冒頭の謳い文句として「時代は指紋→DNA→デジタル・エビデンスへ」とあります。先の投稿で遺伝子捜査についてのドラマ/ドキュメンタリーを取り上げたので、今回はデジタル・エビデンスものを紹介しようと思います。
タイトルは「デジタル・エビデンス -新時代からの証拠-」(原題:WITNESS TO MURDER:DIGITAL EVIDENCE)。アメリカのドキュメンタリーです。
なお、Amazonプライムビデオでいうと、似たようなタイトルで「ニュージェネレーション-21世紀の殺人事件-(原題:MURDER IN THE 21ST)」というものがあります。そちらはデジタル・エビデンス自体にさほどフォーカスしていません。
見どころ
携帯電話の通話記録/通信記録/位置情報が犯罪捜査に使用されることは比較的知られていることだと思います。それら以外にもデジタル・エビデンスにはいろいろあり、このドキュメンタリーを観て、興味深く感じたのは以下のようなところです。なお、あくまでもアメリカのケースであり、ほかの国でデジタル・エビデンスが現状どのように扱われているかはわかりません。
- デジタル・エビデンスは状況証拠にはなっても、物証に代わるものではない(例:位置情報で犯行現場にいたことが判っても、殺人を行ったことの証明にはならない)。しかしIT技術の精度や可能性の高まりに伴い、デジタル・エビデンスのみでの有罪が成立するようなケースも出てきた ⇒ エピソード8
- 携帯電話の通話記録/通信記録/位置情報すら原始的なエビデンスになりつつあり、“ジオフェンス” はネットワーク社会の見えない網を活用したデジタル・エビデンス。例えば自宅にいてさえ、スマホは隣近所のWi-Fiルーターを検知してリストアップする。私たちは自分の端末がどの網のなかにあるのか意識しないで生活しているが、プロバイダーはある時間に特定のエリア内に存在した端末を特定することができる ⇒ エピソード9
- 私は所有していないので目ウロコだったのだが、ゲーム機や健康管理トラッカーもデジタル・エビデンスになりうる
- 携帯電話のバッテリー残量もデータから把握できるらしい
- 犯罪者がデジタル・エビデンスを残さないよう意図して行うことが、逆に犯行を裏付ける証拠となる。普段と異なるパターンの解析が行われる
ドキュメンタリーの構成
エピソード1:デジタル・エビデンスは嘘をつかない
- 舞台:2020年8月、アーカンソー州ジャクソン郡
- 事件概況:ジョギングに出かけた看護師シドニー・サザーランドが行方不明となり、その後遺体が発見される。現地は田舎で基地局が少なかった
- デジタル・エビデンス:家族の見守りに適している携帯電話の位置情報アプリ “Life360”。移動速度や地点ごとの滞留時間もわかる
エピソード2:スマホに残った不自然な履歴
- 舞台:①2016年10月、カリフォルニア州エスパルト ②2016年11月、カリフォルニア州ウッドランド
- 事件概況:①10代の少年エンリケ・リオスが失踪、②エンリケの友人イライジャ・ムーアが失踪。過去に家出歴等があったため、警察では失踪と扱われず家出とされた
- デジタル・エビデンス:携帯電話の位置情報(電源のON/OFF)、通話録音アプリ、削除された情報を含むSNS(Facebook)や検索の履歴
エピソード3:デジタル・ストーカー
- 舞台:2020年10月、オハイオ州ノースカントン
- 事件概況:物流会社で働くシングルマザー、モーガン・フォックスの射殺死体が車内から発見される。彼女は社内で複数の人物から嫌がらせを受けていた
- デジタル・エビデンス:携帯電話の位置情報、アラーム、テキストメッセージ、監視カメラ、SNS(Facebook)への投稿、画面録画アプリ
エピソード4:決定的なデジタル履歴
- 舞台:2020年8月、コロラド州オーロラ
- 事件概況:ローランド夫妻が車内で射殺される。夫ジョセフはフリマアプリで中古車を入手し、メンテナンスをするのが趣味だった
- デジタル・エビデンス:フリマアプリ “letgo”、監視カメラ、携帯電話のIPアドレス/端末情報/位置情報
エピソード5:突如消えたインフルエンサー
- 舞台:2019年6月、ワシントン州バンクーバー
- 事件概況:17歳のインフルエンサー、ニッキー・クーンハウゼンが姿を消す。問題を抱えた両親のもとに育ったトランスジェンダーである。「年上のロシア人男性に会う」と言って出かけたのが最後の姿となった
- デジタル・エビデンス:SNS “Snapchat” “Facebook” “Instagram”など、アプリ/携帯電話の位置情報、携帯電話の通話記録
エピソード6:ゲーム・オーバー
- 舞台:2019年11月、アラバマ州モービル
- 事件概況:サウス・アラバマ大学で経済学の教鞭をとるマシュー・ワイザー教授が自宅で射殺される。現場の情況から強盗の類ではないように思われたが、あるゲーム機とソフトがなくなっていることが判明する
- デジタル・エビデンス:監視カメラ、ネットワーク接続できるゲーム機(IPアドレス)、車載GPS、携帯電話の通話記録
エピソード7:否定できないデジタル・エビデンス
- 舞台:2012年9月、フロリダ州マイアミ
- 事件概況:フロリダ大学の学生クリスチャン・アギュラーが失踪。恋人エリカ、友人ペドロとの三角関係のもつれが疑われた
- デジタル・エビデンス:携帯電話の通話/通信記録/位置情報(バッテリーの残量レベルやモードの切り替えまでわかるらしい)、監視カメラ、懐中電灯アプリ
エピソード8:不穏なショートメッセージ
- 舞台:2010年3月、テキサス州ドリッピングスプリングス
- 事件概況:ジュリー・アン・ゴンザレスが娘を残して失踪。彼女によるテキストメッセージ、SNS投稿が残されていたが、当人によるものか疑わしい点があった
- デジタル・エビデンス:テキストメッセージ(文章の癖や綴りの間違い)、監視カメラ、ネットワーク接続できるゲーム機(IPアドレス)、携帯電話の通信記録/位置情報 ※デジタル・エビデンスのみで有罪が確定した事例
エピソード9:最新のテクノロジー
- 舞台:2018年11月、ジョージア州アトランタ
- 事件概況:俳優志望のミッチェル・ジョーンズが自宅で刺され、病院搬送後に亡くなった。彼のメインの携帯電話は持ち去られていた
- デジタル・エビデンス:監視カメラ、SNS “Facebook”、携帯電話の通信記録/通話記録/位置情報、クラウドサービス ※新技術ジオフェンス(“ジオフェンス” とは仮想の境界線で囲まれた領域を意味し、特定の日時にジオフェンスに存在した携帯端末について警察はプロバイダーに開示請求できる)が捜査に導入された事例。プロバイダーやアプリが位置情報の履歴を収集しつづけることにより、各人の居場所が記録に残る
エピソード10:自白へと導くデジタル・エビデンス
- 舞台:2017年3月、サウスカロライナ州レキシントン郡
- 事件概況:保安官事務所でITを担当していた職員リンジーが自宅の浴槽で遺体となって発見される。健康的な食事やワークアウトに熱心な女性で、夫ジェイソンと離婚話が進んでいた
- デジタル・エビデンス:健康管理トラッカー、監視カメラ、携帯電話の通信記録/通話記録(電源のON/OFF、履歴)、車載GPS、ネット動画配信サービス、スマホアプリ “Fitbit”