1920年代チェコスロバキアが舞台の警察ドラマ「プラハのミステリー」

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原題は “Zlociny Velké Prahy” で Google 翻訳では「犯罪の敷居が高い」と訳され、IMDbでは「ズロチニー・ヴェルケー・プラヒ」と表記されます(“難事件” という意味でしょうか?)。チェコテレビ提供作品というところが旧社会主義圏テイストを醸し出しています。

時代設定は1920年代。今で言うチェコの歴史は次のようです。世界史に疎い私による解説なので確実なところは自分で調べてください。

  • 第一次世界大戦の敗北によりハプスブルク家統治時代が1918年に終わり、チェコとスロバキアがひとつになってチェコスロバキア共和国時代が始まる。なかでも1920年代は第一共和国の時期に当たる
  • チェコスロヴァキア共和国の首都はプラハ。1922年に37の自治体が統合されている。「プラハのミステリー」冒頭で “新プラハ” と “旧プラハ” という表現が出てくるが、従来のプラハへの合併により “プラハ” と称されるエリアが拡大したということであろう
  • 当時のチェコスロバキア共和国では民主主義政治が行われていた。ドイツ系住民が300万人を超えていたことからナチスドイツに付け込まれ、後の1938年9月のミュンヘン会談でズデーテン地方をドイツに割譲することになる。その周辺を取り上げた映画はコチラ(↓)。「プラハのミステリー」を視聴するにあたっては “国内ドイツ人” の立ち位置が念頭にあれば問題はない
国家レベルの駆け引きを背景に人ができることとは-映画「ミュンヘン:戦火燃ゆる前に」
ロバート・ハリスの小説を実写化したサスペンス。史実である1938年のミュンヘン会談を舞台に、かつてオックスフォード大学で共に学んだヒュー(チェンバレン首相の私設秘書)とポール(ドイツの外交官)が極秘に協定締結阻止へと奔走する映画です。

1920年代という時代設定にしたのはなぜ?

チェコとスロバキアがひとつになり、チェコスロバキア共和国となって何年か経った時期がドラマの舞台です。

共和国となる前はハプスブルク家統治の連邦国家オーストリア=ハンガリー帝国。多民族からなり複数の王国や公爵領によって構成されていました。チェコスロバキア共和国となったことにより、社会体制や肩書、ヒエラルキーも変わりました。それまでの社会に慣れている元貴族階級で主人公のブディク警部や彼の一家は違和感を抱いていますが、その変化を受け入れざるを得ません。

恐らくチェコやスロバキア界隈の人たちにしかわからない時代感覚、価値観の変遷があり、このドラマには「1920年代ならではの何か」があるのだろうと思います。チェコと日本の人では理解の土壌が異なるのではないでしょうか。

警部ブディクとその家族

物語の冒頭で警部補ブディクは、警部に昇進することを告げられます。“旧プラハ” の人間であることに誇りをもっているブティクは意に反して “新プラハ” を任されることになります。

“旧プラハ” は都会の象徴、“新プラハ” は文化的とはいえない田舎と見なされています。

ブディックは “旧プラハ” 出身で女好きの助平で、アンダーグラウンドな世界をよく知っているハブリク刑事を部下に選びます。新人のノバセクもメンバーに加わります。

トマーシュ・マサリク大統領が爵位の称号を廃止したことにより、プディクの妻(伯爵夫人)はチャコリー家の称号を失います。妻は気の強い高慢な女性であり、夫が “新プラハ” 担当になったことに憤ります。元貴族としてのプライドが許さないのです。

ブディクには娘がふたりおり、長女アルズベタは伯爵夫人の連れ子です。長女は自分をチャコリー家の人間と位置付けており「ただの警察勤め」のブディクを父と認めていません。鼻につく高慢さが母親そっくりです。次女のジュリーは素直な性格でブディクに懐いています。

鼻がピノキオ並みに高い一家は物語が進むにつれ、普通の人たちになっていきます。

次女ジュリーは父の部下ノバセクと恋に落ちます。しかし父ブディクに打ち明ける機会がなかなか訪れず、秘密のままで時が過ぎていきます。

1920年代プラハの不思議

1920年代と言えば第一次世界大戦が終わった後、かつ第二次世界大戦が始まる前。今から100年も前ですから馬車が通りを行き来し、数少ないクラッシックカーにも趣きがあります。

