アルゼンチンのドラマで原題は “Iosi, el espía arrepentido”。事実に着想を得ていますがフィクションです(事実も含まれているのでしょう)。原作者はM・ルーウィンとH・ルツスキー。書籍が出版されています。
ユダヤ人たちがパタゴニアに第2のイスラエルを建国するという「アンディニア計画」についての情報を得ることを出発点の目的とし、ユダヤ人コミュニティに長期間潜入したアルゼンチン諜報員の物語。「アンディニア計画」はアルゼンチンが軍事政権だった時代から現実に起こり得るものとして一部で危険視されてきました。イスラエル建国以前に国家建設の候補地としてパタゴニアが提案されたのは事実です。一方「アンディニア計画」は根拠のない陰謀論とみなされることが多かったようです。
本作は非常に面白く、よくできた諜報ものです。観て後悔どころか「これを観られたのは儲けもの」と思える作品です。ただしシーンの時期が頻繁に前後へ飛ぶのが難点。私はアルゼンチン人ではないので1980年代、1990年代、2000年代を何度も行き来されると頭が混乱してきます。それを除けば興味深い作品で、華やかで心躍るような場面はありませんが、作り込みが丁寧で観る価値があると思います。字幕が間違っていて辻褄が合わないところが若干あります。
ヨーロッパの映画で、何十年もの間、誰にも読まれない報告書を送り続けている諜報員の物語がありましたが、労苦や危険が多い割に必ずしも報われるわけでない仕事であるところが悲哀に満ちています。映画やドラマを観る限りでは諜報員は多方面の知識と技能をもっているので、どんな職業に就いても成功しそうです。なぜあえて諜報員という仕事を選択するのでしょうか。大きな謎です。
シーズン1(8エピソード)
ホセ・ペレスが連邦捜査官(諜報員)となり、イオシ・ペレスとしてユダヤ人コミュニティに潜入。1992年のアルゼンチン・イスラエル大使館爆破事件の時期までの彼のヒストリー、そして2007年頃の大きな方向転換を描いています。
あらすじ
1985年、警察諜報員訓練所に在籍していたホセ・ペレスは素質を見込まれて訓練所を退所。抜擢された彼はこれまでの人生のすべてを捨て、諜報員としての任務に命を捧げることを誓います。イオシ・ペレスに名を変えたホセは地道に工作し、ユダヤ人コミュニティに入り込んでいきます。「アンディニア計画」の全貌を知って阻止するためです。
1992年3月17日、ユダヤ人事業家サウル・メナヘムと彼の右腕イオシ(ホセ)が経営する銀行に強制捜査が入ります。イオシには会議の予定があったためイスラエル大使館に向かいますが、会場がカタリナスのホテルに変更になったことを知らされ移動します。午後2時45分、イスラエル大使館が自爆テロによって爆破されます。イオシ(ホセ)は上官クラウディアに連絡しますが、彼女は現れませんでした。諜報局の事務所へ行くと既にもぬけの殻。イオシ(ホセ)は諜報局が自分を利用したのではないかと疑い始めます。
その15年後の2007年。潜伏中のイオシ(ホセ)はティフィリンを巻きつけながら神に祈りを捧げています(彼の信仰がユダヤ教であることを示しています)。そこへ検察局第5オフィスのダニエル・クルスが訪れます。アルゼンチンの民主化が始まった頃から20年間、諜報員としてユダヤコミュニティに潜入していたイオシ(ホセ)。アルゼンチン最大の暗部である武器の違法取引について、検事に直接話すと告げたところでダニエル来訪の真の目的を見抜きます。
シーズン1は1985年から1992年のアルゼンチン・イスラエル大使館爆破事件までの “イオシ” としてのスパイ活動を追います。そして2007年、身を隠していたイオシ周辺で大きな出来事が起き、モニカ・ラポソ(元放送局プロデューサー)に連絡を取るところで終わります。
主要な登場人物
[アルゼンチン諜報局関係者]
カスターニョ(メガネをかけた髭のおじさん) : 諜報局責任者。メガネの髭おじは検察局のダニエル・クルスと見分けがつかない。名札を付けてほしい
クラウディア : ホセ・ペレスとの出会いの演出もスパイとしての適性テストだったと思われる。ホセの上官にあたる。指令を出して報告を受け、もろもろを調整している。「アンディニア計画」を信じる反ユダヤ主義のエージェント。2007年以降は白髪で登場する
ルイス・ガリード : 諜報員。警察諜報員訓練所ではホセと同期。ふたりの因縁は深い
[ユダヤ人コミュニティ関係者]
ダフネ・メナヘム : ユダヤコミュニティで力をもつ事業家サウル・メナヘムの娘。父親に反発している。イオシを気に入り交際する。イオシの気持ちを父との事業から自分に向けようとする
サウル・メナヘム : 銀行家で投資家。イスラエル大使館や全世界ユダヤ人会議とつながっている有力者。アキノ大臣(髪がボサボサの太ったおじさん)と特に懇意。前妻との間にふたりの息子がいるが疎遠。武器取引に関与。シーズン1の途中からイオシを事業の右腕にする。2007年にイオシが撃たれた際、複雑な思いを抱きつつも命を助ける
エリ : アルゼンチン・イスラエル相互協会勤務。左翼政治活動グループ「オファキム」の一員だった
