元国連職員マイケル・スーサンが自身の体験をもとに執筆した小説「Backstabbing for Beginners」を映画化したのが「バグダッド・スキャンダル」。困窮するイラク国民を救うことを謳った人道支援 “石油・食料交換プログラム” の裏で行われていた不正を描いています。
著者マイケル・スーサンは非常に国際色豊かな出自です。①マイケルはデンマーク生まれ、②彼の父はモロッコのカサブランカ生まれ、③彼の父はイスラエルに移住しキブツで出会ったデンマーク女性と結婚、④マイケルは主にパリで育ち18歳のときアメリカへ移り住んでいます。望んでもなかなかこういう育ちにはならないもの。
それでは彼の体験を基にした映画をみていきましょう。
物語はこんな感じで始まる
銀行のロビイストから国連職員に転職したマイケル・サリバン。ベイルート(レバノン)のアメリカ大使館爆破事件により死んだ父親は外交官でした。父の影響もあって世界を変えたいと思っていたマイケルは国連の職に就くことを考えていました。4度目の挑戦で採用され、事務次官の特別補佐官のポジションを得ます。そして “石油・食料交換プログラム” に関わることになります。
同プログラムは1995年に始まったもので安保理決議986に基づいていました。湾岸戦争後、サダム・フセインへの経済制裁によりイラク経済は破綻。食糧や医薬品の不足で人々の命が失われていました。
プログラムの目的は①イラク国民に物資を提供すること、②フセインによる大量破壊兵器開発を抑止することであり、国連がイラクの石油販売を管理し、その利益を人道援助にあてることでイラク国民の困窮を減らそうというもの。そのプロセスを監視するのが国連職員の責務でした。年間予算は100億ドル、それに含まれない活動費が20億ドルと巨額の資金が動いていました。
国連がひた隠しにしていた事実
着任早々マイケルは報告書の作成を指示されます。
「“石油・食料交換プログラム” は一定の効果を上げていたもののクルド人地域には不足物資があり、それらの物資はフセインの故郷であるティクリートに回され、見返りとして多くのリベートが支払われている」ことに触れたところ、事務次官パシャは報告書をシュレッダーにかけて書き直しを命じます。
国連バクダッド事務所長のクリスティーナ・デュプレは事務次官パシャとは異なる考えをもっていました。プログラムは利益に群がる組織や人々を生み、汚職につながっているというのが彼女の認識でした。そのような事実を隠すことなく報告書に掲載したいデュプレ、不都合を隠匿し耳障りのよい情報で盛った報告書を作成したいパシャ、ふたりは相容れません。しかし報告書は最終的に現地所長によってサインされねばならず、その点ではデュプレが優位にありました。
バクダッドでマイケルはナシーム・フセイニというクルド人の女性通訳と出会います。そしてマイケルの前任者は不慮の事故死ではなく殺害されたこと、プログラムからフセインへ流れている巨額資金について聞かされます。 “石油・食料交換プログラム” には闇の部分が多く、その闇を支えているのが自分たち国連職員であることを思い知ることになります。
マイケルの告発とその後
マイケルは国連で仕事を続けることに苦しみを感じるようになっていきます。良心も腐っていきそうになりますが最終的に告発へと向かいます。
その選択が「56カ国2000以上の企業がサダム・フセインから正当ではない金銭を受け取り “石油・食料交換プログラム” に拠出されたうちの約200億ドルに群がった」という大スキャンダルの露見につながっていきます。
アメリカは、ほかにもエドワード・スノーデンなど大告発を行う人が目立ちます。彼はさすがに亡命しましたが、現在「Backstabbing for Beginners」の著者マイケル・スーサンは紛争地域を取材するジャーナリストとして活動しているようです。
利権やキックバックに群がる人たち、中抜きで労せずして利益を得ようとする企業。それらが国を問わず、営利組織/非営利組織を問わず、あらゆるところにはびこっていることを再認識できる映画です。表向きは社会貢献、美談を展開し、その陰では私利私欲にまみれ、私腹を肥やすことばかりを考えている人たち、日本にもたくさんいると思います。
[撮影地]
- アメリカ、モロッコ(マラケシュ、カサブランカ)、デンマーク、カナダとのこと。
- イラクのシーンはモロッコで撮影したと推察されます。キプロスのシーンもモロッコでの撮影と考えるのがしっくりきます。
- どのシーンがデンマークとカナダだったのかが分かりません。小さな頃のマイケルと父親のシーンがあり、恐らくデンマークでの出来事です。しかし、あえてデンマークへ出向いて撮影するほどのシーンではなかった気がします。ひょっとしたら幼いマイケルと父親の過去動画は “ホンモノ” を使っているのかもしれません。