アメリカはニューヨーク市、ブルックリン区ウィリアムズバーグのハシディック(サトマール派)に属するエスティは、見合い結婚をした夫(真面目だが相性がよくない)の元から忽然と姿を消してベルリンへ逃げます。そこで好きだった音楽を学ぼうとするのですが、追手がニューヨークからやってきて…という実話に基づいたドラマ。ウイリアムズバーグでの暮らしは原作に忠実、ベルリン以降のストーリーはフィクションだそうです。
ハンガリーの町シャトマールを起源に持つサトマール派はハシディックの一派で、厳格なユダヤ教超正統派。第二次世界大戦後のホロコーストから生還した人々がニューヨークで作った共同体で、イディッシュ語で話し、トーラー(律法)を厳しく守って生活しています。
ハシディックの慣習を細部まで忠実に描いているので、ユダヤの文化に関心のある人にはかなり楽しめます。朝起きてから夜眠るまで、婚約から結婚式、性生活、独特の服装、儀式、家族や共同体のあり方、ユダヤ教視点からのカウンセリングなど。
ドラマを見れば分かりますが、細かに定められたルールを守らねばならず、かつ権威者(宗教面や家庭内において)の指示に忠実でなくてはなりません。もう堅苦しいのなんのって。こんな生活、見ているだけならいいですが、死ぬまで続くとしたら耐えられないレベル。気ままな暮らしを既に知っていますのでなおさらです。
エスティは「変わり者」だったので、見合い結婚した夫ともうまく行かず、好きな音楽の道を諦めることもなく、入念に計画してドイツへ逃亡します。生母(離婚後はドイツで同性のパートナーと生活中)を探したり、自由を謳歌しながら音楽を学ぶ多国籍の学生達と過ごしたりすることを通して、自分の願望や意思を改めて確認していきます。戸惑いつつもウィッグを取り、TシャツやGパンを身に着け、未知の文化を取り込んでいきます。ドイツにやってきたことで、サトマール派ではない多様性のある集団のなかで自分を相対化することとなり、自分自身を深く知っていくのです。
Netflixでしか見られないのが残念ですが、メイキング動画も公開されています。アメリカやイスラエルからドイツへ戻るユダヤ人が少なくないことも言及されていました。
このドラマはアメリカとドイツの合作ですが、主役のエスティ役とその夫ヤンキー役はイスラエル人です。エスティ役のシラ・ハースの祖父はホロコーストの生き残りで、アウシュヴィッツ収容所に入れられていたそうです。彼女は2歳のときに腎臓がんと診断され、重篤な状態から回復したとも書いてあり、この世の地獄を知っている人達なのかもしれません。(Wikipedia「Shira Haas」)シラ・ハースは「シュティセル家の人々」にも出演しています。
夫ヤンキー役のアミット・ラハブは内気で母の言いなりになっている夫役を好演しています。 サトマール派の独特の装束と髪型、伏し目がちの演技で目立ちませんが、普段のアミットはかなりのイケメンです。ゲイであることを公言しているとのこと。(Wikipedia「Amit Rahav」)
シラとアミットは、テルアビブに住んでいてご近所同士だそうです。
[ロケ地]アメリカ、ドイツ