政治と人間模様に既視感。ドラマ「グレートウォーター:ヴロツワフの大洪水」

スポンサーリンク

「大洪水⇒タイ・タムルアン洞窟遭難事故」「ポーランド⇒ヨハネ・パウロ2世」つながりで、ご縁を感じて観たドラマ。自然災害を予見した場合、また実際に発生した場合、政治家、行政、専門家等が連携して対処するのは、どの国も同じ。そこで起きてくる問題点も似たり寄ったり。…ということで、なんとなく既視感のある内容ですが、ポーランドが舞台です。

タイ・タムルアン洞窟遭難事故とヨハネ・パウロ2世にまつわる事件についてはコチラ(↓)。

タイ・タムルアン洞窟遭難事故(1)映画「13人の命」
映画「涙するまで、生きる」を視聴したら、ヴィゴ・モーテンセンつながりでお勧めされた「13人の命」。タイの少年サッカーチーム13人がタムルアン洞窟で遭難。イギリスのダイバーたちが全員を救出するまでの実話を映画化したものです。
タイ・タムルアン洞窟遭難事故(2)ドラマ「ケイブ・レスキュー: タイ洞窟必死の救出」
2018年6月下旬に起きた、タイの少年サッカーチーム13人のタムルアン洞窟での “遭難” から、ダイバーたちによる “救出” まで(実話)をドラマ化したもの。映画「13人の命」と比較しながら視聴しました。
奇々怪々のドキュメンタリードラマ「バチカン・ガール エマヌエラ・オルランディ失踪事件」【前編】
世の中の闇の部分に登場するのは常に同じ人たちという慨嘆をもたらします。秀作です。【前編】は、1983年6月~12月の展開を取り上げます。
奇々怪々のドキュメンタリードラマ「バチカン・ガール エマヌエラ・オルランディ失踪事件」【後編】
【後編】は1993年以降の展開、関与が疑われる人物や組織、本作の提示する推理です。

では、ドラマ「グレートウォーター:ヴロツワフの大洪水」(原題 “Wielka woda” )についてみていきましょう。

実話ベースの創作ストーリー

このドラマは実話っぽい雰囲気でスタートしますが、創作部分が結構ありそうです。冒頭に「この作品は事実をもとに作られたフィクションです。登場人物は作品のために作られた架空のものです」と出てきます。

ドラマの1997年5月25日、市長は「ヨハネ・パウロ2世を迎えるのは大変な誇り」と語っています。6月にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が故郷ポーランドを訪れる予定で、市長や行政、軍部等が準備をしていました。そんなとき、国立科学学院のヤシュミナ・トレメ研究員(水文学者)から “大洪水の警告文書” が届きます。実話に基づくドラマ「ケイブ・レスキュー: タイ洞窟必死の救出」でも、雨季より早くにミャンマー方面から大雨がやってくることを気象局が予見していました。何であれ専門家というのは、予め知る術をもっているようです。

実際に1997年7月、ポーランドはオーデル川の氾濫により未曽有の被害を受けました。それを土台にしたドラマなのでしょう。ヴロツワフ以外での洪水が始まったのは7月6日で、主たる要因は降水です。ドラマでは7月8日、トレメ研究員が緊急対策本部によって呼び出され、その時点のヴロツワフは危険水位をわずかに超えている段階でした。

エピソード2の冒頭に “イェジー・トレラを偲んで 1942-2022” というメッセージが表示されます。イェジー・トレラ氏はポーランドを代表する俳優で、5月に80歳で亡くなっています。本作の出演が、そのキャリアの最後になったのかもしれません。年配男性は何人か登場しますが、心臓を悪くしてヴロツワフの病院に入院していたケンタ村の老人(アンジェイの父シモン・レンバチュ)役と思われます。

立場を守りたい人たちによって混乱する洪水対策

緊急対策本部には県知事代理、市長、警察関係者、消防関係者、医師、軍部、水文学専門家たちが集います。その多くが自分の立場を守ることに気を取られ、対策と対応に歪みともつれを作り出します。

主人公のトレメ研究員は、水文学専門家ノヴァック教授(県の水文地質課を指揮)と彼の腰巾着ピエプカ助教授に受け入れられません。トレメをその場に呼んだのは、ヤクプ・マルチャク県知事代理(クバ)でした。

事実として7月9日時点でポーランドでは250の市町で冠水し、40000人が避難する事態になっていたようです。ドラマではドマニエヴォの堤防を破壊して放水し、水を土壌に流すというトレメの考えを実行したことでワトカ酪農工場の浸水を招き損害を及ぼします。彼女に手渡された地図が古い1967年のもので現況とかなり異なっていたためです。

