原題は “Mezarlik”。来る27日からシーズン2が配信されるとのこと。そのニュースを知るまで存在にすら気づいていなかったドラマで、調べてみたら評価が高かったので視聴しました。1エピソードが1時間半強と長尺ですが、シーズン1のエピソード数は4つとコンパクト。
エピソードのなかでは「湖の中の女」と「しがらみ」が特に高評価を得ています。
主人公の刑事オネム(女性が犯罪被害者となったケースを担当する特別捜査班のリーダー)が美人です。死体や解剖シーン等が登場するため、グロテスクなものが苦手な人には向かないかもしれません。
エピソードの概要
冒頭のテロップです。
すべては原点へ返る。肉体は地へ。血は水へ。熱は火へ。呼吸は風へ。調和に生まれ、調和に死す…
なぜこの文言を最初に示したのか、よくわかりません。とりあえず東洋の思想の影響を感じさせる内容です。
イスタンブールが “西洋と東洋の交わる地” と言われてきたことと関係があるのかもしれません。
【シーズン1を通して登場する人たち】
オネム・オズルク:イスタンブール警察の警部。女性が犯罪被害者となった事件(フェミサイド)を担当する特別捜査班のリーダー。スーデという高校生の娘がいる。夫バハドゥルは事故により死去
ハルク・アタ:イスタンブール警察副本部長。オネムを特捜班のリーダーに任命
ハサン・デュリュ:定年退職間近のベテラン警察官。記録保管室に2年間勤務。特別捜査班は記録保管室内にあり、オネムの部下として捜査に加わる。年の功的な働きをする。3年前に娘を失っている
セルダル・アタ:治安局から異動してきた特捜班のメンバー。副本部長ハルクの息子で父とは折り合いが悪い
ゴカン・デミルデレン:検事。性差別的傾向がある。態度は高圧的
フェリハ・マフムツァーデ:法医学の専門家で検視官。離婚歴あり
ベルク・グレリュズ:刑事局から鑑識へ異動した警官。ウンチクが長くてオタクっぽい。しばしばオネムのチームに参加する
ネルギス・ウズメズ(ソフィア):ITの達人。父を刺したことがあり、その事件を担当したのがオネムという関係にある
エピソード1「太陽より熱く」(Gunesten Daha Sicak)
導入部あらすじ
オネム警部をリーダーに、女性憎悪犯罪に関する特別捜査班を立ち上げることを発表する記者会見。彼女が “フェミサイド” について説明するシーンから始まります。
「フェミサイドとは性差に起因した犯罪であり、女性が “女性である” という理由だけで殺害されます。加害者は被害者の近親者であるケースが多く、同僚や社会的集団の中での事件の割合は1000件に6件です。2020年には、2019年と比較してその数が…」そこでオネムは言葉に詰まる。警察副本部長ハルク・アタが助け舟を出し「…激減しました」と締めくくる
オネムの娘スーデは家で原稿に目を通して「減ってなんかいない」と憤慨。警察の表向きの発表と実感の間には乖離があるようです。
特別捜査班は科学捜査研究所と協力体制を敷きます。同班は地下の記録保管室内に設置され、エレベーターではアクセスできないその部屋は “墓地” と呼ばれていました。
そこで退職間近のベテラン警官ハサン、副本部長の息子セダルを部下としてオネムの仕事がスタート。途中からITの達人ソフィア、鑑識に異動したはずのベルクもときどき加わります。
廃工場で女性の焼死体が発見されます。法医学チームの解剖によって暴行の直後に生きたまま焼かれたことが判明。体内から発見された人工装具から、被害者はアレブ・グルプナルであると特定されました。彼女は28歳、テレビ局でアシスタントをしていました。
登場人物
メティン・ギュレリ:「時事激論」という番組をもつキャスター。セブダという妻がいる
アレブ・グルプナル:テレビ局のアシスタント。姉ゼラル、兄アフメトがいる
エルダル・ビルギン:番組でコメントする准教授。性差別主義者。グルセランという妻がいる
セズキン:スーデの通う高校の校長
ディデム:シェルターの責任者
メルテム:DVに苦しんでいた女性消防士
エピソード2「もう一息」(Bir Nefes Kadar Yakin)
導入部あらすじ
オネムは深夜に呼び出されます。ソフィアが助けを求める女性から男性を遠ざけようとしてカナドルカヴァウ警察署に連行され、その身柄を引き受けるためです。
