エディンバラを主な舞台とするスコットランド版の原題は“Dept. Q”。元になっているデンマーク作品(原題:Afdeling Q)についてはコチラ(↓)

スコットランド版リメイクドラマ「特別捜査部Q」は、デンマークの映画「檻の中の女(原題:Kvinden i buret)」(2013年)のアレンジと思われます。原作はデンマークの犯罪小説家ユッシ・エーズラ・オールスンによって書かれています。
あらすじ
大筋ではデンマーク版と同じです(そちらのあらすじは上記リンク内にあります)。
- リース・パーク事件でPTSDとなった重罪捜査課の主任警部カール・マーク(スコットランドにいるイングランド人)が職場に復帰
- 大臣から要請があって新設された「特別捜査部Q」(未解決事件担当部署)を任せられる
- 助手のアクラム・サリムが、4年前に起きた検察官メリット・リンガード失踪事件の再捜査を提案
- カールらは、フェリー上から姿を消したメリットについて再捜査開始
- メリットは謎の人物によって監禁されている
本家デンマーク版との相違点
主要な登場人物の対照表
3人目の「特別捜査部Q」のメンバーとなるローズは、デンマーク版「檻の中の女(原題:Kvinden i buret)」(2013年)には出てきません。彼女が登場するのは2014年の映画「キジ殺し」から。スコットランド版(2025年)では登場場面が多く、捜査に積極的に加わって頑張りをみせています。カールの元相棒ハーディーも、映画よりずっと深く事件捜査に関与しています。
デンマーク版(本家) | スコットランド版(リメイク) |
カール・マーク(主人公/主任警部) | 同左 |
ハーフェズ・エル・アサド(移民/ムスリム) | アクラム・サリム(同左) |
ハーディー・ヘニングセン(警部) | ジェームズ・ハーディー(同左) |
アンカー(死んだカールの仲間) | アンダーソン(射殺された巡査) |
(本作には登場しない) | ローズ・ディクソン(警部) |
マーカス・ヤコブセン(殺人課長) | モイラ・ジェイコブソン(重罪犯罪課長/警視正) |
ミレーデ・リンガード(政界人) | メリット・リンガード(検察官) |
ウフェ(ミレーデの弟/障害あり) | ウィリアム(同左) |
設定やプロット
デンマーク版とスコットランド版で異なる当初の任務
デンマーク版「特捜部Q」は過去の未解決事件の “資料の精査”、スコットランド版は “スコットランド中の未解決事件の解決” を担当する部署。若干の違いがあります。前者は事務仕事が本来業務で、デンマークのカールらは課せられた任務でもないのに勝手に捜査に乗り出したという設定でした(後に、その実績が認められて捜査も任せられるようになります)。
作品全体における主人公のPTSD問題のウエイトが違う
デンマーク版では主任警部カール・マークが職務を通じて大きな怪我を負い、PTSDを患っていることには触れられますが事件の詳細は語られません。「カールの状況が、なぜこうなのか(リース・パーク事件)」に触れてスタートするスコットランド版はわかりやすいといえます。同事件を追わなくても問題はなかったと思いますが、サイドストーリーとして併走させることでリメイクドラマ全体としての厚みが増した感はあります(映画と違って9エピソードもありますしね)。
主人公サポート役のキャラ設定も異なる
主任警部カールの助手はデンマーク版ではアサド。スコットランド版ではアクラム・サリム。どちらもシリア人でアサドは明るく鷹揚な性質です。それに比べるとアクラムはもの静かで人生経験が豊かな印象。アサドは病んだカールに愛や寛容を身をもって示します。一方のアクラムはどちらかといえば実務能力の高さでサポート。ゆえにスコットランド版ではセラピストとカールのやりとりに割かれる時間が多いのかもしれません。天性のセラピスト、アサドの代わりなのかもしれませんが、スコットランド版に出てくるセラピストたちより彼のほうが優れていた気がします。
