「ダウントン・アビー」における『複雑な人』と『シンプルな人』

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イラン・アゼルバイジャン旅行から帰国しました。イランでは多種多様のモスクを見ました。

例えば、現在のシーラーズで一番人気のローズモスク。ペルシャ絨毯の図柄にステンドグラスの色や形が投影され、一段と複雑な模様と美しさを作り出しています。

ローズモスク

ところで私の最近のお気に入りドラマは、貴族と彼らに仕える使用人たちの人間模様を描く「ダウントン・アビー」(Netflixで見ていますが、先日出張で泊まった大阪のホテルで、NHK総合でも放映していることを知りました。次はシーズン2のようですよ)。

そこにお屋敷に住み込みで働くトーマスとウイリアムという、ふたりの下僕が出てきます。

トーマスは当時タブー視された同性愛者。自分の利益になるのであれば、ほかの人達を陥れるような悪巧みや小細工をすることも躊躇しない。その一方でピュアで傷つきやすいところ、愛情に飢える者特有の弱さがあります。

ウイリアムは、生まれて以来ずっと愛情たっぷりの家庭で成長した青年。ひねくれたところが一切なく、家族や職場の人達を裏表なく思いやり、それをストレートに表現できる人。お屋敷でも雇い主や上司・同僚から愛されています。

トーマスは『複雑な人』。ウイリアムは『シンプルな人』。

昔の私はトーマスタイプに心惹かれたものです。『複雑さ』を『深遠さ』と受け止めていたからです。

ウイリアムタイプは、お日様の下で水や肥料をたっぷり与えられてスクスク育ち、そのままで周囲の注目や好意を集める存在。若かりし頃は、その手の人が底の浅いタライに張られた水のように感じられ『馬鹿』や『でくのぼう』にも見え、魅力を感じませんでした。

現在は観察や分析の対象として興味をそそられるのはトーマス、友人ならウイリアムです。

『複雑な人』は一見『深遠な人』のように見えます。傷や痛みを負って生きてきたので、そういう人だけが辿りつく真理、儚い真実を知っているのでは、と思わせます。

実際には、いろんな要素が絡み合うことで生まれた特有のメガネ(フィルター)を通して世の中を見る人たちなので物事の受け止め方や、それへの対処の仕方が独特。

冒頭のローズモスクの複雑さは、無駄が排除された優美なデザイン、考え抜かれた構図同士の掛け合わせによって、ステンドグラスと絨毯が相乗的に眩惑的な美しさを生み出しています。それとは対照的に複雑怪奇な精神をもつ人間は理解されにくく、闇(病み)を垂れ流す存在になっていきます。『複雑な人』であるトーマスタイプは、彼の存在する地点が誰も足を踏み入れたことのない洞窟の深いところという意味で『深い(ところに足を取られている)人』。

では『シンプルな人』であるウイリアムは『深い』のでしょうか。トーマスのように『洞窟的(あるいは闇夜的)深さ』はないけれど、浅いタライの透明で流動的な水としての『柔軟な深み』があります。

グルジェフ(アルメニアの神秘思想家)は、人間という機械のなかには人工的な装置があるとし、それを<緩衝器>と呼びました。

それは自然によってではなく、無意識的にとはいえ人間自身によってつくりだされたものだ。それができた原因は、人間内部の多くの矛盾―意見、感情、共感、言葉、動作などの矛盾にある。もし彼が生涯にわたって自己の内部のあらゆる矛盾を感じるとしたら、今そうしているように平静に生き、行動することはできないだろう。彼は絶え間ない摩擦と不安をもつことだろう。我々は、自分の人格の中の異なった<私>がいかに矛盾し敵対しあっているかを見逃している。(中略)誰しも自分が気違いだと感じるのは気持ちのよいことではない。それ以上に、このような考えは人から自信を奪い、彼のエネルギーを弱め、<自尊心>を奪い取る。彼は何とかしてこの考えを消してしまわねばならない。矛盾を打ち壊すか、矛盾を無視し、感じないようにしなければならないのだ。人間は矛盾を破壊することはできない。しかし、もし<緩衝器>が彼の内部につくられたら、矛盾を感じるのをやめることができ、相反した見解、矛盾した感情、言葉の衝突からくる衝撃などを感じないでもすむようになる

「奇跡を求めて―グルジェフの神秘宇宙論」 P.D.ウスペンスキー著 平河出版社

他者の目には明らかな闇(病み)のパターンを自覚することが難しいのは、この堅固な<緩衝器>を自分の中に作り上げているからでもあります。

「大トーマス」か「小トーマス」かはともかく、人間は内面に「複雑な人『トーマス』」を抱えています。ウイリアムのようにシンプルに育つほうがよほど難しいです。

トーマスのことばかりを書きましたが「ダウントン・アビー」では1900年代前半のイギリスを取り巻く社会情勢なども描かれており、貴族とその周辺を描いた物語としても、歴史・文化を伝える物語としてもとても面白いです。

たくさんの人物が登場する群像ものが苦手なので(それぞれを覚えたり、見分けたりするのが不得手)当初は触手が伸びなかったのですが非常に面白いドラマです。シーズンを追っていくと、新しい魅力的なキャラも登場してきます。

舞台として使用された「ハイクレア城」は見学できます。

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