年度末のせいか、仕事が多忙を極めていて更新の間があきました。
「紅海リゾート」の後なので「ホテル・ムンバイ」でいこうと思います。「ホテル・〇〇」のなかでは「ホテル・ルワンダ」や「ホテル・ニューハンプシャー」のほうが印象深かったのですが、私の利用している動画配信サービスのなかにはないので「ホテル・ムンバイ」です。
2008年に起きた、イスラム原理主義者たちによるムンバイ同時多発テロ。その際に一流で名高いタージマハル・ホテルにいた人たちと、彼らを守るために手を尽くしたホテルマンたちの4日間を描いています。ホテル内のエピソード詳細が事実と同じかどうかはともかく、大筋で実話通りと思われます。ムンバイはインドにおいて金融都市という位置付けです。
[キャスト]
- アルジュン (デーヴ・パテール):タージマハル・ホテルに勤務。妊娠中の妻(染物工場のようなところで働いている)と幼い娘がいる。とりあえずターバンが目印。演じるデーヴの両親はケニアのナイロビ出身で、彼はロンドンで生まれ育っているがインド系。
- デヴィッド (アーミー・ハマー):アメリカ人建築家であり、妻や赤ん坊、ベビーシッターを伴ってタージマハル・ホテルに宿泊。ざっくばらんな男性。演ずるアーミー・ハマ―は近年スキャンダルにまみれているが「善き夫」役がそれなりにある。
- ザーラ・カシャニ (ナザニン・ボニアディ):イラン人の富豪令嬢。デヴィッドの妻。キャメロンという赤ん坊がいる。演ずるナザニンはイランのテヘラン出身でイギリスで育つ。ドラマ「HOMELAND」に出演していたな、美人だなという印象。元サイエントロジー信者でトム・クルーズとの関わりが深かった。
- サリー (ティルダ・コブハム=ハーヴェイ):デヴィッドとザーラの息子のベビーシッター。演ずるティルダはオーストラリアの女優。幼い頃からサーカスで活躍していたという変わり種。そしてアルジュン役のデーヴ・パテールの私生活でのパートナー。2023年のドラマ「赤の大地と失われた花」では主人公アリスの母アグネスを演じている。
- ヘマント・オベロイ (アヌパム・カー):タージマハル・ホテルの料理長。一流としての品位を大切にしているため部下に厳しいが面倒見はよい。演ずるヘマントはインド出身で、450本近くの映画と100本近くの舞台劇に出演したベテラン俳優。しかし私はこの人の出演作をほとんど観たことがない。
- ワシリー・ゴルデツキー (ジェイソン・アイザックス):NVキャピタル社長でタージマハル・ホテルに宿泊。ソ連特殊部隊の元将校。お金はあるが品はないタイプ。演じるジェイソンは打ち切りになったNetflixのドラマ「The OA」でハップ役だった人。イギリス人だがロシア、ポーランド、ベラルーシの血を引く。
- ブリー(ナターシャ・リュー・ボルディッツォ):バックパッカー。恋人エディとともに食事をしていたカフェ・リロパルでテロに遭い、タージマハル・ホテルへ逃げ込む。演じるナターシャは中国とイタリアの血を引き、オーストラリアで生まれた。テコンドーの黒帯をもつ。
- エディ(アンガス・マクラーレン):バックパッカーで恋人ブリーとタージマハル・ホテルへ逃げ込む。演じるアンガスはオーストラリアの俳優。ミュージシャンでもある。
- あとはテロリストがいろいろ。主要な登場人物としては「ブル(音声でテロリストたちを動機づけ、彼らに指示を出す男)」「アジマル(CST駅へ)」「イムラン(カフェ・リロパル ⇒ タージマハル・ホテル)」「アブドラ(タージマハル・ホテルへ)」など。
導入部のあらすじ
テロリストたちがボートでムンバイ入りします。それぞれが指示に従って目的地(ムンバイ南部にあるCST駅/カフェ・リロパル/タージマハル・ホテル/病院など)へ移動。
その頃、建築家デヴィッドと富豪令嬢ザーラの一行を迎えるため、ホテルは準備に力を入れていました(雰囲気としてはVIPなのはデヴィッドではなく妻ザーラのほう)。やはりVIPであるワシリーは、レストランでのディナーの後、スイートルームにコールガール(?)を呼んでのパーティーを予定しています。
その後、CST駅で乗客と駅員が射殺され、警察車両が奪われます。次にカフェ・リロパルが襲われます。テロにより逃げ惑う人たちがタージマハル・ホテルへと押しかけ、ホテルはそれを受け入れますが、そのなかにテロリストたちが混じっていました。
そのような事態に気付いていないデヴィッドとザーラは赤ん坊をシッターとともに部屋に残し、ワシリーもパーティーに呼ぶ女性の手配をしながら、ホテル内のレストランで食事を楽しんでいます。アルジュンは給仕を担当。そのとき館内でも発砲が起き、人々が凶弾に倒れていきます。
特殊部隊は1300キロ離れたニューデリーから数時間かけてムンバイへと向かいます。そんななか、ホテルの従業員たちは危険を顧みず、人々の命を守ろうとしますが…。
感想
人々に身を隠していて欲しいホテル側、子どもやパートナーの安全確認のために、あるいは自己都合で館内を移動したい宿泊者たち。どちらの気持ちも分かるので、葛藤しつつの視聴となりました。特にデヴィッド、妻のザーラ、ベビーシッターと赤ん坊。館内で別行動となってしまい、合流しようとしても上手くいかない感じがじれったかったです。
報道によれば1000人を超える宿泊客と500人を超える従業員がホテルに閉じ込められている状態だったそうですが、ストーリーの進行上、視聴者の意識が散漫にならないようにでしょうか、宿泊客はホテル内でバラバラとなるデヴィッドのグループ、自己中のワシリー、バックパッカーのカップルに焦点を当てて描かれます。従業員も料理長、アルジュンほか10名程度を中心に救出行動を展開していきます。
焦点が絞られていて物語としては理解しやすかったのですが、登場人数をはるかに超えていたはずの人々はどのように過ごしていたんだろう?とは思いました。
タージマハル・ホテルは「お客様は神様」という認識で運営されているようです。「お客様は神様」は日本の得意分野、かつ世界のなかでも特殊な価値観と思っていましたが、インドにもそういう考え方があることを知りました(インドは “聖者から詐欺師まで整理のつかないカオスの国” というイメージが強い)。
人間は致死率100%。誰もが必ず死ぬのであるから誇り高い行動を執りたいものです。しかし、言うは易く行うは難し。
この映画を観る限りでは、貧しく満たされない青年たちに対し “搾取者” としての異教徒社会を滅ぼすようにテロリスト教育がなされているように見えました。だから資本主義世界の象徴ともいえる金融都市ムンバイをテロの舞台に選んだのかもしれません。テロリストの多くは死に至ります。それも “ジハード” の一部のようですが、信仰の自由はあるにせよ、死にそのような意味を付加するのはどうかと思います。
ホテルで人々の脱出に尽力した人たち、テロリストたち、どちらも勇敢であったとは思いますが「高潔な勇気とは、果たしてどういう性質のものなのだろう?」と考え込んでしまう映画でした。
犠牲者となった人々の半数はお客さんを守ろうとしたホテルの従業員。パキスタンから音声でテロリストたちに指示を出していた人物は2019年時点では捕まっていません(今はどうなのでしょう?)。
[ロケ地]インド、オーストラリア、アメリカ、アラブ首長国連邦、バングラデシュ