息をのむスクープ合戦―イギリスのドラマ「プレス 事件と欲望の現場」

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原題は “PRESS”。視聴したのはごく最近ですが、公開されたのは2018年と随分前。…ですが、週末などに視聴するに適したコンパクトサイズの作品で楽しめます。

大手新聞社 “ヘラルド” vs タブロイド紙 “ポスト”。 眠らない新聞社の果てなき戦い!スキャンダラスな事件とそれを追う記者たちの奮闘と葛藤…新聞業界の内幕をスリリングかつドラマチックに描く!

Amazonプライムビデオの説明より(そのまんま転載)

評価をみると一般視聴者にはかなり好評だったものの、ジャーナリストや新聞社の現実を知る人たちは「面白い内容だが、ステレオタイプで古くさい」あるいは「現実と異なる」と辛口のコメントを寄せています。その辺りがシーズン2へと続かなかった要因かもしれません。

本作自体はシーズン1で打ち切りとなりましたが、インドで2022年に「ザ・ブロークン・ニュース」としてリメイクされました(一般視聴者の評価はよく、特にシーズン2で高い)。そちらも機会があれば視聴したいと思います。

製作の背景や時期について

イギリスの新聞業界においては高級紙/大衆紙の棲み分けが明確で、前者の代表が “タイムズ” と “ガーディアン”、後者の代表が “サン” と “デイリー・ミラー” とされています。

本ドラマに登場する新聞社は次のような位置づけになっています。

大手新聞社 “ザ・ヘラルド”:歴史があり、格調と信頼度が高く、社会問題に向き合う正統派でリベラル寄り。クオリティペーパーということもあって、広告収入獲得にも慎重で資金難(プライドが高いゆえに貧乏)

タブロイド紙 “ザ・ポスト”:歴史が浅く、俗っぽくて信頼度が低く、部数を伸ばすためには手段を選ばない大衆紙。メディア王の傘下にあるため資金が潤沢

インターネットの普及により、日本でも紙や宅配の新聞が売れなくなり、ネットニュースへのシフトが進みました。2015年頃には、全国紙すべてで有料オンライン版がスタートしています。

本作は2018年の作品なので、その “イギリスバージョン” と思って視聴しても興味深いと思います。

また作中においてMI5(イギリスの情報局保安部)のメンバーから告発が行われます。そのトピックは、2013年に元NSA/元CIA職員エドワード・スノーデンによって、アメリカ合衆国が個人情報を極秘に集めていることが明らかになった国際的な大事件を思わせます(あの辺りに着想へ得たのかなと)。

登場人物

「ピーキー・ブラインダーズ」のシーズン2と4でメイ・フィッツ・カールトンを演じていた、トム・ハーディングの妻シャーロット・ライリーが “ザ・ヘラルド” 副編集長のホリー・エヴァンズを演じます。

狡猾で上昇志向の強い “ザ・ポスト” の編集長ダンカン・アレンをベン・チャップリンが演じています。私は彼の作品をほぼ観たことがないのですが、経験豊富なベテラン俳優であるらしく、細かな機微を見事に表現しています。

ザ・ヘラルド関係者

  • ホリー・エヴァンズ:信念と根性のあるニュース編集者で副編集長。後に “ザ・ポスト” に移籍して特別記者となる
    • アンドレア・リードというルームメイトがいた
  • ジェームズ・エドワーズ:事件を追う調査報道記者。公正なジャーナリストとしての使命感が強い
  • レオナ・マニング・リンド:若手の記者。駆け出しでうっかり者だか、熱意はある
  • アミナ・チャウドリー:編集長。部数が低迷しているので起爆剤が欲しいと思っている。離婚歴あり
  • ピーター・ラングリー:副編集長。既婚者
  • クリス・カートライト:マイルールで動く、老いた記者
  • クレイグ:ホリー・エヴァンスの向かい側に座っている記者
  • エスメ:アミナの助手(アミナが「自分の妹分」みたいなことを言っていたが、生物学的な妹かどうかは不明)
  • ジャスティン:広告担当
  • トーマス・レイシー:法務またはロジスティクス担当?

ザ・ポスト関係者

  • ダンカン・アレン:計算高く、上昇志向の強い編集長。“ザ・ヘラルド” のホリー・エヴァンスを記者として高く評価している
    • 妻(後に離婚)はサラ、息子はフレッド。愛人はクリスティーナ
    • サラの新しいパートナーはマックス
  • エド・ウォッシュバーン:新米記者。“ザ・ヘラルド” を希望していたが採用されなかった。這い上がるのに必死で、スクープのために一線を越える。ホリー・エヴァンスのルームメイトになる
  • ラズ・カーン:ニュース編集者
  • ルーシー・レッドフォード:ダンカン・アレンの秘書
  • ケリー:副編集長
  • ジョージ・エマーソン:ワールドワイド・ニュースの会長兼最高経営責任者、“ザ・ポスト” のオーナー
    • モデルは “ザ・サン” のルパート・マードックかもしれない(メディア・コングロマリットのニューズ・コーポレーションを立ち上げた世界的メディア王/現時点で94歳で存命/5回結婚していて直近は92歳時という驚異的なおじいさん)
  • アンジー:記者
  • ジュールス:就業体験でエドに付いて学んでいる

その他(取材対象など)

