“少女”より“その母”が目立つドラマ「オスロの少女」

これも以前視聴したドラマで、エンタメとして観ると面白い2021年の作品です。「カリフェイト」でIS（イスラム国）に触れたので、その流れで「オスロの少女」（原題 “Bortført” ）も取り上げます。

移民を多数受け入れてきたスウェーデンを拠点にIS（イスラム国）が政治・宗教的なテロ活動を繰り広げます。宗教や政治を離れてもサスペンスドラマとして十二分に引き込まれます。相当手に汗握ります。

「オスロの少女」というタイトルなのに、少女ピアはどちらかというと脇役で “パーツ感” が強いです。彼女の母アレックスの “ゴリ押し外交” っぷりがやたら目立ち、母親が主人公のように感じられます。そんなアレックスを「ウザいわ」と感じる方には向かないドラマかもしれません。その点に寛容であることができれば楽しめると思います。一連の事件はアレックスの “身から出た錆” によるところが大きいのですが「母親だしドラマだし、こんなもんでしょ」と思って観ていました。

導入部分のあらすじ

●両親に内緒でエジプトのシナイ半島を訪れているノルウェー人のピア、イスラエル人の兄妹ナダヴとノア。車でイスラエルに向かう道中でIS（イスラム国）に拉致されます。

●ピアの母親アレックスは1993年のオスロ合意に関わっており、イスラエルとパレスチナ、双方と因縁があります。何も告げることなくイスラエルへ向かった娘ピアと関係を修復しようと単身同国へ乗り込むアレックス。エルサレムでピアの足取りを追ううちに彼女がエジプトで拉致されたことを知ります。イスラエルで本件を担当するのがアリク（イスラエル諜報省の大臣）。

●ISはピアたち3人と、捕らえられているISメンバー（イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人12人とノルウェーの刑務所にいるアブ・サリム）の交換を条件として提示。3人を救出したいイスラエルとノルウェー（加えて拉致の現場となったエジプト）、自分たちの仲間を解放させたいIS、ふたつのグループの間で自分たちにとって有利な展開を引き出したいハマス（パレスチナ）。政府上層部の駆け引きが始まります。

●ピアの母アレックスは “昔取った杵柄” で外交交渉の手腕を振るい、自分の都合をゴリ押し、状況を打開しようとします。夫カール（弁護士）はノルウェーに残り、アブ・サリムの釈放に向けて動きます。

●アレックスはガザ地区で旧友ライラの協力を得ます。ライラの息子ユスフはISに加わっていますが母ライラはそれを知りません。

「オスロ合意」とは

「①イスラエルを国家として、PLO（パレスチナ解放機構）をパレスチナの自治政府として相互に承認する」「②イスラエルが占領した地域から暫定的に撤退し、5年にわたって自治政府による自治を認める。その5年の間に今後の詳細を協議する」という2点に対する合意が1993年にノルウェーのオスロで取り付けられた。アメリカのビル・クリントン大統領（当時）が仲介。その後2006年7月のイスラエルによるガザ地区・レバノンへの侵攻により、この合意は事実上崩壊。

ゆえにピアの母アレックスらはPLOではなくハマスと交渉。ドラマ内でのハマスの反応は「オスロ合意には失望した」というもので、アレックスのゴリ押しに「それもオスロ流か」と嫌味を言うシーンがある。

「無理を通せば道理が引っ込む」を地で行くアレックス、彼女に翻弄・コントロールされるイスラエルの大臣アリク。ひとり黙々とノルウェーで対処を迫られる弁護士カール。物語は「カリフェイト」同様にハラハラする展開を見せます。ひょっとしたら親子、家族の反目や赦しをピア、ユスフ、ナダヴらを通じて描こうとしたのかな、と思うところもあります。だとしたら上手くいっていないように感じます。エンタメ作品としてなら、全体によくできています。

［出演者トリビア］

「少なくとも5人の俳優がイスラエルのドラマ『ファウダ-報復の連鎖-』に出演している」とのこと。