それを知ったトレメは「ヴロツワフ中心部の住民を避難させるように。このままでは市内の水位差がオワヴァ川で衝突して排水できずに中心街に溢れる」と緊急対策本部に言います。彼女を小馬鹿にし、「オーデル川が吸収するから大丈夫」と主張するノヴァック教授とは対立。

次にトレメは氾濫原であるケンタ村の堤防爆破を進言。もちろん、ノヴァック教授の意見とは相容れません。ドマニエヴォの堤防破壊で失態を演じていた政府はさらなる非難を浴びることを恐れました。選挙を控えていたことも守りの姿勢に拍車をかけます(ポーランドは1997年9月21日に上下院選挙を予定していました)。

ケンタ村では住民たちによる堤防爆破への抵抗運動が起きます。「ヴロツワフのために自分たちの村や財産が犠牲を強いられるのはイヤだ」というのです。

堤防爆破を命ずる権限がある知事はアメリカのデンバーへ出かけていて不在。トレメから連絡を受けた知事はポーランドに急遽戻り、作戦が仕切り直されます(時代のせいか、連絡を受けてテレビをつけ、ニュースで自国の洪水を初めて知るとは驚きの世界)。政府はケンタ村の住民に対し、堤防爆破に伴う賠償を宣言し、堤防からの避難を進めるよう手配。しかし事態は思うように進展しません。撤退を拒む住民たちのリーダーがアンジェイ・レンバチュでした。

専門外/担当外のことは分からないとしても各自が後手に回ってグダグダ、専門家同士も対立。そしてヴロツワフの洪水は未曽有の規模のものとなっていきます(56人が死亡、40000人が仕事を失い、第二次大戦後のポーランド最大の惨事となりました)。

ヤシュミナ・トレメの私的なストーリー

ヤクプ・マルチャク県知事代理(クバ)はクララという娘と暮らしていました。トレメはクララに会いたがりますが、クバはふたりの対面に難色を示します。

貧民街で暮らすトレメの母親レナの世話を、クバがときどきしているようです。トレメとクバの間には、かつて親密な関係があったことが示唆されます(クバは多分いい人)。

トレメの母レナは尋常でなく太っており、それがドラマの展開にも影響を及ぼすのですが、演じている女性は何か詰め物をしているのでしょうか。あのレベルまで太った女優さんを見つけてくるのは難しいと思うのですが。

トレメと母は不仲であり、まともなコミュニケーションをとることができません。母親の命を救おうと、彼女は住宅組合を装って避難を勧告。そして上階に住む用品店主に数日間、母親を預かってくれるよう頼みます。しかしレナは巨体ゆえに自力で移動することができません(この不思議な設定は創作なのでしょうか、実話なのでしょうか)。

トレメ(演じているのはアグニェシュカ・ジュラウスカ ⇒ 1987年生まれと意外に若い。「泥の沼」「泥の沼’97」にも出演)は東欧のいかつい美女という印象で、荷物を背負って足早に歩き回り、振る舞いがエキセントリック。緊張が強いのか、眉間には立て皺。そして武闘派。「HOMELAND/ホームランド」のCIAエージェント、キャリー・マティソン(クレア・デインズ)を一回り大きくして東欧風にゴツくした感じです。キャリーは双極性障害という設定でしたが、トレメもメンタル面に何か問題を抱えていそうです。

それぞれの痛みを超えて

トレメ(水文学者)、クバ(県知事代理)は職務としての洪水対策で連携が上手く行かず、大きな痛手を負います。クララ(クバの娘)、レナ(トレメの母)は大洪水を通して、自分の家族が組み立て直されます。

ケンタ村で堤防から工作部隊を追い払ったリーダー、アンジェイ・レンバチュ。村としての姿勢は死守できました。しかし、そのためにヴロツワフは大洪水となり、家族や財産を失う人たちが増えました。ヴロツワフの人々からの恨みを買い、自分たちのエリアと家族がよければいいというものではないことを痛感することになります。

このドラマは事実に基づく創作とのことですが、ネットで見つけた論文によれば、この大洪水がポーランドの地方行政改革のひとつのきっかけとなったそうです(しかし課題は依然として残されている模様)。

旅行は人生の大きな喜び(^^)v
ランキングに参加しています。
応援をお願いいたします。
↓  ↓  ↓
にほんブログ村 旅行ブログへ
にほんブログ村