて経済的に苦しい生活を送っている
- ミニー・マハン アーサーの長女。父の稼ぎだけでは家族が暮らしていけないため、働きに出ている。シーズン1ではアバズレ気味でエリザベス・バトラーの兄ハリー(ろくでなしの事業家)と肉体関係をもつ
- ピーター・マハン アーサーの長男。叔父のジミーを慕って反乱軍に加わろうとする。それがマハン家の家族関係をさらに複雑にする
1916年4月24日、エリザベスはスティーブンとの結婚式を放棄してジミーら市民軍と武装蜂起。フランシスは武装した学生からなるアイルランド義勇軍を組織。メイは英国人チャールズ・ハモンドと情事にふけっています。武装蜂起を知り、チャールズは職場のあるダブリン城へ向かい、メイは彼に言われて一時的に身を寄せた彼のダルキーの家で正妻と想定外の長い時間を過ごすことになります。
イースター蜂起は最終的に反乱軍がイギリス軍に降伏することで終わります。しかしイギリス軍の暴挙が国内外からの非難を呼び、アイルランド分離独立に向けての運動は存続します。
登場人物のそれぞれがダブリンの動乱のなかで、自分の人生と信条に関する選択・決断を行っていきます。
ジミーは死刑執行をすんでのところで免れてイングランドへ移送されます。
シーズン2の時代背景
アイルランド共和国議会の最初の会合のあった1919年1月21日が、アイルランド独立戦争の始まった日とされています。
イギリスのロイド=ジョージ内閣は、第一次世界大戦終結後の1920年に “アイルランド統治法” を成立させます。アイルランドを “北アイルランド” と “アイルランド” に分割。アルスター地方のうちプロテスタントの多い6県からなる “北アイルランド” を一定の自治を認めたうえでイギリスの一部とする、それ以外の26県からなる “アイルランド” はイギリスの自治領として実質的な独立を認める、という中途半端な譲歩によるものでした。この中途半端さがアイルランド内のムードをさらにくすぶらせます。
当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったマイケル・コリンズ(シン・フェイン党の幹部)はアイルランド共和軍(IRA)の組織づくりにも尽力。IRAの母体はカトリック系武装組織であるアイルランド義勇軍で、1919年にアイルランド共和軍と名称を変更。装備で劣るIRAはイギリス軍と王立アイルランド警察隊にゲリラ戦を仕掛ける戦術を採ります。またダブリンの英国スパイ網を破壊します。31人の犠牲者を出したIRA暗殺チームによるスパイ殺害は1920年11月21日の朝に決行されました(血の日曜日事件)。
その後、長期化する戦争に対する忌避ムードが強まります。そして1921年12月に “英愛条約” が締結。これにより戦争は終結を迎え、アイルランドは北と南に分離することとなります。
シーズン2の主な登場人物と相関関係
シーズン1の登場人物を前提にストーリーが展開していくかと思いきや、一部の人たちは全面的に退場しています。かなり思い切りのよい制作方針です。
例えば3人の若い女性たち。フランシス、メイ、エリザベスのその後についてまったく触れません。シーズン2において彼女たちは存在していなかったも同然の扱いです。ジミー・マハンの兄アーサーはフランスの戦線へ送られたっきり。アーサーの妻ペギーの姿もありません。どうやらふたりとも既に亡くなったようです。
シーズン2は1920年11月から始まります。アイルランド義勇軍の指導者としてアイルランド独立運動を指揮し、アイルランド共和国議会の財務大臣、アイルランド共和軍(IRA)の情報部長、アイルランド国軍の司令官なども務めたマイケル・コリンズ(シン・フェイン党の幹部)が存在感を大いに示していた時期です。
マイケル・コリンズはシーズン1にもチラと出てくるのですが、演じる俳優さんが変わったようですね。シーズン1の人のほうがハンサムだったと思います。
シーズン2では「あの人たちは一体どうなってしまったの?」というキャラが何人もいる一方で、「この人たち、シーズン1では気配すらなかったのに、これまでどこで息していたの?」という新キャラたちが登場します。
[唐突に登場する “あの人” の家族]
- パトリック・マハン ジミーの兄。ジミーにはアーサー以外にも兄がいたことがシーズン2で明らかに。王立アイルランド警察隊に勤続20年の巡査部長。姪のミニーがジミーを慕うことを好ましく思っていない
- コンスタンス・バトラー 父の事業を継いで銀行家になっているハリー(エリザベスの兄)の妻。シーズン1の後に結婚したのか?それにしては老けている(結婚10年以上の風格)。ハリーのようなろくでなしで卑怯な男にまるで釣り合わない女性。 “ドイル・エアラン”(アイルランド共和国議会)の集会に邸宅を提供。資産を活用してサロン活動や人権活動をしている篤志家 ⇒ エリザベス・バトラーの役割を引き継いでいるのかな、という印象
