何かと気ぜわしくて半月くらいブログから遠のいていました。受講していたペルシア語クラスの修了試験が終わったり、自治会を退会したり、いくつかのことに区切りがついたので書きます。
直近の投稿は「ラスト・ナーク~麻薬捜査官 殺害の真相を暴く(2)」でした。それを書いていたとき、割れるような動けなくなるような激しい頭痛に襲われました。ドキュメンタリー内で元メキシコ警官が「キキたちの霊がいつも自分の近くにいる」と言うシーンがあります。彼は憑依(イタコ)体質と思われますが、私もそうなのかもしれません。
そのドキュメンタリーはリリース当時に視聴済みで、今頃わざわざ書かなくてもよいようなものでしたが、なぜか書きたくなったのは私だけの意思ではなかったのかも。
ともあれ、今回はドラマ「リプリー」(原題:Ripley)。アメリカの作家パトリシア・ハイスミスによる1955年の犯罪小説「The Talented Mr. Ripley」が原作。アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」も同小説を原作としています。「The Talented Mr. Ripley」の映画化は過去にいくつかあり、必ずしも原作に忠実というわけでもなく、それぞれの展開には若干の違いがあります。
本作の特徴
白黒作品です。カラーにしなかった理由のひとつは「現代の物語ではない」からだと思われます。デジタル社会ではない、スマホやパソコンがない時代が舞台です。固定電話やタイプした手紙で連絡をとり、フィルムを現像して写真にし、支払いを小切手ですることの多い時代だったからこそ成立するサスペンスなので、タイトルに “古典的サスペンス” という文言を入れました。
個人が簡単に活用できる通信手段がなく、テキストデータ、動画や画像など客観的情報の共有が難しい場合、人間の推論は曖昧な記憶、憶測と思い込みがベースとなります。GPSも防犯カメラもDNA鑑定もない時代ですから、警察の推理も憶測と経験則に依存しがちです。
リプリーは犯罪を企て、自分が犯人と知られないように謀ります。彼の目論見は必ずしもうまくいくわけではなく、自分の犯罪を隠そうとしてさらなる罪を犯します。そんなリプリーを見ては「そろそろ彼が犯人であることが発覚するのでは」と思い、自覚なく彼に操られる人々を見ては「今度こそ真実に気付いてくれるのでは」と思い、両者の立場からハラハラできます。
リプリーが自らの悪事を隠蔽するために、それなりに苦労する様子も見どころのひとつですし、イタリア各地の美しい街並みや風景も目を引きます。
リプリーを演じているアンドリュー・スコットは同性愛者ですが、その要素を暑苦しくない程度に伏線にしています。
今どきのスピーディな展開はなく、少しずつ話が進んでいくところも “古典的サスペンス” っぽくてよいと思います。原作は1955年の小説なので日本でいうと昭和30年。当時の人々にのんびりしているつもりはなかったでしょうが、急いだところでもろもろの仕様が効率的にできていなかった時代の “よき味わい” みたいなものも感じられます。効率と合理性を過度に重視し、ほかは二の次の時代や人生は味気ないものです。
導入部あらすじ
1961年のローマ。ひとりの男が死体をアパートから運び出そうとしているシーンから始まり、すぐにその6カ月前のニューヨークへと舞台が飛びます。トム・リプリーは他人宛ての郵便物を盗み、その個人情報をもとに詐欺を働いています(EメールやSMSを使った「未払い金の督促」の手紙版)。
彼は私立探偵アル・マッカレンを名乗る男にバーで声をかけられます。裕福なハーバート・グリーンリーフがリプリーを探しているというのです。ハーバートは息子リチャード(ディッキー)とリプリーが友人関係にあると思い込んでいました。イタリアで親の信託財産を切り崩して生活、画家や著述家を気取っている放蕩息子リチャードを連れ戻してほしいとのことで、十分な報酬を約束されます。割りのよい仕事を得た詐欺師リプリーは、渡りに船とばかりにイタリアのアトラーニへ向かいます。