そんなとき、セルダルから電話が入ります。バーの人気歌手ネフィセ・ケスキンの死体がカドゥキョイのゴミ捨て場で発見されたというのです。調べの結果、所持品はなく、MDMA系薬物が検出されました。
現場近くにいたホームレス風の女性は「青い悪魔を見た」と証言。彼女がゴミ捨て場から持ち去ったと思われる黒いバッグをオネムらは押収します。
当初、殺人の証拠は見つからず、捜査班はネフィセの自宅を訪問。家族は、彼女が歌手として活動していたことを知りませんでした。彼女が大学の神学生を装いつつ、歌手を目指して州立音楽院で学ぶという二重生活を送っていたことをチームは突き止めます。
登場人物
ネフィセ・ケスキン:バーで歌う人気歌手(イスラム教徒で本業は神学生)。スルタンベイリの貧しい地域で父フェイズラ、母、姉ムネヴェールと暮らしていた。メフメトという兄がいる。SNS上では “ネフェス” を名乗っていた
パパティア:ホームレスの女性
オズゲ:州立音楽院の学生
ギュルギュン:州立音楽院の学生。歌手セブタ・ギュネシの娘
エムラフ:州立音楽院の教授
イスラフィル:バーのオーナー
テキン・マチカン:バスの運転手。ネフィセ(ネフェス)に付きまとっていた男
ユスフ・エレン:ネフィセ(ネフェス)の兄メフメトの友人。ザヒデという母がいる
エピソード3「湖の中の女」(Goldeki Kadin)
導入部あらすじ
湖に沈められていた死体が浮かび上がり、発見されます。30~40代の女性と思われました。歯は高価な外国製のインプラントで経済的に豊かだったことが推察されます。
調べにより、死体は投資顧問業のイライダ・プナルであることが判明。彼女のトレーナーだったセルハト・アルクルチが捜査線上に浮かびます。
一方、司法解剖によってイライダが酷い暴行や拷問の末に命を落としたことが示唆され、加害者はサイコパスであるとの洞察へ導かれます。
その後、湖の潜水捜査によって、さらに5体の女性の死体が収容されます。連続殺人事件を視野におく必要が生じ、副本部長は特捜班のキャパシティを超えていることを理由に2日間の猶予の後は殺人課に引き継ぐよう、オネムに指示します。
そして死体となって収容された女性の周辺を調べるプロセスで、彼女の自宅に監視カメラが仕込まれていたことを発見。湖底に沈められた女性たちの事件は思いも寄らぬ方向へと展開していきます。
登場人物
ドアン・ラウフ:森林職員で湖の死体の発見者
イライダ・プナル:投資顧問業。マジデという母がいる
ヤルチン・グルゲン:イライダの元夫。やはり投資顧問業。嫉妬深い性格。イライダは二番目の妻で、最初の妻イェシムは6年前に失踪
セルハト・アルクルチ:ジムのトレーナー。イライダを含む中高年女性たちを口説いていた
チェティン・アサク:多種多様な前科のある男
エルクト・グムス:インターネット会社のサポートスタッフ
エピソード4「しがらみ」(Dugum)
導入部あらすじ
闇の中で、赤紫の長い髪の女性が、赤い粉のようなものが入った容器を立ち入り禁止エリアの砂の上に置いて撮影しています。携帯電話に着信があり、彼女は「すぐに帰るから心配しないで。見つけたわ」と言います。
夜が明けて、彼女は後ろ手に拘束された下着姿で死体となって発見されます。“地(Toprak:土壌)” というタトゥがあります。
イスタンブールでは “殺人水兵” と呼ばれるシリアルキラーが話題のようです。オネムは“セゼン” を名乗り、“アデム” を名乗る男とデート。彼が “殺人水兵” であるとの疑いに基づく、おとり捜査です。彼は「不確かな世界で自分の安全を信じて生きている女性たちに真実を教えたい」という異常な人物でしたが、手口が酷似しているにも関わらず、ニリュフェル・ステーン(赤紫の髪の女性)のケースについては自分の犯行ではないと主張。
彼女がベルギーから帰国したばかりの、しかも優秀なジャーナリストであることが判りましたが、スマホやカメラは見つからず、オネムたちは残されたメモから周辺を洗います。
そして、ニリュフェルが “ヴェルヒフ鉱業” を追っていたことを知ります。
特捜班ではベテラン警官のハサンは退職の手続きを進めており、メンバーは寂しさを感じています。オネム警部も公私ともに行き詰まりを感じて苦悩。みんなが穏やかではありません。
登場人物
アデム:本名は “タルク”。“セゼン” を名乗るオネムとデートする男
ニリュフェル・ステーン:“地(Toprak:土壌)” というタトゥを入れた、赤紫の髪の女性。ベルギーでジャーナリズムを学んだジャーナリストで、トルコに帰国したばかり。夫ミカエルは新聞記者