プラハは昔から美しい街であり、建造物やインテリアもしかり。20世紀初頭ということで何かと古臭い生活文化、価値観なのかなと思いきや…。

ブディック警部の部下ノバセクは最初こそ電報で呼び出されていましたが、それ以降の彼の部屋には電話が置かれていました。急な呼び出しの多い職業とはいえ、日本の個人宅に電話が浸透したのが第二次大戦後ずっと経ってからだと思うとチェコスロバキアは非常に早いですよね。もちろんブディック警部の家にも電話があります。

ノバセクと、ブディクの次女ジュリーの間には婚前交渉があります。女好きのハブリク刑事は売春婦トニを気に入って、身寄りのいない彼の姪の面倒をみさせるため求婚します。しかし彼女は自分の職業を気に入っているのか、男性に対して期待がないのか、売春婦を辞めるつもりがありません。印象としては “性的交渉に厳格な社会” ではないようです。女性が慎ましやかという感じでもないんですね。

1910年時点まで国民の9割以上がカトリック教徒。現在はキリスト教徒(宗派を限定せず)は14%にまで減少し、チェコは世界で最も宗教人口の少ない国家のひとつだそうです。私はキリスト教徒ではないので詳しくないのですが「カトリック教会は婚前交渉を禁じている」と書かれています。プロテスタントも婚前交渉を “姦淫の罪” と位置付けています。

しかし今の世界に目をやれば、結婚を前提としない性交渉はキリスト教徒にも浸透しており、1920年代のほうが性的倫理が “多少厳しかった” 程度の違いなのかもしれません。聖書を紐解いてもキリスト教が娼婦に対して差別・偏見の眼差しをもっていたとは言い切れず、イエスは「むしろ娼婦などの蔑視される職業の者のほうが先に神の国に入る」と言っています。キリスト教社会においても売春/買春行為は “必要悪” とみなされてきた歴史があります。

一方で他人の妻や夫との密通については旧約聖書で厳しく禁じられていて、それは他者の所有財産(妻や夫)を侵害する行為だからのようです。道徳が理由でないのなら、所有の権利関係を侵害しない限りにおいて男女間の性行為は自由ということになります。

このドラマに関しては不義密通が事件に絡むケースが散見されます。宗教が関係するものもありますが、チェコスロバキアの民衆にとってキリスト教の教えがどの程度重みのある指針だったのか、よくわかりませんでした。何かにつけ神に祈る一方で、不徳なこともたくさんしています(人間とはそういう生き物なのでしょう)。

本作の面白さとは

全10エピソードからなり、一話完結です。

1920年当時のチェコスロバキア共和国の生活や文化をベースにしていて、異邦人にとってもノスタルジックで牧歌的な面があります。生活様式(生活用品や道具、農場や肉屋などの仕事場)を疑似体験できます。ブディック警部の就寝時の “髭マスク” みたいなものも新鮮です。最初は何なのかわからなかったのですが、恐らく髭に寝ぐせが付かないようにするアイテムなのではないかと(確証はありません)。

農場がよく出てきます。それ以外にも教師、芸術家、発明家、商店主、職人など多様な職業の人たちが登場します。“新プラハ(ブディク警部)“ と ” 旧プラハ(ブラウン警部)” の交流も若干あります。

エピソードの後半でひっくり返り、見込みとは異なる真犯人にたどり着くパターンが多いのですが、後半のどんでん返しを待つまでもなく、なぜか直感で「この人が犯人」とわかってしまうケースがいくつかありました。

それでも、このドラマに関しては視聴が頓挫しませんでした。前半は当時のプラハの生活文化や犯罪の特異性に関心が引きつけられました。後半のエピソードには前半にない要素が付加されており、さらに何捻りかを加えているので、すぐに犯人がわかることは減ります。ブディック警部一家の問題も浮上します。刑事ものとしてドラマティックな作品ではありませんが、1920年代チェコスロバキアの暮らしには現代人が思うような緩急や起伏なんぞなかったのですよ、きっと。

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