「グッドモーニング、ヴェロニカ」(シーズン3)、細かいことを気にしない人にとっては、あれでよかったのかもしれません。私はどうかといえば、数多くの疑問が回収されないままにドラマが幕を閉じた印象をもっています。
導入部あらすじ
ヴェロニカは “彼ら(闇の組織)” の黒幕 “ドウム” を追います。グローリア課長から手渡されたノートやマラニョン州の地図を手掛かりに “ドウム” や彼の拠点を探し出そうとします。クラウジオやマティアスの生まれ故郷はマラニョン州です。ヴェロニカは記者のレチシア・ヴァレを名乗っています。
彼女はモンテ・アズール方面へと向かい、そこで裕福な牧場主ジェロニモ・ソアレスと出会います。知名度の高いモンテ・アズールはマラニョン州ではないように思うのですが、同州にも同じ地名があるのでしょうか。
そしてラテン語で「血は洗い流された」と刻まれた孤児院 “信仰の秩序” を発見。既に閉院しているため入れなかったものの、ジェロニモの協力を得て足を踏み入れることに成功します。なぜかよくわかりませんが、彼らは牧場で性交します(一応ダジャレです)。理由としては①相通じる何かがあった、②どちらも性的な魅力たっぷりであることの表現、③馬と戯れているうちに本能が刺激されて欲情した、あたりが考えられます。ところでヴェロニカとパウロの夫婦は離婚したのでしたっけ?
“信仰の秩序” はマティアス・カルネイロの師モンシニョール・ダヴィラが作った最初の孤児院。モンシニョールは孤児院の少女たちをレイプし、子どもを産ませ、赤ん坊たちを売り飛ばしていました。
ヴェロニカはジェロニモの協力を得る体裁で捜査を進めていきます。そんなとき娘リラを拉致されます。妻ジゼルや娘アンジェラとの間を引き裂かれた堕ちた宗教的カリスマ、マティアスの仕業と思われました。
ヴェロニカは黒幕の “ドウム” を追う一方で、娘リラを奪還せねばなりません。
物語は最終的に収まりがつきます。ただしシーズン1~3の全体像が今ひとつクリアにならないままエンディングに突入していったように私は感じました。
登場人物
ヴェロニカと彼女の協力者
ヴェロニカ・トーレス:ときに記者のレチシア・ヴァレを名乗っている。夫パウロ、娘リラ、息子ラファエルはヴェロニカと共にいないことが多い。リラにはルーカスというボーイフレンドがいる(シーズン2からスマホでやりとりしていた)
ヴィクトール・プラタ:監察医。彼女の家族とも仲がいい
グローリア・ヴォルプ:サンパウロ警察、対女性犯罪課の課長
孤児院 “聖人の家” 関係者
マティアス・カルネイロ:いくつかの罪により告発されている。信仰治療の師匠はモンシニョール・ダヴィラ
アンジェラ・カルネイロ:マティアスの娘。父マティアスに反目
ジゼル・カルネイロ:マティアスの妻。夫マティアスに反目
カロリーナ: かつて孤児院 “聖人の家” にいた。アンジェラの恋の相手
テナー(パブロ・アルバセテ):人身売買を仕切る人物
ジュディチ・カルネイロ:ジゼルの母。アンジェラの祖母。エストレーマの精神科病院に収容
リマ:殺人課の警官。警部アニータ亡き後はマティアスの指示で動く人になっている
孤児院 “信仰の秩序” 関係者
モンシニョール・ダヴィラ:宗教的カリスマ。彼の集会所は後にエストレーマの精神科病院となる。孤児院 “信仰の秩序” 創始者。同孤児院は少年犯罪を犯した者たちも保護。一方で闇の稼業に手を染めていた。何者かによって殺鼠剤で毒殺された
ウルスラ:赤ん坊の頃、人身売買でポルトガルのリスボンへ渡る
牧場関係者
ジェロニモ・ソアレス:富豪の牧場主。馬を交配して売っている。熱心にヨガを実践
ディアナ・ソアレス:ジェロニモの母。少女の頃から “信仰の秩序” で暮らしていた
ライス・カルドーソ:孤児院 “聖人の家” で育った。牧場でソアレス親子にいいように使われている
回収がいまひとつだったアレコレ
ここから先はドラマ未視聴の人は読まないほうがよいかもしれません(ネタバレあり)。真剣にドラマを視聴していたにも関わらず、私には最後までわからないことがいろいろありました。
なかでも大きなところだけを言うと以下の3つでしょうか。
- 結局のところ、3人の男たちはどういう間柄だったのか?