ビクトル・ケッセルマン :エリの恋人。左翼政治活動グループ「オファキム」の一員だった。実家が裕福
ホナス : エリの息子。2007年に誘拐される。その後、両親とともにイスラエルへ移住
ズニ : “イオシ” として最初に勤務する布地店(マルコス・ナウム株式会社)の主
マルセロ : ラビでゲイ。オスカルがパートナー
[武器取引関与者]
アロン・ラム : イスラエル諜報機関モサドのメンバーでアルゼンチンで活動。当初はイオシを怪しんでいた。サウル・メナヘムとの関わりが深く、武器取引にも関わる
オラシオ・グティエレス : アルゼンチン軍の脱走兵。パラグアイで武器の闇取引をしている
カダール : エジプト人?シリア人?かつてシナイ半島でサウル・メナヘムと捕虜交換された因縁で彼との付き合いが続いている。アルゼンチン政府に太いパイプがある
[主人公ホセ・ペレスの家族]
オルガ・ラミレス : ホセの母
アブラハム・グルスベルグ : ユダヤ人でホセの継父。開業医だった。義理の息子ホセに嫌われているにも関わらず、助けになろうとする
ウーゴ・ペレス : ホセの父。ホセが少年だった頃に自殺
シーズン2(8エピソード)
相変わらず話が前後して、どこからどこへつながっているのかがわかりづらくて困ります。「○○の●●カ月前」とか「○○の●●カ月後/●●年後/●●日後」とか刻み過ぎ。シーズン2に登場するシーンが、シーズン1のそれらより後の出来事というわけでもありません。脳内の情報整理が煩雑になって「同じ時期の話は、ひとつの流れでまとめてくれ~」と叫びたくなります。しかし非常に深い物語です。
シーズン2でイオシ(ホセ)はイスラエルの諜報機関モサドの二重スパイとなります。スパイには一般的に許されていない家族をもち、任務との間で葛藤するイオシ(ホセ)の姿も描かれます。
あらすじ
1990~1991年の湾岸戦争の際、イラクの保有しているミサイル “タムズ1” がアルゼンチンの “コンドル2” に酷似していることが取りざたされました。その頃、イスラエルのモサドは北アフリカスペイン領セウタを経由しての武器密輸を疑って監視。しかし特定できませんでした。
1992年のアルゼンチン・イスラエル大使館爆破事件の後、モサドのアロン・ラムの橋渡しにより、イオシ(ホセ)は二重スパイを志願。自身の潜入中、アルゼンチン諜報局へ流した二次情報が爆破テロに使われた可能性があり、責任を感じるためモサドに協力したいと説明します。モサド側の意見は割れましたが、アルゼンチンの武器取引に関する情報が得られることを期待してイオシ(ホセ)を採用します。
一方、ラ・リオハへ身を隠していたサウル・メナヘムは、アメリカへの配慮からカダールの代わりに武器取引を主導するよう大統領から申し渡されます。取引にはイオシ(ホセ)も関与します。
サウル・メナヘムの娘ダフネが連れ去られます。父サウルとイオシ(ホセ)は誰が仕組んだかを見抜きます。そして大きな痛みを背負うことになります。
イオシ(ホセ)が二重スパイになって後の1994年7月18日、アルゼンチン・イスラエル相互協会爆破事件が起きます。その後もイオシは “コンドル2” を探し出すため、情報を集め続けます。
2008年、モニカ・ラポソ(元放送局プロデューサー)とコンタクトを取り、国家の陰謀を明るみに出そうとするイオシ。エリの産んだホナスはイスラエルで暮らしており、実の父イオシについてもっと知りたいと思っています。
2023年、壮大な物語のなかのふたつの物語が終わります。イオシ・ペレスは現在、証人保護下にあります(←この部分は事実です)。
主要な登場人物(シーズン1で紹介した人物を除く)
[イスラエル諜報局(モサド)関係者]
モシェ : モサドの諜報員。アルゼンチンからの武器の買い手を特定できればイスラエル大使館爆破事件についても解明できると考える。演じているのはイツィク・コーエンで「ファウダ-報復の連鎖-」のギャビ役の人。表情や顔つきはギャビのときと違っている
リナ・ダヤン : モサドの諜報員。イオシ(ホセ)を二重スパイにすることに反対していたが、上官のモシェに説得される。ホセへの連絡係となる。演じているのはモラン・ローゼンブラット。こちらも「ファウダ-報復の連鎖-」にモレノの妹アナット役で出演
[アルゼンチン連邦警察関係者]
ユリアルテ : 制服を着用。本物の警察官の制服とは微妙に違っている。警察勤めの車両管理係かもしれない。ダフネ誘拐に何らかの形で関わっている。エピソード2にしか出てこない
アセベド : ダフネ誘拐に関与。実はシーズン1にも出ていたがストーリーに絡む存在ではなかった
[ジャーナリズム関係者]
モニカ・ラポソ : 一線から退いているが元は放送局のプロデューサーでジャーナリスト
レオナルド・フォレスター : モニカが信頼する記者。しかしガリードに功名心をくすぐられ、イオシを窮地に追いやる
[アルゼンチン軍関係者]
エンリケ・フォンタナ : 元空軍将校。刑務所に収監されていたが “コンドル2” のありかを知っていると述べ、イオシと取引する
[ロケ地]アルゼンチン、ウルグアイ、イスラエル