シャホール夫妻(フェリットとメロディ):ニュースサイト “ヴィハベル” のオーナー。ウムットは同社のスタッフであり、夫妻の息子
カムラン・エキン:カルタル在住。ニリュフェルのおば。遺伝性の多発性硬化症の息子がいる
ヤシン:“ヴェルヒフ鉱業” の門衛。チェバトは同僚
ステファン・アンドレ:“ヴェルヒフ鉱業” の警備主任
レヴェント・ケマル:“ヴェルヒフ鉱業” の中東地域の責任者。警察副本部長とは旧知の仲
感想:骨太の内容&どんでん返しに引き込まれる
「特捜部Q」シリーズを思い出す
あくまでも個人的な感覚に過ぎませんが、デンマークの映画「特捜部Q」シリーズを思い出しました。どこが似ているかというと次のようなところです。
- 主人公は新たに設置された特別捜査班に転属となる
- 地下の一室に設けられた一画が彼らの居場所
- 他部署で閑職にあった人物、問題児が主人公の部下となる
- 上層部が期待していた以上の成果を挙げるが、捜査に対する情熱がありすぎて “過剰” との批判を受ける
- 事件の内容がグロテスク、残酷であることが多い
事件の意外性、奇想天外な構造は “過去の未解決事件” に焦点をあてた「特捜部Q」のほうが飛び抜けていますが、「沈黙の墓地」のテーマは “犯罪被害者としての女性” でしょうから不思議はありません。また「これで一件落着かな」と思った後に(だいたい2分の1の時間が経過した頃)新たな展開&どんでん返しが用意されています。
どちらの作品も1話ごとに事件が完結していきます。
トルコでは女性虐待が珍しくない?
30年くらい前、トルコを旅したことがあります。
イスタンブールの繁華街で、男性(恐らく夫と思われる)がチャドルを身にまとった女性(妻と思われる)を建物のコーナーに追い詰めて罵っている様子を目撃。彼女は殴られたのか、左頬を手で押さえていました。女性が怯えているのも意に介さず、男性は怒りを露わにしていました。例えば日本を旅している外国人が、そういう光景に出くわすことがどれくらいあると思いますか?
それがトルコの国民性なのか、宗教の教えのもたらしたものなのか、通りすがりの者にはわかりませんでしたが、男性と女性の関係性の傾向は窺えます。
男性が力をもっていて、女性は従者であり弱者。30年前、トルコの人たちは日本人旅行者の私たちに親切に接してくれました。しかし、社会全体には女性虐待の側面があるのではないかと思っていました。
実際のところ、トルコに関する報道を見ると今なお、そういった傾向はあるようです。
法医学とITを糸口にしているところが面白い
優れたハッカーが捜査協力するという設定を近年よく見かけます。法医学(ならびに科学捜査)も新たな技術や発見によって進化しています。私自身がそれらの分野に疎いので、それがずば抜けたレベルなのか、技術的にリアリティのあることなのか、先端のノウハウを反映しているのかはわかりません。
しかし、それらふたつの手法が未解決事件の捜査に活用されていくという筋書きは、警部たちの経験に基づく深い洞察、地道で粘り強い捜査をサポートするものとして物語の奥行きを広げることに成功しています。
特捜班メンバーの家族問題、人間関係にも注目
特捜班と関係の深いメンバー、それぞれに家族のトラウマがあります。
オネム・オズルク:夫バハドゥルの事故死には自分の過失(仕事で遅くなり、娘を迎えにいけなくなったこと)が関わっていると思っている。思春期の娘スーデとしばしば衝突。そんな娘の言葉に導かれることもある
セルダル・アタ:無謀な性格で、安定志向の父(警察副本部長)から認めてもらえていないと感じてきた。長年のフラストレーションを抱えている
ハサン・デュリュ:3年前に娘を事件によって失い、一家が離散
フェリハ・マフムツァーデ:夫と離婚
ベルク・グレリュズ:父親を殺害された
ネルギス・ウズメズ(ソフィア):父親に対する傷害事件を起こしている
特捜班が結成された頃はメンバー間に軋轢、意見の衝突もしばしばありました。しかし、それぞれの持ち味が最大限活かされ、素晴らしいチームワークの部署となります。
警官たちも完璧な人生を送ってはおらず、家族との間に問題やトラウマを抱えています。言い古された表現かもしれませんが、“チームがもうひとつの家族” となって事件捜査に当たり、人間としても成長していく姿はしばしば感動的。シーズン2が楽しみです。