- 2人の女たちは何を求めていたのか?
- モンシニョール・ダヴィラとディアナの血を引くことに何の価値があるのか?
3人の男たち
“聖コスマス” と “聖ダミアヌス”、彼らの弟 “ドウム” の関係性に喩えられているのが、クラウジオとマティアス(どちらが “コスマス” でどちらが “ダミアヌス” なのかはわからない)、そしてジェロニモ。
まずは彼ら3人組について整理します。
クラウジオ・アントネス・ブランダオン(シーズン1の主要人物):アナ・ブランダオンの息子。母親は彼を捨ててサン・ルイスからバスに乗って姿を消した。その忌まわしい母を罰したいという思いに突き動かされて、バスターミナルで拾った女性たちをレイプしては殺害。まじない師のような祖母に育てられたと当人は言っていたが、シーズン3を観る限りでは孤児院 “信仰の秩序” にいたようだ。ネルソンによれば「父親は不明」とのことだった。生物学上の父(「ひどい男」)はモンシニョール・ダヴィラかもしれない
マティアス・カルネイロ(シーズン2の主要人物):家族はおらず、クラウジオと同じで孤児院 “信仰の秩序” にいたようだ。信仰の師モンシニョール・ダヴィラのビジネスモデルに倣い、孤児院 “聖人の家” を通して国際的な人身売買を行う。警察、連邦警察、闇業者ともつながりが深い。最初の妻はジュディチ。彼女との間に生まれたジゼルが次の妻。ジゼルとの間に生まれたアンジェラを三番目の妻にしようとした
ジェロニモ・ソアレス(シーズン3の主要人物):牧場で馬の交配をして競売にかけるのが表の稼業。女性たちを競売にかけ、子どもたちを売るのが闇の稼業。ヴェロニカとは肉体関係をもったが、その他の女性たちは人工的に妊娠させていたようだ。母ディアナとの関係は謎(ディアナの卵子を使って何かしているっぽかったが)
この3人の男たちの血がつながっているのか否かが不明確でした。クラウジオとジェロニモは父親が同じである可能性があります。ディアナはマティアスを「家族」、彼の妻ジゼルはジェロニモを「親戚」と言っていたので、マティアスとも血のつながりがあるのかもしれません。
そして若かった頃、この3人組は男色(?)に耽っていたようなことも言っていました。
同じ両親をもつ兄弟なのか(違うと思いますが)、異母兄弟なのか、孤児院で共に暮らした仲間(血のつながりなし)なのか、孤児院に入る以前からの不良仲間なのか。『 “聖コスマス” と “聖ダミアヌス”と彼らの弟 “ドウム” で1セット』を匂わせた以上、シーズン1~3をトータルで理解するためにも3人の関係性と役割をはっきりさせてほしかったです。
マティアスだけは信仰治療を行っていたものの、ほかのふたりは病気や怪我を癒すことができないみたいですし、どの人物をとっても聖人ではないのが痛いところです。「“聖コスマス” と “聖ダミアヌス” とか言われましても」です。
クラウジオとマティアスは “カベサの聖母像” のなかに写真を入れていました。前者は母親と赤ん坊の顔を消した写真、後者は最初の妻と娘(二番目の妻)とマティアスの3人で写った写真。消したい過去を入れておくと何かご利益があるのかもしれません。その辺りの疑問も解消されることはありませんでした。
作中で「ブランダオンは “彼ら” の重要人物」という表現がありました。仮に重要人物だったとして、どのような理由で、どんな場合に有用なのかはわからずじまいです。巨悪にとっての厄介事や面倒な人物を潰すことに力を発揮した程度で、大きな国際的組織においてクラウジオが主導権を握っているようには見えなかったし、世界の人身売買流通を仕切っている闇社会のボスがジェロニモというのも信じられません。
