利権と搾取が生んだ戦い-映画「ブラッド・ダイヤモンド」

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原題はそのまま “Blood Diamond” 、2006年のアメリカ映画なので結構古い作品です。西アフリカにある国、シエラレオネの内戦の火種となった「ブラッド・ダイヤモンド(紛争ダイヤモンド)」をめぐる物語(カテゴリーとしてはサスペンス映画に分類されている)。

レオナルド・ディカプリオが主演なので、日本で言うと大河ドラマ的王道世界(お約束のてんこ盛り)が繰り広げられるのかと思いきや、予想以上に国際社会や人間社会の問題、人間の際限のない欲や残虐性に迫った作品でした。

ざっくりとあらすじ(導入部分のみ)

反政府武装勢力の革命統一戦線(RUF)に村を襲われた漁師ソロモン・バンディー(ジャイモン・フンスー)は、妻と息子・娘を逃がすことはできたものの自身は囚われの身となります。武器調達の資金源であるダイヤモンド採掘場での強制労働中に大粒のピンクダイヤモンドを発見した彼は、危険を冒して土中に埋めて隠します。そのとき政府軍による攻撃が始まり、彼を指揮していたRUFのポイズン大尉(デヴィッド・ヘアウッド)が負傷。ソロモンとポイズン大尉は政府軍に捕らえられ、留置場に収容されます。

一方、ローデシア出身で元白人傭兵のダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)は、武器との交換取引でRUFからダイヤモンドを受け取ります。そのダイヤモンドを隣国リベリアへ密輸しようとしますが、国境付近でシエラレオネ政府軍に捕まります。留置場でソロモンとポイズン大尉の「埋めたピンクダイヤモンド」についてのやり取りを聞いた密輸業者アーチャーは、そのダイヤモンドをどうにかして手に入れようと策を練ってソロモンに近づきます。

ピンクダイヤモンドを手に入れたいアーチャーと、居所不明の家族を見つけたいソロモンは行動を共にすることになります。アーチャーとソロモンは「紛争ダイヤモンド」密輸の実態を追うアメリカ人ジャーナリスト、マディー・ボウエン(ジェニファー・コネリー)と知り合います。立場はまったく異なりますが利害がどこかしらで一致する(上手くいけは “win × win × win” の関係になることもできる)3人は命の危険に身を晒しながら、それぞれの求める成果に向かって進んでいきます。

「ブラッド・ダイヤモンド」の意味するもの

直訳すれば “血のダイヤモンド” なので「ルビーやサファイヤ、ガーネットのような赤みがかった宝石のことを言うのかしら?」と思いましたが、血が流される人と人との戦いのために取引されるダイヤモンド、血のにじむような苦役によって採掘されるダイヤモンドを指します。

レオナルド・ディカプリオ演じるダニー・アーチャーはシエラレオネ内戦に乗じて反政府組織RUFへ武器を提供し、対価としてダイヤモンドを受け取り、それをリベリアへ密輸しようとします。「紛争ダイヤモンド」と武器を交換する密輸業者なのでしょう。彼はイギリス植民地だった旧ジンバブエ出身で南アフリカ防衛軍の元傭兵という設定です。

[ブラッド・ダイヤモンド:紛争ダイヤモンド(Conflict diamonds)]

内戦地域で産出されるダイヤモンドや宝石類のうち、紛争当事者の資金源となっているもの。

紛争を抱える国家や反政府組織がダイヤモンドなどの宝石類の取引で得た外貨を武器の購入に充てるため内戦が長期化、深刻化する。反政府組織が地域の人々を残虐な方法で支配し、子どもたちを含む住民に劣悪な状況で採掘を強いることも人道的見地から問題視された。

当事国の産出するダイヤモンドなどを「紛争ダイヤモンド」と定義。国際社会は「紛争ダイヤモンド」の取引に懸念を示した。

[紛争ダイヤモンドを産出した主な内戦国]

アンゴラ、シエラレオネ(映画の主要な舞台)リベリア(シエラレオネに手を貸して資金調達)、コートジボワール、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、コンゴ共和国