[メイ・レイシーの役割を引き継いだ女性]
- ウルスラ・スウィーニー 英国情報局長官の元で働いている。暗号解読を得意とする有能なスタッフ。シングルマザーであり幼子は修道院で育てられている。息子は彼女が母であることを知らず、養子に出されようとしている。英国行政府次官補佐官である英国人の子を妊娠した秘書メイの代わりに登場した感のある人
- 関係者:アグネス・ムーア ウルスラの妹。ウルスラの子どもの奪還に手を貸す
[フランシス・オフラハティの役割を引き継いだ女性]
- エスナ・ドルーリー 情報紙ブリティンの記者で社会運動家。諜報活動や暗殺にも関わる。英国ライフ誌記者ロバート・レノックスと親交を深める
- 関係者:モーリス・ジェイコブス 情報紙ブリティンの中心人物。アイルランド議会財務大臣のサポートをしている
マンチェスター刑務所に服役していたジミーは1917年の大恩赦により釈放されダブリンへ戻り、IRAの一員として活動しています。姪のミニーは主体的に彼をサポートしています。
ジミーは「面が割れてきた」ため表舞台を去り、新たに諜報活動の役割を与えられます。彼のそれまでの役割をジョーイ・ブラッドリーが引き継ぎます。
シーズン2はイギリス側勢力とアイルランド独立を求める勢力の諜報合戦がメインとなっています。
またマイケル・コリンズは当初のアイルランド共和国の樹立という目標からイギリスとの調整路線に鞍替えします。しかし英愛条約可決に納得しないグループ(エスナ、ミニ―、ジョーイら)は “レジスタンス” へと舵を切ります。(ここから “Resistance” というドラマに続くのでしょうが日本では今のところ観られません)
視聴雑感
マハン家の三兄弟である①市民軍のジミー、②イギリス軍のアーサー、③王立アイルランド警察隊のパトリックは日頃仲がよいわけでなく、思想面でも立場のうえでも対立しています。しかし銃をもって対峙した際には兄弟の命を奪いません。そして逃げ道を作ります。それが後々、それぞれが所属する組織内で問題となり左遷や冷遇にもつながるのですが「なんだかんだあっても兄弟間の殺し合いには至らないんだな」という若干の安堵を得ます。
もうひとつ思うところあったのは “女性” の地位や扱われ方の描写についてです。女性が自由や正義のために戦うことがまだまだ珍しい時代だったのでしょう。
市民軍として反乱に参加したエリザベス・バトラーは罪を免れるために「ジミーにそそのかされた。騙されたと言いなさい」と弁護士から助言を得ます。「女性が何か決めて行動するとき、それは男性によるそそのかしや騙されてのことなのですか」と涙ながらに返すエリザベス。アイルランド義勇軍に参加して武装蜂起したところ「女性連盟の部屋へ行くように」と司令官に言われて落胆するフランシス。生まれてくる子どもを渡す条件として、さらなる昇進を愛人である上司に提示するメイ。“男性のコントラストとして存在する女性” 以外の生き方を考えさせられるドラマでもありました。
私は歴史に疎く、このたび学習したのは “血の日曜日事件” にはふたつあり、ひとつは1920年のダブリンで、もうひとつは1972年の北アイルランドで起きたということ。アイルランドの代表的なバンドU2の “Sunday Bloody Sunday” は後者を取り上げたもの。これまで何も知らないでライブを観ていました。
演じている俳優たち
いつものことながら、何か引っかかりのあった人たちだけです。
- ブライアン・グリーソン(ジミー・マハン役) 非常にいい仕事をしていると思いました。しかしほかの出演作を見たことがありません。ダブリン生まれで親も兄弟も俳優。彼は舞台でも活躍しています。 “熟練した演劇俳優でロンドン、アイルランド、スコットランド、ニューヨークの舞台に出演” とのこと
- チャーリー・マーフィー(エリザベス・バトラー役) はかなげでピュアな女性を見事に演じています。「ピーキー・ブラインダーズ」にも共産主義者の役で出演していますが、いろんな役を演ずることのできる素晴らしい女優さんなのでは。「HAPPY VALLEY(ハッピー・バレー 復讐の町)」にも出ています
- ミッシェル・フェアリー&イアン・マケルヒニー(バトラー夫妻) 「ゲーム・オブ・スローンズ」のスターク夫人(キャトリン・タリー)とバリスタン・セルミー(デナーリスの家臣)が夫婦役で登場
- リディア・マクギネス(ペギー・マハン役) 苦労しているお母さん役が板についていました。「シング・ストリート」では主人公たちを応援する高校の美術教師役だったと思います
- クレイグ・パーキンソン(デビッド・マクロード役) 「ライン・オブ・デューティー」ではコッタン役。「コントロール」ではトム・ウィルソン役。いろんな作品の随所でいい味を出している人
のちの北アイルランド紛争を背景にした映画3選
「リベリオン」の時代を経て、のちの北アイルランド紛争をまったく異なる視点から描いている3つの作品の紹介です。