ハーヴェイ・ワインスタイン事件に関する調査報道を描いた映画。ニューヨーク・タイムズ紙のジョディ・カンター/ミーガン・トゥーイーによる「その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い」をベースにしています。
ニューヨーク・タイムズ紙は、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーの功績により2018年のピューリッツァー賞(公共サービス賞)を受賞しています。
「こんな作品」というのを簡単に
ハーヴェイ・ワインスタイン事件は非常に有名であるため、詳しい解説は必要ないでしょう。ゆえにざっくりと。
●ハーヴェイ・ワインスタインはアメリカの大御所映画プロデューサーで、多くの有名作品、名作のプロデュースを手掛けてきた(私の好きな作品もたくさん含まれている)
●彼は自分の立場と影響力を利用して、数十年に亘り、スタッフ・女優たちに性暴力を働いてきた。それらの事実を隠匿するための工作や示談交渉も行っていた
●2017年10月、ニューヨーク・タイムズ紙によって性暴力の事実が報道される
●ワインスタインは起訴され、2022年にニューヨークの裁判所で禁錮23年、2023年にロサンゼルスの裁判所でプラス禁錮16年の判決を受ける。実質的に終身刑に等しい
●本件に粘り強く取り組んだニューヨーク・タイムズ紙の調査報道記者がジョディ・カンターとミーガン・トゥーイー 👈 映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」では、彼女たちの必死の取り組みと被害者たちの苦悩、ワインスタイン周辺の動きを中心に報道や告発までの流れを描いている
●一連の報道と被害者による告発が契機となり、性暴力被害者による「#MeToo運動」へと発展していった
補足1)映画は2016年、ドナルド・トランプの性的加害の告発を被害者女性が決意するシーンから始まる。大統領選前の10月頃、映画で名前の挙がった女性たちは個別に声を上げた
補足2)2017年4月、ニュース司会者のビル・オライリーがセクハラ疑惑によってFOXニュースを降板。ニューヨーク・タイムズ紙はセクシャルハラスメントを大きなテーマと見なし、ワインスタインのセクハラに言及した女優ローズ・マッゴーワンのツイートに着目する
ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーというふたりの記者が “家庭をもつ女性” というのもポイント。2児の母であるジョディーが出産後で鬱気味のミーガンに取材の助言を求めたところから、ふたりに協力関係が生まれます。当初ハリウッドのセクハラ事件を調べていたのはジョディ。一方のミーガンはトランプやオライリーのケースを追っていました。
加害者も被害者も実名で登場します(当人の場合と当人役の場合がある)。
過去の示談交渉による契約が障害となり被害を口外できない人たちが多く、公に報道できる段階に至るまでにはいくつもの困難がありました。被害者たちは女性ですから、ふたりの調査報道記者が同じ女性として痛みに寄り添えたことは告発までの道のりの大きな後押しになったことでしょう。
私が興味をもった出演者
これまでに視聴した映画やドラマとの関連で「おおっ」と思った人たちを紹介します。
キャリー・マリガン(ミーガン・トゥーイー役):イギリスの女優。「プロミシング・ヤング・ウーマン」でキャシーを演じていたあの人。年月を経て、今はこんな感じの人なんだと感慨に耽った
ゾーイ・カザン(ジョディ・カンター役):アメリカの女優。パートナーがポール・ダノという点に興味をもった。彼と顔がとても似ている気がしてならない
アンドレ・ブラウガー(ディーン・バケット役):アメリカの俳優。2023年12月11日に61歳で逝去。本作が最後に出演した映画となった
サマンサ・モートン(ゼルダ・パーキンズ役):イギリスの女優。「コントロール」で女子高生を演じていた彼女も中年になっていた。彼女には壮絶な生い立ちがある。親に扶養する能力がなく、定住する住まいがなかった時期がある。児童養護施設では問題を起こして有罪になった。そういった背景が彼女の演技に説得力を与えている気がする
視聴後の雑感
日本でも芸能界におけるセクシャルハラスメント、性暴力問題が明るみに出てきています。加害者とされる人たちを見ると顔つきにイヤなものを感じます。ハーヴェイ・ワインスタインも同様です。
人間って内側の輝きによって美しくなるのは大変難しく、醜くなるのは非常に簡単で際限がありません。財力や権力があると、それにあやかりたい人たちが群がるため、一目瞭然の醜く傲慢な顔つきを威厳や存在感と錯覚するのでしょう。日本の政治家も顔つきの卑しい人たちが多いですね。お亡くなりになった後の行先が透けて見えるようです。
映画のレビューを見ると日本のマスコミやジャーナリズムの職務怠慢を嘆く声が大きいように感じました。まさにその通りと思いますが、このところの政界の動きなどを見ても日本の政治家は罪を罰せられることがなく、日本が法治国家でないことがわかります。そういった国で今後どのように生きていくのがよいのだろうか、そんなことを考えます。
ワインスタインと彼の弁護士は本作の公開について、陪審員に不利な偏見を与えると主張。裁判開始日を遅らせようとしました。ロサンゼルス高等裁判所はその請求を却下しています(そして判決は禁錮16年の加算)。天は改心する機会を常に与えてくれていますが、つくづく人間とは変われない生き物なのだと思います。