カナダによる2019年のサスペンス。ヒューマンドラマでもあります。10エピソードあるので「長いな。飽きるかも」と観始めたら、とても面白くて優れた作品でした。原題は “ALERTE AMBER”。
2021年から2025年に至るまで、同じ顔ぶれの “失踪者特捜班” による続編 “Alertes” が公開されており、既にシーズン5(エピソード数115)まで進行しているみたいです。
本作に限っていえば、自閉症の弟をもつ兄(きょうだい児)が親や周囲からの愛情に飢え、自己肯定感をもてず、犯罪・自傷・自殺の誘惑に苦しみ、心身の極限状態で葛藤し続ける姿に強く惹きつけられました。少年のクライムストーリーである一方で、親子関係の苦悩と成長を描いた優れたドラマです。かなりお勧め。
[タイトルにある “アンバーアラート” とは]
児童(未成年者)誘拐事件・行方不明事件が発生した際、テレビ、ラジオ、電光掲示板といったマスメディアを通じて発令される緊急事態宣言(警報)の一種。アメリカやカナダで導入されている
[“きょうだい児” とは]
日常生活で介助が必要な障害や難病のある兄弟姉妹をもつ子ども。性別を区別しない表現として “兄弟” ではなく “きょうだい” と記述する。彼らはヤングケアラーとして、抑圧的な子ども時代を強いられることが多い
あらすじ
カナダのモントリオールでは未成年者が行方不明になって後、遺体となって発見される事件が続いていました。しかし事態に対応しようと警察内の組織を横断するかたちで結成された “失踪者特捜班” は思うような成果を挙げられていませんでした。
そんなとき、13歳の自閉症の少年エリオットが行方不明になります。彼の両親は離婚しており、エリオットは母親のバレリーと、17歳になる兄のローガンは父親のジョナサンと暮らしていました。“失踪者特捜班” が捜査を進めていくプロセスで、エリオットを連れ去ったのは兄のローガンであることが判明します。
ローガンは “きょうだい児”。両親は手のかかる障害児のエリオットに偏って意識を向け、長きにわたる兄ローガンの忍耐や献身、家庭内外での苦労には無頓着でした(もちろんそれはエリオットに手がかかるからで、親は親で大変な思いをしているわけですが)。
私も “きょうだい児”(だった人)に接したことがありますが「頑張って、きょうだいの面倒をみて、親に心配をかけないように “よい子” でいても、親は振り向いても褒めてもくれない。障害のあるきょうだいばかりを気にかける。さみしい。悲しい。つらい。私は要らない子だったのだ」という思いを抱いたまま成長したそうです。大人になってからも、その痛みに苦しんでいました。
それと同様の傷を心にもつローガンは、自閉症の弟エリオットを連れ去り、彼とふたりで逃走。ローガンには自傷癖、希死念慮がありました。自殺を目論んでおり、弟を道連れにしようとしたり、弟だけ逃がそうとしたりしますが死に切れません。エリオットが危険な目、困難に出会うとどうしても助けてしまいます。
ローガンが独りで姿を消すのでなく、弟エリオットを伴ったのには理由がありました。別れた両親は、それ(ローガンの深い動機)を知りません。特に母親のバレリーはローガンに否定的な思いを抱いており、弟のエリオットに危害や虐待を加えることを心配していました。
エリオットを無事奪還したい警察の “失踪者特捜班” は母バレリーからの要求もあってアンバーアラートを出します。マスメディアを通じたアンバーアラートにより、何もなかったように再び姿を現すことが難しくなったローガンらは、危険に満ちた逃避行を続けます。
ローガンは議員の娘ジャスミンに恋をしており、彼女に借りた車で逃走しています。ジャスミンはリコという不良と恋人関係にあり、リコが麻薬取引に関わっていたことによって、逃走中のローガンまでもが命を狙われるようになります。
障害児を生み育てる母として自責の念にかられるバレリー、離婚のショックで依存症になった父ジョナサン、退役軍人で独りよがりな祖父ギルバート、バレリーの現在の恋人で障害児に対して理解のあるダニエル、それぞれがそれぞれの立場から “家族としての愛” を模索します。
ローガンとエリオットの逃亡生活はいつまで続くのか、彼らが親元に帰る日はやってくるのか、ローガンは反社会的な人物によって始末されてしまうのか、失踪した少年たちを巡る大人たちのケミストリー等、見どころがたくさんあります。
登場人物
カナダのケベック州が舞台ですので、登場人物は英語ではなく、フランス語で会話します。
失踪者特捜班
- ステファニー・デュケット:警部。過去に軋轢のあった長官のマルク=アンドレ・ボネンファンから成果を挙げるよう圧力をかけられている
- ルノー・マグロール:巡査部長。妹マリルーはドラッグ依存の問題を抱えている
- リリー・ローズ・バーナード:出会い系サイトでマッチョ男性とコンタクトをとっている美人刑事(⇒ 男勝りの女性であることの表現か?)。随所で的確な推理をする
- ドミニク・ラクロワ:社会福祉士。行方不明者の家族にきめ細かく対応。繊細で女性的な性質
ローガンの家族
- ジョナサン・シャルボノー:ローガンの父。建設関係の仕事をしている。長男のローガン(17歳)と同居。アルコール依存症を克服しようとしている。ミカ・ブジニーという仲のよい同僚がいる
- バレリー・セネカル:ローガンの母。新パートナーであるダニエル・ボーリューの子どもを妊娠中。自閉症の次男エリオットと暮らしている。母親は認知症。教育機関で教師として働いている?
