こちらの続きです。
さてシーズン3に入り、もうひとつの “タイムライン“(と言うか “世界”)が登場します。「時間(過去・現在・未来)は直線状ではない」とシーズン1の冒頭で言っていますので “タイムライン“ という表現自体がおかしいのかもしれませんが。
シーズン2までは、直線的でないにせよ、ひとつの世界にまつわる過去・現在・未来が交錯していたという点で単線的でした。シーズン3では、それに並行世界(パラレルワールド)という要素が付け加わります。「シーズン1&2 → ヨナスワールドで現在・過去・未来が絡む」であったのに加え、「シーズン3 → マルタワールドとヨナスワールドが絡む」ことになります。
ふたつの世界はよく似ていますが、各種の設定が異なります。
- ヨナスの住んでいる家とマルタの住んでいる家が、逆になっている
- ヨナスの母ハンナは不倫の結果、ウルリッヒに捨てられるはずが、ウルリッヒと再婚している
- 誰とも不倫していなかった警官のシャルロッテが、同僚のウルリッヒと不倫している
- 眼帯をしていた片目の警官が、目の見える片腕の警官になっている
- フランツィスカの妹エリザベートが聾唖であったが、姉フランツィスカが聾唖で、エリザベートは耳が聞こえる
- 黄色いアウトドアジャケットをいつも着ているのはヨナスだったが、マルタが同様のものを着ている
- シャルロッテやカタリーナは、パキパキしていて荒々しかったが、並行世界ではしっとりして女性的にふるまっている
というように、登場人物や属性、条件や使うアイテムはよく似ているものの、少しずつ組み合わせや何かが異なっています。
シーズン2の最後に、ヨナスの前にマルタに瓜二つの女の子(マルタワールドのマルタ)が突如現れます。
“いつから来た?” じゃない。“どの世界から来た?” と言うべきね
という言葉は、彼女がヨナスワールドの過去や未来から来たのではなく、並行世界から来たことを言っていたのです。そして “ヨナスワールド(アダムの作った世界)” と “マルタワールド(エヴァの作った世界)” が結び目を作っていることにより、いろいろと面倒なことが起きていることが示唆されたところから、シーズン3が展開していきます。
なお、マルタワールドにはヨナスはいません。「11月4日にミッケルは洞窟へ行かない → 過去へタイムスリップしない(失踪しない) → 元ミッケルのミハエルがハンナと結婚することはあり得ない → ふたりの息子ヨナスは生まれない(ミハエルは存在していないので彼の自殺もない)」というシナリオの世界。したがって、ヨナスワールドでは母だったハンナも、マルタワールドではヨナスを知りません。
このシーズンも登場人物(それぞれに老人・青年・子どもバージョンあり)が繰り返し各年代を行き来するので、画面の右上に例えば「場所は〇〇年のヨナスワールド」と表記、登場人物には「マルタワールドにおける△△年の誰それの姿」という名札が欲しいです。面白いから許容範囲内ですが、息を抜いた瞬間からストーリーがまるで分からなくなります。
ヨナスとアダム、マルタとエヴァの関係ですが、ヨナスが人生とタイムトラベルの荒波に揉まれた結果到達したのがアダムというあり方で、マルタワールドの「若いマルタ」の「内なる存在」が具現化したのがエヴァ(上位互換)という感じですかね。アダム同様にエヴァも年を取っているので、シンプルに「老人マルタ」がエヴァ、「老人ヨナス」がアダムなのかもしれません。あるいはアダムが先で「幼いヨナス」が後から生まれたのかもしれません。鶏が先か、卵が先か。ただし、ヨナスワールドの「青年ヨナス」は、アダムが未来の自分であることを疑っています。
「ヨナスワールドとマルタワールドの始まりを探して、終わりとの循環を止めよう」と、「ヨナスワールドのヨナス」と「マルタワールドのマルタ」が協力します。「マルタワールドのマルタ」は並行世界における別のマルタ(ヨナスを知らないマルタ)です。
大筋の話の合間に、ヨナスワールドのカタリーナが息子ミッケルや夫の「中年ウルリッヒ」を探しに1987年へタイムトラベルをして、当時恋人だった「青年ウルリッヒ」に「バイ菌」「アタマのおかしいババア」呼ばわりされたり、実母に石で殴られ沼へ沈められたり(武闘派カタリーナも母の前には敗北を期す)、ハンナもかつての愛人ウルリッヒを探して1954年へタイムトラベルしたものの獄中のウルリッヒを見捨て、クラウディアの父エーゴンとの子を妊娠・出産して家系をややこしくしたりと、観ているこちらはアタマの中がごった煮状態。
「ここはいつで、これはどの時代の誰で、この出来事がどのように、どの未来や過去へとつながっていくんだよ!もうワケが分からん!」と叫びたくなってきます。しかし頑張りましょう。このドラマの終わり方はなかなかイイです。
ここから結末に関するネタバレあり
複雑な構造をシンプルに整理します。実はヨナスワールドとマルタワールドという並行世界のほかに “起源の世界” があり、“起源の世界” が “ふたつの世界(二元性)“ を生み出していました。それに気づくのが “ふたつの世界(二元性)“ をタイムトラベルしてきた「老人クラウディア(アクティブなシニア)」。
二元性の間に結び目があるため、いつまでも何をしても「似たような始まりー似たような終わり(デジャブ)」のループを抜け出せないことを「ヨナスワールドのヨナス」と「マルタワールドのマルタ」は知ることになり、 “起源の世界” から “ふたつの世界(二元性)“ が生まれることを阻止しようとします。
「人には消えない痛みがある」「その痛みが意志を作る」「人は強い欲求を手放すことができない」「それが対称的なふたつの世界に結び目を作り続ける」「そして同じことを繰り返す」⇒ 忘れられない感情や欲求や悔恨があると執着が生まれ、カルマの輪から自由になれず、輪廻転生を繰り返すという仏教説に似ています。
最終的には “ふたり(ヨナスとマルタ)” が “ふたつの世界” を消し、“起源の世界” のみとなります。ふたつに分割された世界を終わらせることがふたりの使命だったのです。“ふたり” は循環であるとともに単一です。「残るものはないの?」とマルタ(エヴァ)は言います。ここに生きる私たちは、未来に向かって自分の感覚が存続しないことを恐れます。しかし “残る” とは “時間と空間のある世界“ 特有の発想です。ドラマ内で何度か繰り返された言葉「完璧なカップルだ。僕たちを信じて」とともに “ふたり(アダムとエヴァ)” は手に手を取って消えていきます。
過去・現在・未来のループの世界は消えましたが、“起源の世界” は果たして唯一&単一の世界なのでしょうか。 “起源の世界” で生まれてくる子どもの名をどうするか尋ねられたハンナは言います。「“ヨナス“ がいいわ」。これもまたデジャブなのかも。
さて次は、このドラマに出演していた人たちについて紹介したいと思います。世界的に活躍している人もいれば、ドイツ以外ではあまり知られていない人もいます。