結構以前に視聴しているのですが、改めて観ました。原題は “Historia de un crimen: La búsqueda” です。
メキシコで2010年にメキシコで起きた事件を元にしたドラマ(すべてが実話通りというわけではないようです)。幼女の家族、母親の親友の女優、メディア関係者、検察、政治家たちの、エゴイスティックな思惑が絡み合います。犯罪として何か解決をみたわけではないので「結局、誰が犯人で、なぜ、幼女は死ぬことになったのだろう?」という部分について、明確には回収されません。
これは人間ドラマとして観るべき作品です。それぞれの人間が自己利益の拡大を狙って、エゴイスティックに周囲を操作しようとする姿が興味深いです。
事件の顛末
[2010年3月21日]
- 夜8時に長女チェス、次女ポーレット、家政婦エリカを伴って父マウリシオ・ヘバラが別荘からインターロマスの高級マンションに帰宅。母リゼット・ファラは親友アマンダ・デ・ラ・ロサとのロス・カボス旅行から帰宅
- 翌日の聴取では、ポーレットの寝かしつけは家政婦、母親ともに「自分が行った」と証言(どちらかの証言が嘘または間違い)
[2010年3月22日]
- 次女ポーレット(4歳)の姿がないことに家政婦エリカが気づく
- マウリシオの実家ヘバラ家は名士。コネを使ってウイスキルカン市長アルフレード・デル・マソ(州知事のいとこ)に手を回し、捜査の便宜を図らせる。リゼットのファラ家も名家。メキシコでは、幼女が失踪したからといって捜索してもらえるとは限らないらしい
- 市長の指示により、メキシコ州検事長アルベルト・バズバズが捜査を指揮する。部下はボニージャ。人員の関係で副検事長カスティージョが実務上の担当となる
- 失踪した幼女の母リゼットの親友が女優のアマンダ。リゼットの元に頻繁に出入りし彼女をサポート
- アマンダからTVセントラに情報が流れ、上昇志向の強いカロリーナ・テジョが担当に
[2010年3月23日]
- カスティージョは一家に不審なものを感じて家に盗聴器を仕掛けるよう指示。一方、24時間以内に犯人からの接触はなく、誘拐事件の線は薄いと判断
- レポーターのカロリーナに対し、警備員は「幼女は外に出ていない」と証言。それとは別の人物から「朝9時に大型乗用車がマンションから出ていった」という証言があった
- アマンダは、リゼットとの旅行が男性8人を伴うアバンチュールだったことを証言
- カスティージョは夫婦の会話の盗聴記録を聴く。不審な会話を見つける
[2010年3月23~25日]
- アマンダは、失踪したポーレットのベッドで3晩にわたって就寝
- カスティージョは夫婦の会話のテープの内容をほかに知る者がいないことを使って、マウリシオの父に圧力をかける
- 幼女ポーレットには障害があることが公表され、公開捜査に移る etc.
[2010年3月26~29日]
- 検事長は母リゼットの証言には事実と違う点があることを知る
- カロリーナは、リゼットへのインタビューをポーレットのベッドの上で行う
- 検事長はリゼットとマウリシオ、家政婦の姉妹を拘束する
- マウリシオは司法取引する etc.
[2010年3月30日]
- ポーレットが自宅のベッド(枠とマットレスの間)で遺体で発見される
主な登場人物
[失踪した幼女の家族周辺]
- リゼット・ファラ:偉そうな女性でタバコをふかしている。レバノン人。男性にはもてるらしい。禿げ頭の愛人がいる。夫はマウリシオ
- マウリシオ・ヘバラ:財産以外に何が魅力なのかが不明の男性。不動産関係の仕事をしている。頭が悪そう。妻はリゼット
- アマンダ・デ・ラ・ロサ:野心旺盛な女優(B級と思われる)。自身の名誉挽回のため、事件の手記を副検事長カスティージョの協力を得て出版。何かにつけ、贔屓の占い師に占ってもらっている
- カロリーナ・テジョ:TVセントラの野心的なレポーター。犯罪ギリギリの取材を行う。検事長の補佐のボニージャから情報を得ている。捜査妨害で出入り禁止となり、報道から一旦は外される
[検察周辺]
- アルベルト・バスバス(検事長):間の抜けたところがあり、部下たちから馬鹿にされている。検事側の人物のなかでは良心のある人だが、仕事の進め方に軽率な面がある。元教師らしい。ユダヤ人
- ボニージャ(検事長の補佐):いい人そうではあるが、カロリーナに情報提供するなど野心もそれなりにある
- カスティージョ(副検事長):女優アマンダへのボディタッチが激しい。離婚経験者でイケメン設定なので、アマンダもまんざらでない感じ。野心アリアリの策士。自分に有利に働くなら、非合法/卑劣なやり方も意に介さない。検事長を罠にかけて追い落としたうえで出世を目論む。もともとは麻薬捜査が担当領域
- トマス・シンブロン(諜報機関の人間):副検事長カスティージョと接点がある。リゼット&マウリシオの高級マンションへ出入りしていたことが判明
- ミランダ・ナバ(総務長官):事件と直接の関わりはなさそうだが、ときどき現れる。検事長のところにも、ときどき諭しにやってくる。知事の力になりたいと思っている
- マンチェラ(連邦検事):ボニージャの勧めを受けた検事長に捜査協力を依頼されるも、リスクは負わず、知事に恩を売る(「事故死」で収める)かたちで協力する
- マデリン・モンゴメリー(FBI捜査官):検事長の依頼を受けてアメリカから捜査にやってくる。FBIは遺体の司法解剖を行う
- 検視官:副検事長カスティージョの脅しにより、報告書を書き替える。そのことをカロリーナに話した後、姿を消す
結局のところ、一番怪しいのは失踪した幼女ポーレットの両親なのですが、いろんな立場の人たちの各種の野心を背景に、マウリシオは娘の居場所について無罪放免を条件に司法取引。その後、ポーレットはベッドの枠とマットレスの間で遺体で発見され “事故死” として処理されます。
両親や家政婦たちが拘束されている間に、家に侵入して遺体を置いたのは諜報機関(プロ)という気がします。殺人や過失死を告白すれば何から何まで無罪放免になるのは道理に合わないので(告白して無罪になるのだったら、みんな告白するでしょう)、例えばマウリシオ以外に誰かもうひとり以上、事件の重要な部分に関わった人物がいるか、死を隠匿していた事実を白状、プラス今後について有力者の立場から検察や政治家に便宜を図ることを約束して無罪放免といったところでしょうか。
幼女の死を取り巻く、大人たちの駆け引き・攻防と、グダグダなメキシコ社会が非常に興味深いので、ヒューマンドラマとしてご覧ください。不条理な人間模様に関心のある人には面白く感じられますのでお勧めです。
ドラマの最後に、登場した実在の人物たちのその後が紹介されています。「あー、やっぱりね」という感じです。
検事長バスバス役のダリオ・ヤズベック・ベルナル。とぼけた鈍くさめの善人役がとても板についていました。作中のオールバックとメガネ姿でも、もちろんキレイな顔立ちではあるのですが、普段の写真が別人のようにカッコよかったので驚きました。
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