「長官」はジェロニモを “神” と表現していました。しかしヨガが日課のロン毛の男に “神” のような存在感や影響力は感じられませんでした。“神” のように崇められ畏れられているならば、身近に腹心や右腕としてお仕えする者がひとりやふたりいそうなものです。しかし奴隷のように扱われている女性たちはいても、ジェロニモのブレーンや金庫番のような人物はまったく見当たりませんでした(彼を溺愛する母親とふたりで家内制手工業みたいなことをしている)。
ジェロニモを演じているロドリゴ・サントロはブラジルを代表する美男だったはず。久しぶりに見ると額の面積がさらに拡大しており、眼がひし形で輝きがなく「こんな人だったからしら」と思いました。
2人の女たち
3人の男たちのほうが圧倒的に不気味ですが、女性たちも奇妙です。求めている幸せの姿がよくわかりません。
アニータ・ベルリンゲル(シーズン2まで):元非行少女。孤児院 “コスマス&ダミアヌス” 出身。そこで訓練されて警察組織に送り込まれた。アニータとクラウジオとマティアスは若い頃からの知り合い(写真に一緒に写っている)。しかし男ふたりが暮らしていたのは孤児院 “信仰の秩序” であるようなので、どの時点で接点が生まれたのかは謎のまま。かつてはマティアスを愛していたらしい
ディアナ・ソアレス:孤児院 “信仰の秩序” にいた彼女はモンシニョール・ダヴィラの子どもを何人も産んだ。そのうちジェロニモだけを手元に残した。かなりいい歳のおばちゃんだが、妊娠したくてマティアスと性的交渉をもつ。彼女が妊娠しているか、ジェロニモが定期的に検査しているふうだったので精子提供者がいるのだろう。それがジェロニモだったのかどうか、詳細は不明
ディアナが上半身裸で息子ジェロニモのところへ歩いてくるシーンがあります。あれはボディダブルを使っているのでは。顔や手のシワシワ加減に対して身体のハリがアンバランスです。
彼らのDNAの価値とは
モンシニョールを頂点とした宗教組織において、彼の子どもを産み続けたディアナ。その血筋やDNAを子どもたちの作出によって継承することがディアナや息子ジェロニモにとって非常に重要らしいのですが、その価値や意味がまるでわかりません。彼らのDNAを残さないほうが「世のため人のため」ではないでしょうか。
政治、ビジネス、警察、軍部、法律の世界に血族や特別な絆で結ばれた人物を送り込むことで、最終的に世界を支配しようとするのは宗教組織や秘密結社がよく考えることです。ジェロニモとディアナも同様だったのかもしれません。
しかし彼らが国際的な闇社会を裏側から操っているとは思えません。どの人物も才覚やクレーバーさに欠けている印象です。大物らしさも感じられません。
気分のよい終わり方はするけれど
ヴェロニカは虐待を受けてきた女性たちを従えて立ち上がります。最終段階では任侠的世界が繰り広げられます。女性や子どもを虐待、売買してきた関係者たちに裁きを下します。スカッとはしますがマンガちっくです。大なたを振るい過ぎて、軸足を置く現実から離れてしまった感がありました。
トータルでみるとシーズン3は私には今ひとつでした。シーズン2までのほうが面白かったです。よくよく考えてみると「グッドモーニング、ヴェロニカ」とは、ヴェロニカが裏社会のボスとして覚醒するまでの物語だったのかもしれません。だとしたら “グッドモーニング” という表現が腑に落ちます。