タイトルが文学的な点が興味を引いたので観ることにしました。
“Los renglones torcidos de Dios” という小説が原作。書いたのはスペインの小説家&ジャーナリストのトルクアート・ルカ・デ・テナ。1979年に発表されたこの小説を基にした映画は1983年にメキシコで、2022年にスペインで制作されています。今回視聴したのは後者です。
著者トルクアート・ルカ・デ・テナは精神科施設に18日間入って精神障害者たちと一緒に過ごし、小説の登場人物たちのキャラクター作りの参考にしたそうです。
この映画に関する説明は以下の通り。
パラノイアを患っているとして、精神科病院に入院することになった私立探偵。彼女の目的は、ある患者が謎の死を遂げた事件の真相を探り出すことだった。
Netflix公式サイトより
「ああ、そうなんですね」ということで深く考えずに視聴開始。
人里離れた山間にある「泉の聖母精神科病院」に私立探偵アリス・グールド(別名:アリシア・デ・アルメナラ)がやってきます。彼女には職務上の使命があり、パラノイアを装って入院します。
アリスにはヘリオドロという夫がいますが、病院へ潜入することは言わず「仕事でブエノスアイレスへ行く」と伝えています。一方で医師に対し「夫は、妻である自分の財産を遊興費に使い、仕事らしいこともせずに暮らしている」と説明します。彼女は目論見通りに入院患者となり、探偵としての調査を開始。ダミアン・ガルシア・デルオルモの死の真相について探ります。調査を依頼したのは彼の父ライモンド。
その病院は、アルバが院長になってからは窓から鉄格子がなくなり、自由行動が許されるようになっていました。そこで恐水症のイグナシオ・ウルキエタ、双子の兄弟ロムロとレモ、ロムロが妹と思い込んでいる少女、大柄なエレファントマン、小人症のルイス・オヘダらと知り合います。
開放的な空間で患者たちが比較的自由に交流できるためか、アリスが偽装入院している間に上記のうち2名が死に至ります。
「ある患者が謎の死を遂げた事件の真相を突き止めようとしている私立探偵アリス」という前提で、私は映画を観ています。しかし中盤辺りから「ん?」「あれ?」と思うことが増えていきました。
院長アルバと私立探偵のアリスの間には、彼女の入院の経緯についての説明に違いがみられます。さらに「アリスはパラノイアで重い精神病」とする院長に対し、副院長や入院時にアリスを診断した医師は「彼女は精神病患者ではなく健常だ」という見解を示します。さて、正しいのは誰なのでしょうか。アリスの処遇を巡って病院の人事や経営にまで影響が及びます。
①「アリスの言っていることが正しい。病院には何か企みや陰謀がある」、②「ひょっとしたら院長の言っていることが正しくて、アリスは重い精神病であり、病院の部下たちは彼女にまんまと騙されているのでは」という、①②のふたつの視点のなかで揺らぎます。「何が本当なのだろう?」と繰り返し揺らぎます。そこが、この作品の面白さのひとつです。最後まで、どちらが本当のことを言っているのか確信をもつことができません。
2時間半という長尺の作品ですが、この揺らぎによって物語に集中できるので、あまり長く感じません。
先入観をもたずに視聴していましたが、次第にデカプリオの映画「シャッター アイランド」を思い浮かべるようになっていきました。実験的な取り組みが行われている精神科病院が舞台という点も似ています。「シャッター アイランド」は2003年の同名小説を映画化したもの。小説としては “Los renglones torcidos de Dios” のほうが先に世に送り出されています。
映画としては本作のほうが面白いと感じました。アリスのバックボーンが明示されないため、私たちとかけ離れた人物に感じられないことも、その要因です。
時間のあるときに、予断や予測をせず、まっさらな気持ちで観ると非常に楽しめる作品です。