「エリート」シリーズに続いて「アンブレラ・アカデミー」ともお別れのときがやってきました。8月8日にシーズン4が公開されたものの、仕事が忙しくてなかなか視聴できず。1週間後にようやく観ることができました。
シーズン3まではコチラ。
6エピソードからなるシーズン4の半ば辺りで中だるみ、若干飽きてきたりもしたのですが後半で盛り返し、一気に引き込まれてエンディングを迎えました。
シーズン4で起きること
アンブレラ・アカデミーとスパローのベンが再会
シーズン3のラストで特殊能力を失ったアカデミーのメンバーは散り散りに。6年が経過し、彼らはそれぞれの人生を生きています。
ディエゴとライラの娘グレースの誕生パーティーにアカデミーの兄弟たちが招待されます。出席するはずだったヴィクターが何者かによって誘拐されます。
アカデミーメンバーの近況はこんな感じ
以下のような設定で、シーズン4がスタートします。
[シーズン4のアンブレラ・アカデミー(6人のメンバー)]
- ナンバー1:ルーサー “スペースボーイ” の名で活動する男性ストリッパー。当人は「プロのダンサー」と言っている
- ナンバー2:ディエゴ ライラと結婚し、彼女の家族と同居。配送業務(宅配便のセールスドライバーみたいな仕事)に携わっている
- ナンバー3:アリソン 女優やモデルとして働き、娘クレアと暮らしている。シーズン3での裏切りが禍根を残し、アカデミーのメンバーたちと疎遠になっている
- ナンバー4:クラウス アルコール依存を克服しようとしている。アリソン宅の居候
- ナンバー5:ファイブ “ジェローム” を名乗り、CIAのエージェントをしている。潜入捜査先で “ナンシー” を名乗るライラと出会う
- ナンバー7:ヴィクター カナダのノバスコシア州でバーを経営している
[スパロー・アカデミー]
- ナンバー2:ベン 暗号通貨詐欺で逮捕され3年半服役。仮出所となり、ルーサーと同居する
「ベン&ジェニファー」と「ファイブ&ライラ」が物語をけん引
ヴィクター誘拐犯サイ・グロスマンの目的は、ハーグリーブス兄弟を自分の元に集めることでした。サイは、地下組織 “キーパーズ” に傾倒して姿を消した娘ジェニファーを探し出すよう彼らに依頼。アカデミーのメンバーは、ジェニファーの所持品と思われる “マリーゴールド” のエッセンスによって期せずして特殊能力を取り戻します。ライラも目からビームを発する能力を得ます。
Jean & Gene という中年夫婦(姓は “ディベドー” で見た目は田舎くさいペアルック。ふたりとも博士であるらしい)が “キーパーズ” のリーダー。彼らは「別の時間軸の出来事を、自分たちの存在する時間軸にあったことのように、支配層によって思い込まされている」と主張。『浄化』( “時間軸のトリックの破壊” あるいは “修復” )のときがくるのを信じています。
まとめますと、時間軸の問題とは次のようなことです。
- 自分の生きている世界(=時間軸)とは異なる世界(=時間軸)がいくつも存在している。異なる時間軸の存在が世界を混乱させている
- 時間軸の操作は支配者によって行われている(と、Jean & Geneは思っている)
- アカデミーもいろんな世界(=時間軸)に存在している。それぞれ異なる流れのなかで活動しているが、そのなかに致命的なミス(バグ)が含まれている
ジェニファー捜索のため、アカデミーのメンバー(+1)はメイン州のニューグランプソンへ。ベンはダイナーの女性経営者ジェニファーと知り合い、恋に落ちます。当人同士は気づいていませんでしたが、彼女とベンは因縁浅からぬ間柄でした。
ニューグランプソンはハーグリーブス卿によってジェニファーを隔離するために作られた街でした。一方で、ハーグリーブス卿がアカデミーの子どもたちの記憶を操作していたことが明るみに出ます。“キーパーズ” のリーダー夫婦にとってもジェニファーは『浄化』の鍵を握る重要人物。ジェニファーとベンを巡る攻防がシーズン4のメイントピックです。
それだけではパンチ不足と思ったのか、ライラとファイブの物語も挿入されています。ライラはファイブの移動能力によって共に時空を超えます。過去に戻ることで、ベンとジェニファーにまつわる悲劇を食い止めようと目論んだのです。しかし遭難して帰り道がわからなくなります。元いた時間軸では数時間の不在でしたが、別の時間軸で過ごした時間を足し上げると7年にも及びました。ずっと一緒に過ごしたことにより、ふたりの間に恋愛感情のようなものが芽生えます。
