フォルカー・クッチャーによる小説「ベルリン警視庁殺人課ゲレオン・ラート警部」シリーズがベースのドラマ。シーズン4までリリースされており、Amazonプライムビデオではシーズン3まで見られます。このところ、新しくリリースされる作品で面白いものに出会うことがないので「バビロン・ベルリン」(原題:”BABYLON BERLIN”)を取り上げます。今回はシーズン1です。
「1929年のワイマール共和国を舞台として、ドイツ史上最大の規模で制作された歴史スリラー連続テレビドラマ」というだけあって、見事なセット・小道具、刺激的なストーリー展開、丁寧な脚本、警察や軍部・ソ連のスパイ・共産主義者などたくさんの登場人物がいて、いろんな点で見ごたえがあります。非常に面白い作品で大人向けの内容です。
このところインド作品を観ることが多かったのですが「 “インド発” は内容が単純。ドイツの作品はやっぱり奥が深いわ」と思いました。両国は世界史における立ち位置がかなり異なっているので、作品を同列に並べて比較するのは無意味な気もしますが、まあそんな感じです。
「バビロン・ベルリン」。まずは退廃的、デカダンなトーン&マナーです。“この世の終わり感” “場末感” が半端なくあります。
主人公ゲレオン・ラートはシーズン1ではケルン警察から転任してきたベルリン警察風紀課の警部。選挙を控えたケルン市長のコンラート・アデナウアー(元は医師)の性的行為を収めたフィルムを探し出して処分することを命じられています。
本作はヌードや性的なシーンが多く、グロも容赦なく出てくるのでお茶の間視聴には向きません。局部には黒い墨がかかっているのですが、日本向けの措置なのか、昔風の検閲コードを表現するための演出なのか、そこはよくわかりません(どちらかというと前者かな)。
第一次世界大戦でジークフリート線の兵士として戦い、PTSDを患ったことによりモルヒネ中毒となったゲレオン・ラート警部。昼間は警察で日雇いのような事務仕事に携わり、夜は娼婦として働くシャルロッテ・リッター。警部が主役で、シャルロッテが準主役という立ち位置で話が進行していきます。
シャルロッテを演じるのはリヴ・リサ・フリース。こちら(↓)でドイツの外交官ポールの恋人レーニャを演じていた女優さんです。
「バビロン・ベルリン」におけるシャルロッテの家族は妹トニを除き、救いようのない人たち。特に姉の夫がゴミクズ以下。家は貧しく、シャルロッテがお金を稼ぐ必要がありました。
シーズン1の主要な人物
ゲレオン・ラート:ベルリン警察風紀課に転任。父親は警察の高官。父がサポートするケルン市長コンラート・アデナウアーの性的なフィルムのありかを探るよう言われている。第一次世界大戦を兵士として戦い、PTSDを患う。モルヒネ中毒に陥っている。ケルンにいる兄アンノーの妻ヘルガと親しい間柄。ベルリン警察での上司ヴォルター上級警部はゲレオンの転任の背景を怪しんでいる
シャルロッテ・リッター:貧しい家庭の娘。夜は娼婦をしている。朝、警察へ行って、その日の募集に手を挙げて仕事を獲得する生活。日雇い仕事をしているうちに警察の殺人課で刑事助手になることを望むようになる
シュテファン・イェニケ:ベルリン警察風紀課の刑事でヴォルター上級警部の助手。両親が聾唖であるため読唇できる。シャルロッテに好意をもつ
トロツキスト「赤の砦」のみなさん:イスタンブールに亡命したトロツキーを支持している共産主義者の組織。ベルリンで地下活動をしていたがソ連のスパイにしてやられる。リーダーのアレクセイ・カルダコフ(バイオリニスト)は汲み取り式トイレのタンク(糞尿 ⇒ もちろん偽物だろうが非常にリアルに作られている)に浸かったり、全裸で外を走り回ったりする羽目に陥る。演じているイワン・シュヴェドフ(ロシアの俳優で演出家)の苦労がしのばれる
「アルメニア人」エドガー・カサビアン:退廃的かつモード系(前衛的とも言う)、高級な面もあるナイトクラブ「モカ・エフティ」のオーナーで悪の親玉。シャルロッテは「モカ・エフティ」で客を取っている
シュミット医師:ベルリンにある暗示療法研究所の医師。ケルン市長コンラート・アデナウアーの性的なフィルム問題に一枚噛んでいる。謎めいた人物で「アルメニア人」エドガー・カサビアンともつながっている
非合法な軍事組織「黒い国防軍」のみなさん:ワイマール共和国政府をひっくりかえそうと目論む右翼組織。ゲレオン警部の上司であるヴォルター上級警部や実業家アルフレッド・ニッセンは、こちら側の人たち。警察に雇用されるのに必要な「無犯罪証明書」を発行する見返りとして、ヴォルター上級警部はゲレオン警部をスパイするようシャルロッテにもちかける
ベンダ行政長官:ベルリン警察のトップでユダヤ人。「黒い国防軍」を危険視している。シーズン後半でシャルロッテの友人グレータ・オーバーベックがベンダ家の住み込み家政婦となる
シーズン1の見どころ
なんと言ってもショービジネスや接客業(レストランなど)に代表されるナイトライフの退廃的なムード、世界観です。デカダンなだけでなくショービジネスとしての華やかさもあります。このところLGBTQの権利保障が叫ばれておりますが、男装の歌手(男性自認というより手段として活用)、女装の歌手(こちらは女性自認っぽい)、おかまバー店主みたいな人、ほとんど裸みたいな姿で踊る人たち。1929年のベルリンは何かと自由だったふうに見えますね。
警察の人も、アンダーグラウンドの人も、境界なく隠避な世界に身を任せて楽しんでいる姿が独特で印象的。そしてみんなダンスが大好き。自分だったらいっときは楽しいけれどすぐに飽きるかな、と思いますが、他人事として眺めている分にはかなり面白いです。
「ドイツ史上最大の規模で制作された」と言っているように、例えばステージ上の表現ひとつとっても豪華でお金がかかっている感があります。挿入曲の選び方も秀逸です。
シーズン1全体としては、ケルン市長の猥褻画像を秘密裏に処分することを命じられたゲレオン警部の動きがベースにあり、警察内部を含むワイマール共和国内の政治的な動きやスパイ合戦、ソ連や国内外の共産主義者の動きなども絡み合って、展開の広がりに惹きつけられる内容となっています。
ソ連からベルリンに入った列車の貨物を巡ってトロツキスト組織「赤の砦」は揺れます。「黒い国防軍」の関与も疑われます。白系ロシア人(ロシア革命後、帝政の復活を望んで国外に亡命したロシア人)のソロキン家令嬢スウェトラーナ・ソロキナはワイマール共和国の左翼から右翼までを相手に暗躍。ベルリンでは共産党員と警察の衝突による「血のメーデー事件(1929年5月)」が起こります。歴史スリラーなので実際にあった事件も登場します。
最後のエピソードの後半は非常に意味深な展開となり、シーズン2へとつながっていきます。なんとなく視聴していると見過ごしてしまいがちなので、シーズン2を観るときにシーズン1に戻って復習することになります。
雑ネタとしては「モカ・エフティ」の四角い氷の塊のなかに保存されたタコが非常に気になります。あのようにタコを保存し調理していくのか…、おいしそうだなと。タコは好きなので。また警察署のエレベーターの構造や動き方も面白く、そのカジュアルさに一度乗ってみたくなります。