- エリオット・シャルボノー:ローガンの弟で13歳。自閉症。ローガンの通う学校の特別支援学級に転入したが、すぐに問題が発生する
- ギルバート・シャルボノー:ジョナサンの父。ローガンとエリオットの祖父にあたる退役軍人。カナダ軍中佐であることに誇りがあり独断専行タイプ。上から目線で口やかましいため、息子のジョナサンとは仲が悪い
ローガンの周辺人物
- リコ・フィギュレス:麻薬取引に関わっている20歳の青年。有罪となり服役した後は自動車保管修理工場(ガレージ)で働いている。ギャング集団 “スネークス” に所属。ローガンとは友人
- ジャスミン・ロビドゥ:高校生で17歳。リコと付き合っている。ローガンの片思いの相手。父は政治家で不在がち
その他
- ポーリン・リヴァード:ニュースのレポーター
- マリーズ・レブロン:バレリーやダニエルの隣人。彼らに協力を惜しまない
- M. ラモット:リコが働く自動車保管修理工場(ガレージ)の主人
- ジミー・バルボー:リコを脅している男。なぜかズボンの裾を折って上げていることが多い。トラックドライバー
- マックス・ベルナチェス:休憩所でローガンと喧嘩になる少年。弟はトム。ガールフレンドはカミーユ・バルナベ
- トゥーサン・ラヴォー:ギャング集団 “スネークス” のメンバー
感想・メモ:犯罪ものだが、家族の物語としても秀逸
“きょうだい児”の苦悩が具体的に描かれている
本作はクライムストーリー。ただし私自身は、“きょうだい児” であるローガンが心身の傷を乗り越え一皮剥けて人生をやり直すことができるのか、両親はローガンの長年の苦しみを理解し過去の家族関係について謝罪するのか、親子や元夫婦(ジョナサンとバレリー)は事件を通して和解に至るのか、そういったヒューマンストーリーにウエイトをおいて視聴しました。
家族の物語という要素がなければ、不遇でグレかかった少年が満たされない思いに動かされて弟を連れ去り、不良仲間の犯罪に巻き込まれて大変な目に遭うという “サスペンスもの” に留まっていたと思います(だとしても面白い。紆余曲折あるし、ローガンはただ逃走しているようでもエッジのきいた機転を見せる)。
見方を変えると、親と子/家族の物語に関心がない人にとっては細部を描写し過ぎ、エピソード数多すぎのドラマかもしれません。
続編の “Alertes” については視聴していないので何とも言えませんが、少なくとも本作に関しては “アンバーアラートそのもの” が主たるテーマではないように感じました。
ローガン役、エリオット役の演技が素晴らしい
兄のローガン役のレヴィ・ドレ、自閉症の弟エリオット役のイライジャ・パトリス・ボードロが素晴らしい演技を見せています。
ふたりが本当に兄弟であり、“きょうだい児”であり、自閉症児であるように見えるため、すごいと思いました。実際のところ、彼らはこの作品以外でも高い評価を獲得しています。
日本語タイトルにあるように本来は “失踪者特捜班(=刑事や社会福祉士など)”が主人公なのかもしれませんが、そういったベテラン俳優たちを上回る存在感を示しています。
“失踪者特捜班” について言えば、難易度/危険度の高い現場に配置する人員が少なすぎると思いました。増員するか、もっと早いタイミングで応援部隊や援護を要請すべきです。
続編の “Alertes” もぜひ観たい
続編の “Alertes” も視聴できたら嬉しいです(あまり情報がないということは世界規模での配信はしていないのかも。でもシーズン5まで続いているということは高評価な作品であるはず)。
本作に対する私の評価は高く、それを前提に一方的に期待をもっているところはありますが、きっと考えさせられたり、ハラハラドキドキさせられたりする作品なのではと思っています。