もともと現実離れしているドラマ「エリート」。それを含めて面白かったのですが、シーズン5はさらに異次元へとシフトしました。いきなりシーズン5だけを観るとトンデモですが、そんなことをしないのが一般的だし、シーズン4までが面白かったので、そういった過去の資産を前提とするならば、ああいうのもアリかもと思います。シーズン5、つまらなくはないですよ。あり得なさ過ぎるだけで。「なんでこういう展開になるの?」みたいなところがいろいろあります。「この人って、こういうキャラだったっけ?」的ブレもあるように感じます。
[ストーリーの流れ]
ラス・エンシナスの校長ベンジャミンは、在校生に対する規則を厳しくして縛りを強化します。在校生たちもアッパラパーですが、ベンジャミンの3人の子どももラス・エンシナスに在学しており、素行に問題があります。ラス・エンシナスは表向きは名門私立高校なのですが、校長がベンジャミンに代わって以降、辻褄の合わない教育方針が増えたような気がします。
プロサッカー選手を父にもつイヴァン、イビサのパリピ(素性は不明ながら、とにかく金持ち)イサドラが転入してきます。イヴァンはベンジャミンの娘アリ、息子パトリックと親しくなります。パトリックはイヴァンに加え、彼の父クルスと距離を縮めます。イサドラは転入前からフィリップ王子のファンだったようで、彼との距離を縮めようとします。そして死体が湖に浮かびます。シーズン5の最後は、シーズン6へ繋がることを前提としたものになっています。
[シーズン5の新キャラ:お金持ちの子2人と貧しい子1人]
イヴァン ⇒ プロサッカー選手の父をもつ。父クルスの移籍に伴う転校が多い。校長ベンジャミンの息子パトリックや娘アリと仲良くなる
イサドラ ⇒ イビサとインスタの女王のアルゼンチン人。見た目からしてド派手だが、なぜそんなに派手にしていないと気が済まないのかが謎な人
ビラル ⇒ フランス語を母語とする移民の子(身寄りなし)。オマールのサポートを受ける
私の好みから遠く外れるフィリップ王子が、またしてもワケの分からないファッションで登場。この人は王位継承者という設定ゆえ、高価だったり、ブランドものだったりを着せられているはずですが、何を着てもピエロに見えます。彼が着ると、なぜこんなにも安っぽくなってしまうのでしょう。ひょっとしたら中身のフィリップに問題があるのではなく、服のデザインやコーディネートが奇妙過ぎるのかもしれません。制服を着ているときが一番まともです。
珍妙なファッションばかりが目につくフィリップですが、過去の性的暴行を告発されます。そんな自分を反省し、元彼女のカエタナのサポートもあって少しずつ変わろうとするのですが・・・。そんな伏線(多分シーズン6へとつながる、いい話的側面)も、彼の存在感の限りなき軽さゆえ、残念ながら、あまり目立ちません。
フィリップを見ていると、宇宙人やムーミンのニョロニョロを見ている気分になります。彼からは人間らしい感情の動きが感じられません。そもそもどういう人物なのか、キャラクター設定すら伝わってきません。フィリップを演じているポル・グランチはフランス人の父とスペイン人の母をもち、シンガーソングライターとして有名なようです。数曲聴きました(やっぱり不思議な衣装を着ていました)。歌はかなりいいし、音楽的な才能があると感じます。しかし演技には向いていないのでは。過去に女性蔑視発言等を告発されたことがあるようなので、そういった背景があるからフィリップ役に抜擢されたのか、そんな彼のためにわざわざこの役を用意したのか、どちらでしょう?シンガーソングライターとしての彼&その世界観を知っていてフィリップを見ると、また違う感想をもつのかもしれません。いずれにせよ、彼はシーズン6も続投でしょう。
それはさておき「メンシア-レベカ-ジェス」「イヴァン-パトリック-クルス」「パトリック-イヴァン-アリ-サムエル」「イサドラ-フィリップ-カエタナ-フィリペ(『エリート短編集』に登場した人)」といった三角/四角関係が交錯します。なかには、なぜそういう関係になるのかがよく分からない人たちが含まれます。状況や感情の必然性に欠けているというのでしょうか。「好きだ」「愛してる」と言っていますが、なんで好きになったのか、愛しているのか、見ていて分かりません。
サッカー王であるはずのクルス(イヴァンの父)は、作中でサッカーに関わることを一度もせず、乱痴気騒ぎばかり。お金持ちで享楽的、強靭な肉体をもっているかもしれませんが、スポーツマン的ストイックさがカケラもないところに不思議な印象をもちました。ルックス&雰囲気は、おじさんサッカー選手っぽかったですけれどね。父親役のカルロト・コッタはフランス系ポルトガル人で、俳優としてキャリアのある人のようです。