  • ジャック・キングズリー:自殺したサッカー選手ショーンの父親。妻はマリー
  • ウェンディ・ボルト:コラムニスト。“ザ・ヘラルド” の記者レオナと親しい
  • カーラ・メイソン:労働年金省の大臣。国会議員
  • ジョン・ブルックス:MI5(イギリスの情報局保安部)元職員。計画名 “共鳴” に関して告発を行う
  • デニス・アシュトン:取材/報道のあり方に問題提起する事件被害者
  • フランク・パウエル:鉄鋼組合の実力者
  • ベル・ヒックス:人気子ども番組の司会者
  • リンダ・パークス:聖マーガレット病院の職員
  • ゴイル:“ザ・ヘラルド” の広告主 “ライデイル”(途上国の子どもたちに搾取的労働をさせている) の経営者
  • マシュー・ハーパー:首相。“ザ・ポスト” のダンカン・アレンに情報提供している
  • ジェフ・ニューマン:男児殺害事件についてエドとレオナが取材した人物
  • ジョシュア・ウェスト:億万長者の慈善家
    • レイチェル・ギルモア:性的暴行の被害者。母はアンジェラ
    • スザンナ・ヒル:慈善事業(就業コース)参加者
    • シーナ・パテル:ジョシュア・ウエストと不適切な関係にあった

アドナン・ホムシ:シリア難民の青年

ミセス・ライオンズ:いじめで逮捕されたダニー・ライオンズの母親

感想・メモ:全般に面白いが、自分に甘い記者たちには疑問

競合他社の記者に対する振る舞いが「ありえない」

情報の鮮度/貴重性/話題性を競って、日々記事を送り出している “ザ・ヘラルド” と “ザ・ポスト”。願っていたような就職ができず、不本意ながら大衆紙 “ザ・ポスト” の記者となったエド・ウォッシュバーンは2度、ヘラルドの記者から情報(ニュースソース)を盗みます。

[1回目]エドは “ザ・ヘラルド” の副編集長ホリー・エヴァンスに誘われてルームメイトになり、彼女の情報を盗みます。機密保持の大切さを痛いほど理解しているはずの編集者(しかも副編集長)が、競合の記者と一緒に暮らすとか「ありえない」と思います。盗んだエドが悪いには違いないのですが「そもそも何かがおかしいわ」と強烈な違和感。日本で言うと(雑誌ですけれど)文春の記者と新潮の記者が同居して、その辺に自分のパソコンを置きっぱなしにしていたら変でしょう?

[2回目]エドは偶然パブで出会った “ザ・ヘラルド” の若手記者レオナと酒を飲みます。彼女がトイレに行っている間に、席に置いたままのバッグの中から重要な情報を掴みます。トイレに行く際、バッグを席に置いていくズボラな女性がいるでしょうか?治安の比較的よい日本でさえ、貴重品くらいは持っていくはず。セキュリティや職務に対する意識が欠如し過ぎていて、レオナが記者として立身出世する未来がまったく見えません。

スクープを狙うレベルの貴重な情報ソースを盗まれるだけでも脇が甘すぎるのに “ザ・ヘラルド” 副編集長のホリー、新米記者のレオナ、いずれも平然としていて、自分のミスが生んだ結果に対する責任を取ろうという態度が微塵もありません。それにも驚きました。

新聞の「入稿⇒印刷⇒スタンド」のフローは美しい

私は新聞が紙媒体の王者だった時代に生まれ育っているので、①時間と闘いながら記者/編集者が原稿を仕上げて入稿する、②考え抜いて作った版が輪転機を通して印刷されていく、③それらが各地の売店に納入されスタンドに配架される、というフローを見るとジーンときます。

デジタル、インターネットをベースにしたメディアは紙媒体に比較すると、関係者が時間や場所を同じくして足並みを揃える必要がありません。“みんなで頑張っている感” は紙媒体のほうが強いです。

夜討ち朝駆けで足を運んで取材するスタイルは今も存続しているのでしょうが、SNSのコメント欄やDMを通じて情報を獲得しようとするメディアが増えました。自分が動かなくても情報が集まりやすい環境が整ってきたことで、抜けるだけ手を抜くという印象が強くなってきました。

また紙媒体では誤字や乱丁落丁があった場合、シールを貼る/正誤表を作る/瑕疵のない新品に交換する/謝罪文を発表する等せねばならず、追加のコストが発生します。モニターに向かってちゃちゃっと適宜修正したり、サーバーに再アップロードしたりすれば済むようなものではありません。

紙の新聞とはモノであり、モノのもつ重み、その背景にある物語には感じ入るところがあります。出版関係で働いた経験があるので、華やかに見えて労働集約的な業界、かつてはそうであったことを知っています。

そんな私も現在、紙の新聞はとっておらず、雑誌は買わず、書籍もさんざん考え抜いてからしか買わなくなっています。そんな自分が言うのもなんですが、印刷メディア受難の時代に悲哀を感じずにおれません。

真剣な読者は少ないが、作り手の思い入れは想像以上

ネットニュースを含めた新聞読者は、作り手が願うほどには真剣に記事を読んでいないものです。その一方で、何を記事として取り上げるか、どのような切り口で書き上げるか、見出しをどうするか、写真はどれを使うか、記事相互の配置や優先順位をどうするか等、新聞社や編集部は毎日が思い入れの塊。このドラマは、成果物完成の陰で流された汗や涙について改めて考えるきっかけになりました

「真面目に読んで損したわ」というようなネット記事がこの世には溢れています。「それでも敬意を払って読むことを心がけたい」と思いました。

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