ボンボン育ちのリチャードがリプリーに警戒心を抱かなかったこともあり、ふたりは距離を縮めます。2カ月が経過したところでハーバートからの支払いが打ち切られたこともあって、優雅に暮らすリチャードに対し、リプリーは悪だくみをせずにいられなくなります。
彼はリチャードの富を横取りして安穏とした人生を謳歌しようと考えます。衝動性と計画性を併せ持ち、詐欺師としての経験値と知恵をフル稼働させますが…。
主要な登場人物
トム・リプリー:ニューヨークの詐欺師。リチャード・グリーンリーフやティモシー・ファンショーを名乗ることがある
アル・マッカレン:私立探偵。ハーバート・グリーンリーフに依頼されてリプリーを探し出す
リチャード(ディッキー)・グリーンリーフ:ニューヨークの裕福な事業家の息子。親の財産で、イタリアで気ままに生きている。絵を描いていることが多い
ハーバート・グリーンリーフ:リチャードの父。ニューヨークで造船事業を営んでいて裕福
エミリー・グリーンリーフ:リチャードの母。ハーバートの妻
マージ・シャーウッド:リチャードの恋人で著述業。アトラーニに住んでいる
エルメリンダ:アトラーニでリチャードに仕える家政婦
フレディ・マイルズ:リチャードの友人で劇作家。ホテル王の息子。初対面であることをリプリーは強調するが、フレディはリプリーとボブ・デランシーのパーティー(ニューヨーク)で会ったことがあると主張する
マックス・ヨーダ:フレディやリチャードの友だち
エンツォ:犬の散歩をしていた男
カルロ:アトラーニのカフェでリプリーと知り合いになる。リプリーと取引し、ジュリオにリチャード所有のヨット売却を指示する
シニョーラ・ブッフィ:リプリーがローマで借りた部屋の大家あるいは管理人
リーブス・マイノット:アラルディ伯爵主催のベネチアのパーティでリプリーが出会う自称美術商。別の稼業がある
ピエトロ・ラヴィーニ:ローマ警察の警部。フレディ・マイルス殺害事件を担当する
トレント:サンレモ警察の巡査部長。リプリーとリチャードがサンレモで借りたボートについてラヴィーニ警部に情報を提供
ほかにもナポリ警察、パルレモ警察、ベネチア警察の人たちが登場する
出演者について
個人的に「へぇ~」とか「そうなんだ~」とか、関心をもった人物のみ挙げておきます。
- アンドリュー・スコット(トム・リプリー役):「ブラック・ミラー」シーズン5の「待つ男」でタクシー運転手役だった人。若かった頃は美形でしたね。本作では生え際の不自然さが気になって仕方ありませんでした。リプリーの内面の複雑さや個性をきめ細かく演じていたと思います。アイルランドの俳優さん。作中ではアメリカ人設定。
- ジョニー・フリン(リチャード・グリーンリーフ役):いろんなカテゴリーの作品で見かけます。役柄も幅広く、作品ごとに違った顔を見せてくれるのが楽しみな俳優さん。当人はイギリス人ですが、作中ではアメリカ人設定。
- エリオット・サムナー(フレディ・マイルズ役):ミュージシャンのスティングの娘なんですよね。目力に父親由来のものを感じます。イタリア生まれでイギリス育ち。エリオットは自分のセクシャリティを特定していないようで本作では男性役です。
- ボキーム・ウッドバイン(アル・マッカレン役):「ファーゴ」シーズン2でマイク・ミリガン役だった人。
- ルイス・ホフマン(マックス・ヨーダ役):ドイツの若手実力派俳優。「ダーク」が出世作(ほかにもいろいろあります)。今なお若いのでしょうが、少年の初々しさみたいなものは消えており、着実におっさんに近づきつつあります。イタリアが舞台のアメリカ作品に少しだけ出演するということは、国境を超えた活動を推し進めたい意向の表われでしょうか。