ジプシーの王の誕生までを描く「ピーキー・ブラインダーズ 不滅の男」

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19世紀のバーミンガムがオシャレな「ピーキー・ブラインダーズ」は実在のギャングの話
19世紀から20世紀初頭にかけて実在したギャングのファミリーを題材にしたドラマ。映像と音楽がオシャレでストーリーも面白いです。
「ピーキー・ブラインダーズ」シーズン6、示唆に富んだ“有終の美”を飾る
ファイナルシーズンは「ほほう!」という感じで余韻を残します。シーズン5からシーズン6への流れと本作から感じたアレコレを語ります。

本編を超える内容ではないと感じたため記事にしていませんでしたが、「ピーキー・ブラインダーズ」シリーズの締めくくりの話ではあるので、やっぱり書くことにしました。

シーズン6で唐突に現れた、トミー・シェルビーの婚外子デューク。トミーが去った後のピーキー・ブラインダーズは彼が引き継ぎました。

本作は1940年11月19日に実際に起きた、ナチスによる工場空爆を出発点にしており、既にギャングや政治家としての戦列を離れている元ボスのトミー・シェルビーが、役割を生きることによる苦痛まみれの人生に安らぎを求め、息子デュークとの未完了の物語を完結へと導く内容となっています。

ストーリー

1940年、ファシズムに抵抗するイギリスを経済破綻させるため、ナチス政府が何億ポンドもの紙幣を偽造・運搬するところから始まります。バーミンガムの小火器工場、シェルビー家の故郷スモールヒースも爆撃されます。

トミー・シェルビーは人里を離れて隠遁生活を送っています。何かを執筆しているようです。盟友ジョニー・ドッグスが彼の生活雑事をサポートしています。死んだ娘ルビーが父トミーに合図を送るかのように、しばしば姿を現します。兄のアーサーは1938年12月(IN THE BLEAK MIDWINTER)に、この世を去っています。

バーミンガムに拠点をもつ議員、妹のエイダがトミーを訪ねてきます。兄の力を借りたいそうです。トミーにはふたりの息子がおり、正妻だったリジーが産んだチャールズ、ジプシーとの婚外子デューク(年齢で言うと、こちらが長男)。前者は従軍しており、後者がピーキー・ブラインダーズを仕切っています。ピーキー・ブラインダーズはもともとギャングではありますが、後継者デュークのふるまいが目に余るので、父トミーの力で弁えさせたいというのが、エイダの望みでした。

[メモ]

「ピーキー・ブラインダーズ」シーズン6ではデューク役はコンラッド・カーンだったが、本作ではバリー・コーガンが演じている。「引き続きコンラッド・カーンでよかったのでは」と個人的には思うが、バリーのほうがビッグネームなので(加えて不遇な幼少期を送ったせいか、ベースの顔つきが荒んでいることもあって)準主役にふさわしいとみなされたのかもしれない

デュークを頭としたピーキー・ブラインダーズは、地元で武器や物資の収奪を行うとともに仲介者ベケットらと組み、ナチスが用意した偽札を市中にばら撒く計画に加担。稼業から退いた父トミーを超えようという気負い、寄るすべのない現実もあったのでしょうが、見事にタガが外れていました。

トミーの住まいにパーマー族の女カウロ・チリクロが現れ、彼を「ロム・バロー(ジプシーの王)」と呼びます。彼女の双子の姉妹ゼルダが産んだのがデュークでした。既に死んでいるゼルダからのメッセージは「デュークが王国を手に入れるのはまだ早い。悪い仲間と手を組んでいる彼を救ってほしい」というもの。立場こそ違えど、エイダと同じことを望んでいました。

姉妹カウロの身体を借りた死者ゼルダは「昔のあなた(すべてのはじまり)に戻れるようにする」と約束。「もう昔の俺とは違う」とトミーは言いますが、エイダとカウロ(ゼルダ)という女性たちの声に押し切られる形でバーミンガムへ。

いっぽうバーミンガムで無茶をしているデュークも “ナチスの片棒を担ぐ仕事で得られる利益” と “地域社会から弾劾を受けること(お尋ね者になること)” の狭間で、自身の立ち位置を決めねばならない状況に追い込まれていました。彼は議員である叔母エイダを殺害することを強いられますが、実行に移すことができません。彼女はベケットによって射殺されます。

死んだエイダが、バーミンガムへ向かうトミーの前に現れます。彼はジョニーに銃を渡し、遺体安置所へ行ってエイダを守るよう指示(ジプシーの伝統に則って葬送できるように亡骸を見張れ、ということかなと思いました)。そして自身はデュークの元へ。

息子を責めるトミーに「アンタは俺に悪いこと、罪しか教えなかった。罪だけを残した」と訴えるデューク(トミーは息子デュークの存在を長く知らず、知ってからも彼に対して親子/肉親としての愛・善・美、それらが結ぶ果実を身をもって伝えてはいないので、そう言いたくなる気持ちはわかります)。

トミーは自身が関与した身内の死(叔母ポリー、娘ルビー、兄アーサー、妹エイダ等)を振り返り、シェルビー家に紡がれる “負の連鎖” を断ち切り、身をもって落とし前をつけることを決意。