[キンバリー・プロセス認証制度]

ダイヤモンド原石を取引する際、原産地証明書(キンバリー・プロセス証明書)の添付を義務付ける制度。

2000年、世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)と国際ダイヤモンド製造協会(IDMA)がワールド・ダイヤモンド・カウンシル(WDC)を創設。

2002年、WDCと国連、ダイヤモンド生産国政府、NPOなどによって、キンバリー・プロセス認証制度が生まれた。同制度はダイヤモンド輸出国を査察し、出所不詳の原石を取り扱う国家を指定し、「紛争ダイヤモンド」の市場流入を阻止しようというもの。制度がスタートして以降は流通に紛れ込む「紛争ダイヤモンド」の比率が1%未満になったとされる(しかし依然として課題が残されている)。

シエラレオネ内戦と革命統一戦線(RUF)

この映画の設定は1999年。革命統一戦線(RUF)が勢いを失う少し前の時期です。

アフリカって遠いところですから、当時いろんな国が内戦状態だった、そこでは非人道的な残虐行為の数々が行われていたと聞いてもピンとこない人が多いのではないでしょうか。私もそんなひとりです。

映画を観れば、政府軍と反政府武装組織が殺し合っていて、反政府武装組織は「人民の解放」を謳っていろんな地域へ押しかけていっては住民を虐殺し、拉致し、少年を洗脳して兵士とし、強制労働でダイヤモンドを採掘させ、取引によって武器や資金を獲得していたということが分かります。

内戦とRUFについて、もう少し詳しく知りたい方は以下をお読みください。シエラレオネ政府に雇われた南アフリカのエグゼクティブ・アウトカムズ社が、作品中のコッツィー大佐率いる民間軍事会社のモデルなのでは、と思います。

シエラレオネ内戦

1991年~2002年の内戦。革命統一戦線(RUF)と政府軍が交戦。ダイヤモンド鉱山の支配権をめぐって大規模な内戦に発展、7万5000人以上の死者を出しました。

1992年に軍事クーデターが起こり、バレンタイン・ストラツサー(解放奴隷の子孫で軍人)が国家元首となります。その後、弱体化したグルカ兵に代わるものとして、政権は南アフリカ白人政権時代の元兵士らからなる民間軍事会社(エグゼクティブ・アウトカムズ社)と契約。1995年のことです。

その後もクーデターが起こりますが、2000年にRUFの指導者で副大統領だったアハメド・フォディ・サンコーが市民たちによって拘束され、同組織は急速に勢いを失っていきます。2002年に内戦は終結。

革命統一戦線(RUF)

シエラレオネ内戦に深く関与した反政府武装集団。東部のダイヤモンド鉱山によってもたらされる資金と武器により、虐殺と破壊活動を繰り返しました(住民の拉致・殺害、手足の切断、麻薬漬けにしての少年兵育成など)。

組織の出発点は1970年代の学生運動であり、当初は腐敗した強権政治に対して民主化を求めるものでした。1980年代にリビアのイスラム社会主義の影響を受け、後の指導者となるアハメド・フォディ・サンコーが同国で軍事訓練を受けます。1990年代に隣国リベリア(チャールズ・テイラー結成の反政府武装組織「リベリア国民愛国戦線(NPFL)」)からの支援も得て勢力を拡大(リベリアも1989年~1996年、1999~2003年の2度にわたって内戦)。しかし90年代半ばには政治色が薄れ、略奪や暴行などの反社会的な活動がメインとなっていきます。

2002年以降は「革命統一戦線党(RUFP)」を名乗って政党へと活動を転換。その後、全人民会議と合併することにより組織は消滅しました。

ざっくり感想

観る人により、この映画はいろんな視点からの視聴ができそうです。

内戦には民族・宗教の軋轢から起きるものもありますが、シエラレオの場合は資源をめぐる内戦でした。ただし一見すると宗教や民族の対立に見える内戦も「真の原因は経済格差」というケースもあります。