デンマーク版では隣国へ乗り込んで捜査していたが…
本家の映画では主任警部カールとアサドは海峡(?)を挟み、スウェーデン警察の助けを受けて捜査を進めますが、所属するデンマーク警察の横やりによって行く手を阻まれます。スコットランド版では国をまたぐのではなく、モル島の警察(実在するマル島とは音は似ているものの綴りが異なっているので、モルとはゲール語で名づけられた架空の島との仮説を私は立てました)とエディンバラを拠点とするカールたちとの間でやりとりが行われます。メリットとウィリアムがフェリーに乗らないことには物語が成立しないので、離島を第二の舞台としたのでしょう。
感想・メモ
事件の背景事情はスコットランド版のほうが複雑で面白い
使える尺の長さに違いがあるので単純比較が難しい面があります。約1時間半の映画と合計8時間強のドラマでは盛り込むことのできるコンテンツが異なります。スコットランド版のほうが面白いというのは私の好みに過ぎず、デンマーク版との間に大きなクオリティの差があるとは感じていません(参考:IMDbのスコアはスコットランド版のほうが高く本日付で8.0)。
本作「特別捜査部Q」のほうが監禁事件の背景事情が込み入っています。物語が進行していくにつれ、なんとなく「こいつが怪しい」という人物が浮かび上がってくるのですが、ひと捻り、ふた捻りくらいあるので、すんなり結論に辿り着くことはありません。
また主任警部カール、元相棒ハーディーが心身ともに大きな傷を負った事件についても、並行して捜査が進んでいくので飽きずに視聴できます。
カールと義理の息子ジャスパー、セラピストのレイチェルとの関係にも時間が割かれ、個人的には重要度の低いパートですが、関心をもって見守る方もいることでしょう。
主任警部カールが多弁なのはイングランド人だから?
デンマーク人のカール・マークは、マシュー・グード演じるイングランド人のカールのようにペラペラ話しませんでした。したがって、口から生まれてきたかのように皮肉やブラックジョークを交えて語り続けるスコットランド版カールに少し驚きました(仕事や家庭のことで心身に傷を負っているという前提も関係しているかもですが)。
元相棒のハーディー(スコットランド人)とも、イングランドとスコットランドの文化・慣習の違いについて毒舌の応酬。そういう会話を楽しんで盛り上がるところが “イギリスらしさ” なのかもしれません。
原作者はデンマーク版の映画「檻の中の女」に不満だった
デンマーク版についての投稿で、5作目(「知りすぎたマルコ」)について、私はこんなことを書いていました。
- 「カール、随分と老けたな」「アサドやローセって、こんな人だったかしら?」と思ったら、演じている主要俳優たちが総入れ替えになっていました。以前の配役のままでよかったのですが、ちょっとだけ登場するカールの元同僚のハーディ(カールとの仕事で負傷して以降は身体障害者)すらも別の俳優が演じています。
- ほかの4作品に比較すると材料、展開ともに突飛なところがありません。2時間ドラマのひとつとしてなら十分に楽しめます。
デンマーク版についていえば、私は最初の4作品のほうが好みに合っていたみたいです。そしてネットサーフィンしていたら、こんな記述を見つけました。
最初の4作品(私の知っているものと合致しているとしたら「檻の中の女」「キジ殺し」「Pからのメッセージ」「カルテ番号64」)は評価が高く、興行面で成功したにもかかわらず、著者は不満を表明。登場人物を含めたコンテンツが著作から逸脱しすぎている、彼の提案が無視されていると感じたため。その次の作品(恐らく「知りすぎたマルコ」)はプロデューサーが交替。主要な登場人物も別の俳優に置き換えられた
「へえー」って感じ。原作者が不満をもっている4作品のほうがずっと面白かったです。ともあれスコットランド版に関してはバランスが取れていてよい出来だと思います。お勧めです。続編があるといいなと思います。