人間は成長するもの、変わるものだとしても、あのカエタナが良識的かつ落ち着いた雰囲気の大人に変化しているのも「へー」という感じです。高校の生徒から高校の清掃員へと立ち位置が変わり、己の現状を正面から受け入れ、申し開きや言い訳をしなくなったことで大人への階段を昇ったのでしょうか。もともと賢い人設定だったのかもしれませんが、お馬鹿な可愛さはなくなっていました。
サムエルが校長のベンジャミンに父性を感じていたというのは、育ちを考えると不自然ではありません。ベンジャミンはエゴと自己保身の塊でしたが、サムエルに一目置いていたようなので、サムエルは自分を認めてくれているベンジャミンのことが好きだったのかもしれません。しかしメインストーリーが過激なご都合主義へとひた走る一方で、登場人物たちに関するサブストーリーのみで「人間としての深い内面」を綴られても重みを感じません。ありがちな話のほうが軽く、嘘くさくなるという反転現象です。
以前の記事で「エリート」が面白いドラマになっている要因として以下を挙げました。
- 「現実にはありえないこと」の寄せ集めによって筋書きが構成されている
- 表現されている価値観が古くからの枠組みに基づいている
- 全体のストーリーに影響を与える、登場人物の個人的ストーリーの想定幅がそこそこ広い
- 安定したレギュラーを後方にシフトするタイミングが絶妙
シーズン5は引き続き、上記のひとつ目とふたつ目を満たしています。しかし、ひとつ目とふたつ目がバラバラに機能しています。シーズン4までは、表向きは過激だけれど、全体の世界観を作っている価値観は誰でも分かる従来型のもの。そのなかにブッ飛びが含まれていたから腑に落ちたのですが、シーズン5はふたつの繋がりが見えにくく、ブッ飛んだ世界はブッ飛んだ世界として、分かりやすい従来型の価値観や心理描写はそれとして、別々に進行している感じがあります。
みっつ目についても、登場人物の個人的ストーリーの想定幅はそこそこ広いのだけれど、視聴者が肌感覚であれこれ想定してドキドキできる余地が少ないように感じました。
イビサの女王イサドラにせよ、アリ(ベンジャミンの娘)にせよ、美人でスタイル抜群なのに、若い身空でヌードや濡れ場の多いドラマ「エリート」に出演を決めたのはなぜなのでしょう。世界的に有名な作品なので、出演すればぐっと知名度が上がり、その後の引き合いやギャラが桁違いに増えるとしたら、大きなチャンスであることは想像に難くないです。しかしアリの美しい顔の肌荒れを見るたびに「撮影のストレスが大きいのかなあ」と思ってしまいます(単にドーランが肌に合っていなかっただけかもね)。
性描写が多いのは男性陣も同じですが、後年「やり過ぎだった」とか思わないのかしら。私は普通の東洋人だからそういう疑問が湧くだけで、ラテン系の演じ手の気持ちなど分かりませんが。ともあれ、母語が同じであったり、特徴が似ていたりすることで、スペイン人、ポルトガル人、メキシコ人、ブラジル人、アルゼンチン人がひとつのドラマを作り上げられるという拡張感はいいですね。日本語を母語とし、ほかの言語を話すことのできない俳優たちが活躍できる場は、世界まで視野を広げるとまだまだ限定的です。
なんだかんだ書いてきましたが、シーズン6も見ます。みんな、いつまでも高校生ではいられないから、次のシーズンが完結編なのではと思います。
[シーズン5でお仕事を完了したかもしれないキャスト]
※ シーズン6にも出てきたらすみません。
アンドレ・ラモリア(イヴァン役)
1997年リオデジャネイロ生まれのブラジル人俳優。ディズニーチャンネルのブラジルのシリーズなどに出演している。兄が芸能界にいたため、そこから足掛かりを得た。作中で父親との会話はポルトガル語だった模様。父親がカタールのチームへ移籍することによる転校が示唆されたが「カタールへ行くのは止める」と父親が言っていたこともあり、シーズン6続投かも。この人は好きなので続投して欲しい。イビサ島のクラブのシーンを見る限りでは、踊りがあまり得意ではないように思う(ブラジル人のステレオタイプとは若干異なる)。また女性(アリやイサドラ)より男性(パトリックやサムエル)に対してのほうが、リラックスした、いい笑顔をみせる気がする。
ジョージナ・アロモス(カエタナ役)
1998年バルセロナ生まれの女優。スペイン語、カタロニア語、英語、フランス語が話せる。17歳の時、演技を学ぶためにアメリカのロサンゼルスへ引っ越す。2019年にはウディ・アレン監督の映画に参加、英語で演じている。2019年から「エリート」のエグゼクティブプロデューサーであるディエゴ・ベタンコールと交際。シーズン6に引き続き出てくるかもしれないが、シーズン5でお仕事完了でも不自然ではない。語学堪能なようだし、演技の幅も広そうなので、今後の作品にも期待したい。