私はアカデミーのメンバーのなかでファイブが一番好きなので、彼の切ない恋物語があったのはよかったです。シーズン4では20歳になっているエイダン・ギャラガー(ファイブ役)。髭剃り跡が青いながらも、少年のビジュアルをもつファイブに見えるよう、工夫して撮影したことがうかがえました。
「父と子」の関係修復を担当するのはヴィクター
後半で、ヴィクターがハーグリーブス卿の父としての至らなさに怒りをぶつけ、彼を戒める役割を担います。シーズン4で登場するハーグリーブス卿は、アカデミーの子どもたちの育ってきた時間軸のハーグリーブス卿とは異なる時間軸の存在なのですが、「アンブレラ・アカデミー」は家族の物語でもあるので “クレイジーなところのある父” と“彼に翻弄され続けた子どもたち” の関係性にも決着をつける必要があったのでしょう。
「このハーグリーブス卿と、アンブレラ・アカデミーの子どもたちを育てたハーグリーブス卿は違う」と言われても、表面的なキャラに大きな相違がないので、どちらがどちらでも同じように感じました。“アンブレラ” のベンと、“スパロー” のベンはずいぶん違った印象でしたが。
そして世界が向かう先は…
ハーグリーブス夫妻(レジナルド&アヴィゲイル)の間にくすぶっていた問題が明かされます。再び時空を移動したファイブは時間軸の不具合の原因が自分たちの誕生にあったことを知ります。
無数の時間軸が起こしている破滅の無限ループ、“マリーゴールド” と “デュランゴ” というふたつの粒子による『浄化』問題に対処するため、アカデミーのメンバーは苦渋の決断をします。
感想:無駄に長いシーンもあるが、心地よい余韻を残す
残念なポイントをまず挙げます。①新登場のキャラが弱い、②重要度の低いシーンに時間を割きすぎ、という2点です。
①については Jean & Gene 夫婦のキャラの立ち具合が今ひとつ。彼らは役を離れたプライベートでも夫婦なのですが、先のシーズンのコミッションのメンバーたち、ヘーゼル&チャチャ、スウェーデン人の三つ子などに比べるとイカレっぷりに独自色が欠けているように感じました。
ジェニファー役のビクトリア・サワルも、あまり印象に残りません。ビクトリアはフィリピン系カナダ人で「パシフィック・リム」がデビュー作のようですが、ジェニファー役が彼女でなくてはならない理由が希薄なように感じます。ベンと同じアジア系で揃えたところに意味があったのでしょうか。また、巨大イカの中から少女が発見され「浄化よ」と言うシーンがありましたが、彼女がかつてのジェニファーであるという理解に即座につながりませんでした(確かに同じアジア系だったが説明不足と思う)。保有する特殊能力のレベルがすごいという設定でしたが、それも伝わってきませんでした。演じている本人の問題ではなかったのかもしれませんが。
②について言えば、例えばアカデミーのメンバーたちがニューグランプソンへ向かう際の車酔い(?)のシーン、Jean & Gene 夫婦のダンスシーンなどは必要でしょうか。また、ルーサーとディエゴがCIAで働くパート、クラウスが土中に埋められるエピソードなども重要度のレベルに対して尺が長いと感じました。
次はよかったと思うところ。最終エピソードの中盤からエンディングにかけて、とても心を打たれます。ドイツのドラマ「ダーク」の終わり方に通じるものがあります。“自分たちが消えることによって得られる平安に満ちた未来” へと向かう姿が、悲しみを帯びながらも清らかな明るさを醸し出していきます。
結局のところ、人間って何を考え、何をしたところで命は有限で、やがて跡形もなく消えてしまうじゃないですか。いなくなって50年も経てば、自分の名前や人柄を知っている人などいなくて当たり前。あの世にもっていけるもの、この世に残していけるものとは物質的な何かではないはずなのです。
自分(自我)が消えるときに広がっていく清らかな世界や未来、出会った人たちや人生に対して溢れ出る感謝。ドラマとはいえ、そういったシーンに心打たれるということは、それが人間に示された道筋のひとつなのだろうと思います。“何もない“ には深い意味があることを再確認できて、個人的にはお盆にふさわしい作品でした。
エンドロールで紹介される撮影の合間などに撮った写真やBGMにもジーンときました。どのような出来事があっても、この世はかりそめ。やっぱりそのように感じてしまいます。
おまけの情報
YouTube の Netflix Japan チャンネルで「アンブレラ・アカデミー」のNG集などが見られます。
シーズン3の「フットルース」のダンスシーンもあります(そちらはNG集ではありません)。あれって相当練習したんでしょうが、普通に足がつりますよね。