以下は国際情勢、政治、経済という視点から感じたことです。

①西洋先進国(植民地支配を行ってきた側)と途上国(支配されてきた側)の格差が生む悲劇

西側先進国が「ダイヤモンドの密輸は問題だ。けしからん」と言っても、最終的に流通していく先は自分たちの国であり、購入者は富裕層がメインでしょう。非人道的な採掘によって集められたダイヤモンドを、世界各国の大金を動かす人たちが買い取ります。その中間プロセスに入る組織も多くの利益を得ます。豊かな国の人々と仲介業者が、強制労働で採掘を行う貧しい人々から搾取していたと言えなくもないわけです。

②旧植民地ゆえに政治や経済の基盤が培われていないことが生む不安定さ

植民地支配を行ってきた側が国境線を決め、長年好きなように内政や経済を仕切ってきたのですから、ある日独立したところで政治体制に安定した基盤がなく、経済や産業構造も未成熟なので混乱・意見対立・軋轢が生じがち。国民は経済的に貧しく、問題山積の政権に対する苛立ちを募らせます。そんなこともあって “政権 vs 反政府組織” の対立が各国で生じます。

人間関係という視点から感じたことは次のようなことです。

密輸業者の元傭兵アーチャー、ダイヤモンド採掘の強制労働に従事させられていた漁師ソロモン、「紛争ダイヤモンド」について取材するアメリカ人記者マディの “win × win × win” 関係、自分を差し出して他者に協力することによって生まれる正の連鎖が心に深く刻まれました。 “win × win × win” とは言っても、もちろん同時に多大なる犠牲や献身、冒険を伴います。

アーチャーはソロモンとマディに捧げました。ソロモンはアーチャー&マディと自分の家族(特に息子ディア)に。マディはアーチャーとソロモンに。

密輸業者だったアーチャーに大きな影響を与えたのは、危険を冒して家族を捜し出し、彼らを守り、家族としての絆を取り戻すことを諦めなかったソロモンの姿だったように感じます。そしてソロモンにはダイヤモンド産業による搾取(反政府組織の横暴)への怒りに加え、助けてくれたアーチャーやマディへの恩返しの気持ちがありました。マディには記者としての矜持、アーチャーへの思い、ソロモンを人道面からサポートしたい気持ちがあったのではないでしょうか。

この映画はサスペンスに分類されるようですが、私はヒューマンドラマ、繰り返してはならない歴史記録という印象を強く受けました。

おまけのトリビア

この映画、ミリタリー好きには面白い発見がいろいろあるようです(戦闘に使われたヘリコプター、飛行機、ピストルやライフル銃、ナイフなど)。私はそうではないのでチンプンカンプンです。

個人的に「ほう、そうですか」と思ったものだけ紹介しておきます。

プチ・トリビア
  • 南アフリカにアーチャー役のレオナルド・ディカプリオが到着した際、空港の前に立っていたのが彼の母と祖母(母が意外に若い)
  • ダイヤモンドのデビアスグループは “この映画が描いていることは過去のものであり、今の状況とは異なる” ことをアナウンスするように求めたと言われているが、同グループはそれを否定している
  • マディ役のジェニファー・コネリーは、ディカプリオとのカーチェイスシーンの撮影で首を負傷した(恐らくドライバーを合わせて3人乗車していて襲撃に遭い、ドライバーが死に、ディカプリオが運転するシーンと思われる)
  • ディカプリオは役作りのために元ローデシア兵士から訓練を受けた
  • アーチャーが南アフリカを訪れた際、コッツィー大佐に伴って出てくるローデシアンリッジバック(犬)は1800年代後半に当時のローデシア領土で作出された犬種。現在ジンバブエの犬の大半を占めている
  • アーチャーがHIVに感染していることが示唆されているとのこと(私はそのようには感じなかったが、ひょっとしたらアフリカにHIV感染者が多いことを伝えようとしていたのかも)

[ロケ地]南アフリカ、モザンビーク、イギリス

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