デュークの生母ゼルダの姉妹カウロは「父と肩を並べて共に戦い、今こそ王になりなさい。父の言うように戦い、一段落ついたら霧の中で “TOMMY” の銃弾で彼を撃ちなさい」とメッセージを伝えます。「それが彼の求める “安らぎ” を叶えることになる。あなたが “ロム・バロー(ジプシーの王)” を継げばよい。亡き母ゼルダもそれを望んでいる」と。

トミーとデュークは、エイダの敵を討つため、ナチスとの仲介者ベケット(ならびにナチスに忠誠を誓う者たち)に対峙します。長年の仲間であるジョニーやチャーリーのほか、スタッグ(自称:リバプールふ頭の王、兄アーサーとの因縁が深い)もトミーの計画に協力。

父が息子にバトンを渡すときがやってきました。自分の本心、そして真の姿を後回しにして役割に生きたトミー・シェルビーの人生が幕を閉じ、入れ替わるように “ロム・バロー(ジプシーの王)” が誕生します。

感想&メモ

置き去りにされていた“イニシエーション”の物語

本編シーズン6をもって、一旦完了を迎えた「ピーキー・ブラインダーズ」。

トミー・シェルビーは社会の表舞台から消え、妻リジーと息子チャールズはトミーの元を去り、婚外子の長男がピーキー・ブラインダーズを継ぐという形になっていました。

チャールズは表の道を行く息子なので、第二次世界大戦では従軍。①日陰の息子デュークが引き継いだピーキー・ブラインダーズはどうなったのか、②隠遁生活に入ったトミーは安らぎを得て幸福なのか、というふたつの問いへの答えがこの作品(「ピーキー・ブラインダーズ 不滅の男」)には含まれています。

実際にあった工場空爆の犠牲者に捧げる作品の体(てい)にはなっていますが、私がイギリス人ではないせいか、内容との間に強い関連性を感じません。ギャングのボスとして君臨したトミーも本心では争いを好まず、深いところで人々の平和と安寧を願っていたふうな描写はありますが。

ギャング活動がファミリービジネスであったため、トミーはその豊かな資質を自分の真の望みとは異なる領域でフル稼働させることになりました。知恵と勇気、冷静さがあったため、単細胞の兄アーサーよりリーダーに向いていました。

トミーがギャングのボスという役割を強迫的に果たすことにより命を落とす者、不幸になる者も少なくなく、また彼自身、自分の望みとは無関係の何かを選択し続けなければならない状況にいつも追い込まれていました。つまり「役割を生きる人生を長らく送ってきたものの、ちっとも幸せではなかった」ということです。兵士としてフランダースへ赴いた第一次世界大戦によるPTSDも抱えていました。

デュークとは父と子の間柄ではありますが、トミー自身が愛に基づく親子の関係性に身を置いて育ってこなかったこともあり「自分には父として、ボスとして果たしていない責任が残されている」ことを再認識。「それらをやり遂げたとき、自分は苦悩から解放される」と腑に落ちたのでしょう。

表面的にはギャングのボスを名実ともに譲り渡し、息子を大人の男にするイニシエーションの物語であり、内面的には “逃げることなく自分を捧げ切る” ことにより、この世/この人生で達成できなかったことへの未練と苦悩を昇華するという “人生の完了” を描いた作品と感じました。

イギリスのジプシー

これも私が日本人だからでしょうか、「ジプシーと言えばヨーロッパ大陸」という印象が強く「ピーキー・ブラインダーズ」という作品を通じてイギリスのジプシーを知りました。ただし本作の元になっている、実在していたピーキー・ブラインダーズがジプシーの出自だったという情報は今のところ得ていません。

実のところ作中で頻出する “ジプシー” という表現は差別用語らしく、現在は “トラベラーズ” と表現したほうが適切なようです。とはいうものの作中で “ジプシー” という言葉をあえて使うのにも意味はあると思いますし、その内訳を少し調べたところ以下のようでした。

  • ジプシー(ロマ):ヨーロッパ(スペイン、ルーマニア、トルコ、フランスなど)で生活する移動型民族。北方インドの遊牧民が11世紀頃から移動
  • イングリッシュ・ジプシー:15世紀末にインドからイギリスへと渡った遊牧民族。19世紀頃まではロマ語を話したとされている
  • アイリッシュ・ジプシー:アイルランド、英イングランド地方のジプシーで、アイルランド系
  • スコティッシュ・トラベラーズ:様々な習慣と伝統を持つ英スコットランド地方の移動民族

トミーたちシェルビー家はロマ語も話していたので “イングリッシュ・ジプシー” という設定だったのかもしれません(ただし肌に浅黒さがみられない)。バーミンガムはイングランドに含まれることから、アイルランド系というのも考えられます。

またカウロ(パーマー族)のタトゥは “オガム文字” であり、文字には樹木の名前が付けられているそうです。例えば “ᚉ” は “c” を意味し “ハシバミ(=coll)” と名付けられています。

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