“アーティスト”がハマった偽札ビジネス-インドのドラマ「フェイク」

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インドの犯罪ドラマ「フェイク」(原題:Farzi)。1エピソード1時間前後で8エピソードあります。

「ハズレだったら時間の無駄」と思いつつ視聴スタート。しかし、とっても面白いドラマでした。それほどたくさんのインド映画&ドラマを観てきていませんが、インド的大袈裟さ、意味不明のダンスもありません。

貧しい無名の “アーティスト” サニーと幼馴染のフィロズが、祖父の新聞社の借金を返すために偽札づくりを始めるところからスタートするコメディタッチの犯罪ものです。

当初は急場をしのぐための時限的な地下ビジネスのつもりだったのに、思わぬところで傑出した才能を発揮してしまいます。偽札ビジネスを通じて貧しい人生に別れを告げて承認欲求を満たし、事業拡大によって自己実現を図っていくところが、アメリカの傑作ドラマ「ブレイキング・バッド」と若干似ています。

サニーとフィロズが偽札づくりを目論むまで

インドのムンバイ。模写を得意とする “アーティスト” のサニー。彼の祖父は記事でインドの人々を啓蒙したい、世の中に革命を起こしたいと考えており、“クランティ・マガジン” という紙のメディアを長年に亘って主宰してきました。

“クランティ・マガジン” の印刷所でサニーと幼い頃からの友人フィロズは働いています。かつてのフィロズは身寄りのない少年で、サニーと兄弟のように育ちました。ふたりは子どもの頃から、祖父の新聞を路上で販売する等の手助けをしてきました。

サニーは祖父から絵画を習い、フィロズは叔父から印刷技術を学びました。成長して青年になっても、彼らが経済的に恵まれないことに変わりはありません。サニーにはアナニャというお金持ちのガールフレンドがいましたが、サニーを真剣な交際相手とみなしていませんでした。

そんなとき “クランティ・マガジン” に借金の厳しい取り立てがやってきて、祖父は新聞社を手放すことを決意。 サニーとフィロズは金策に奔走します。しかし必要な金額に届きません。模写を得意とするサニーが絵を描き、フィロズが印刷を担当することで偽札を作ることにします。

試しに街の買い物で使用してみると、すぐに偽札と見破られてしまいました。彼らは試行錯誤を重ねます。彼らの計画と偽札の完成度の高さを知った叔父もしばらくの間、彼らに協力します。

偽造通貨の首領マンスール vs 分析調査チーム

インドにおける偽札ビジネスの首領マンスール・ダラルが、側近シェド・ビラルらを伴ってネパールのカトマンズへやってきます。マンスールはヨルダンを拠点としています。

マイケルやシェカールたちによって組織されたインド警察チームは、マンスールらの滞在するホテルを不意打ちで捜索します。そこで偽札の束を発見。中東で製造された偽札がネパールで梱包され、その後インドに持ち込まれるという流れが確認されました。刑事マイケルとに偽造通貨の首領マンスールは以前から仇敵の間柄。

しかしネパールを舞台にしたインド警察の計画は失敗に終わります。必ずやマンスールを逮捕せんと執念を燃やすマイケル。不祥事もみ消しに協力してきたことなどをネタに駆け引きし、ガーロット財務大臣の手回しで、専門チーム(偽造通貨詐欺分析調査チームCCFART)を結成してマンスールを追い詰めようとします

RBIの研究チームにいた偽造印刷防止の専門家メガがCCFARTに加わります。RBIとは、調べた限りではインドの中央銀行であるインド準備銀行と思われます。インドの日銀みたいな存在です。

RBI在籍当時、彼女は偽札をチェックするスキャンシステムCT600の開発に力を注いでおり、それがガーロット財務大臣のプレゼンテーションによって「ダンラクシャク」としてインド各地に配備されました。各地の「ダンラクシャク」が偽札を弾くとCCFARTの中央システムに情報が集約される仕組みです。

首領マンスールと手を組む “アーティスト”

高性能スキャンシステム「ダンラクシャク」の普及によって、マンスールらの製造した偽札が各地で摘発されることが増えました。マンスールは機械に弾かれない偽札を作ることのできる唯一の存在、無名の “アーティスト” を見つけ出して製造を任せることを考えます。

祖父に咎められて以降、偽札づくりから遠ざかっていたサニーとフィロズでしたが、ヨルダンにいるマンスールに最高の作業場と印刷機を提供され、大きな成功を目論みます。偽札は市中に流通しなければ意味がありません。製造した偽札をいかに安全にインドまで運ぶかが課題でした。

対するCCFARTも、マンスールらの密輸ルートを把握しようと必死です。マンスールの部下であり、偽札の流通を担当するビラルがバングラデシュに潜伏しているという情報を得た刑事マイケル。強引な手段を行使して仲間のシェカールとともにバングラデシュに乗り込み、ビラルから情報を得ようとします。

インド警察の内部情報を得ようと、首領マンスールも刑事マイケルが率いるCCFARTに接近するようサニーに指示します。マンスールは組織のトップですが、彼に指示を出しているさらに上位の組織が存在しています。

犯罪を通した自己実現、承認欲求の充足の果てにあるのは?

冒頭にも書きました通り、このドラマは「ブレイキング・バッド(以下BB)」と少しだけ似ています。

BBのウォルター・ホワイトが非合法なメス製造に関わるようになったのは、末期ガンの自分の治療費と家族に残すまとまった資金を稼ぐためでした。

したがって十分なお金を手にした時点で、危険なビジネスから撤退することもできたはず。しかしメス製造において彼の右に出る者はおらず、秘密のヴェールで覆われた謎の人物 “ハイゼンベルク” として麻薬ビジネスにおける影響力を増していくことに深い喜びを感じるようになっていくウォルター・ホワイト。優秀な科学者でありながら高校の化学教師の仕事に甘んじてきた自分、世界的な研究や発見ができただろうにチャンスに恵まれなかった自分が、過去の落とし前を付けるかのように麻薬ビジネスに執着します。

ドラマ「フェイク」のサニーも同様です。祖父の会社の借金返済に必要な金額、従業員に支払う給料、祖父の病気の治療費、自分の生活をグレードアップできるだけの資金を得られた時点での撤退も可能でした。しかしサニーは偽札ビジネスを続けることにこだわります。

素晴らしい才能がありながらも無名であり、その実力を認められてこなかったサニー。偽札ビジネスにおいては “アーティスト” と呼ばれて揺るぎないポジションを確立し、偽札発見スキャンシステム「ダンラクシャク」をパスできるのは彼の製造した偽札だけであったことが、それまでの人生で満たされることのなかった彼の内面を潤しました。

BBのウォルター・ホワイトも「フェイク」のサニーも(非合法であったとしても)ビジネスを通じて承認欲求が満たされ、それがある種の自己実現にもつながったことにより、自分の才能や頭脳やセンスが大金の獲得に直結するという、人生に二度訪れることのない最高の状態から離れがたくなるのです。

サニーとフィロズは大金を得て人生を謳歌します。祖父の新聞社の記事をネット配信する等の事業投資も行います。

彼らの到達地点はどこなのでしょうか?それはドラマを観てのお楽しみ。

最後まで目が離せない、かなり面白いドラマですよ。Amazon Original です。

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