シーズン1「泥の沼」(1984年)、シーズン2「泥の沼’97」(1997年)、シーズン3「泥の沼 ミレニアム」(1999年)からなるポーランドのドラマ「泥の沼」シリーズ。
シーズン1を観ていなくてもシーズン2は楽しめますが、シーズン3を観るとシーズン1・2を合わせての集大成になっていることに気付かされます(ブラジルのドラマ「グッドモーニング、ヴェロニカ」も、この感じを見習ってほしかったです)。
いずれのシーズンも5~6エピソードにまとめられています。冗長にならず、よい感じ。IMDbのスコアを見ると本日現在で7.0と個人的には過小評価だと思います。
シーズン3についてのみの情報を求めている方は前半を飛ばして「シーズン3の導入部あらすじ」と「シーズン3の登場人物」をご覧ください。
シーズン3から見たシーズン1・2とのつながり
シーズン3からシーズン1・2を眺めると「シーズン1(あるいは2)のあの人だったんだ」とか「“ここ” と “ここ” がつながっていたんだ」とかの発見があります。そういった観点から各シーズンをまとめました。既に通しで視聴済みの人向けです。
シーズン1(1984年が舞台)
登場人物
<夕刊クーリエ紙編集部>
- ズビシェク・ブリンスキー:編集長
- ウィトールド(ウィテク)・ヴァニッツ:退職予定の記者。西ドイツへ行く準備をしている
- ピォトル・ザジツキ:ウィテクの後任として入社した新人記者
<その他の登場人物>
- 全シーズンに登場する人
- ナディア:“HOTEL CENTRUM” のバーにいる娼婦。ウィテクとは娼婦と客を超えたつながりがある
- アーシア・ドレヴィッツ:ウィテクの元同僚カジク・ドレヴィッツの次女。ユスティナの妹
- “HOTEL CENTRUM” の支配人:シーズン1では名前が明らかにされていない。ウィテクとの個人的な交流が深く、頼まれて口利きや仲介をしている
- 登場は実質シーズン2までだがシーズン3に影響を与える人
- テレサ・ザジツキ:ピォトルの妻。妊娠中(シーズン2によると出来婚らしい)
- シーズン3で重要度が増す人
- キンガ・マトウィンスカ:ユスティナを虐めていた女子生徒のひとり
- “HOTEL CENTRUM” のポン引き:大抵バーにいるが名前は不明
- ドナータ・アレクサンドラ・ムジンスカ:ペウェックス輸入品店の女主人
ストーリー
<シーズン1のポイント>
- “グロンティの森” でポーランド社会主義青年組合の議長ズビグニエフ・グロホヴィヤク、22歳の娼婦リトカが喉を切られた死体で発見される
- 青年カロルとユスティナ(クーリエ紙の元記者カジク・ドレヴィッツの長女)が飛び降り自殺する
- 記者ウィテク・ヴァニッツはドイツにいるプニエフスキから “MODERNE DEUTSCHE MALEREI” というエルサ・ケプケの画集を受け取る
- ピォトルは妊娠中の妻テレサとの関係が上手くいっていない。青年組合議長の妻ヘレナと浮気する
- ヘレナは1962年当時、スポーツセンター水泳部門に所属(シーズン3のおおよそ同時期のシーンにもヘレナが出てくる)。後年、ユスティナやキンガも水泳のクラスに通っていた
<シーズン1の終わり方>
- ピォトル・ザジツキ:クーリエ紙を退職してワルシャワへ行く
- ウィトールド(ウィテク)・ヴァニッツ:西ドイツへ出発しようとしている
シーズン2(1997年が舞台)
登場人物
<夕刊クーリエ紙編集部>
- ズビシェク・ブリンスキー:引退間近の編集長
- ピォトル・ザジツキ:後任の編集長。ワルシャワから戻ってきた。OAZA住宅に妻子と住む
- カジク・ドレヴィッツ:クーリエ紙に復帰しており、星占いなどの人畜無害なカテゴリーを担当
<警察関係者>
- アンナ・ヤス:ワルシャワから1カ月間、交換プログラムでやってきた刑事(巡査部長)
- アダム・ミカ:地元の刑事(上級巡査部長)。アンナ・ヤス刑事と協力して事件捜査にあたる。妻クリシアは市立病院の看護師
- ヤレク・マレツキー:新米警官。ミカ刑事の甥。銃撃戦で負傷し、見舞いに来たアンナ・ヤス刑事からハンドグリップを受け取る
- 署長:名前を呼ばれることがない。上位者に忖度する調子のよい男
<その他の登場人物>
- 全シーズンに登場する人
- ウィトールド(ウィテク)・ヴァニッツ:5年前に夕刊クーリエ紙を退職。今も同じ家に住み、フリーの文筆家として活動
- ナディア:美容師に転身し “HOTEL CENTRUM” 内にあるニコール美容サロンで働いている。ウィテクと暮らしている
- “HOTEL CENTRUM” の支配人:シーズン2でも名前が明らかにされない。ウィテクと個人的な交流があり、情報提供をしている
- アーシア(ヨアンナ)・ドレヴィッツ:記者カジク・ドレヴィッツの次女。アーシアはポーランド語のヨアンナ Joanna の短縮形。シーズン2では「ヨアンナ」と自己紹介している。大学で考古学を学んでいる
- 登場は実質シーズン2までだがシーズン3に影響を与える人
- テレサ・ザジツキ:ピォトルの妻。スクールカウンセラーになっている
- シーズン2・3のメインストーリーに絡む人
- ヤツェク・ドブロヴォルスキー:住宅開発を行っている OAZA のオーナー
- シーズン3で重要度が増す人
- ヴァンダ・ザジツキ:ピォトルとテレサの娘で12~3歳。両親の不仲に気づいている
- “HOTEL CENTRUM” のポン引き:名前は不明。ポン引き以外のこともしているような…
ストーリー
<シーズン2のポイント>
- タイミングとしては1997年7月の “ヴロツワフの洪水” の直後
- “グロンティの森” で少年の遺体が発見される。行方不明のダニエル・グウィット12歳であることが判明する
- ウィテク・ヴァニッツはシーズン1の後、西ドイツへは行かなかったと思われる(後任のはずだったピォトルの退職が決まったこと、ウィテクの実際の退職は5年前だったこと、再会したピォトルがドイツまでの交通費を負担すると申し出ていることから)。あんなに「いよいよ行きます」感を漂わせていたのに
- アンナ・ヤス刑事の両親はシーズン2ではチョイ役未満。シーズン3では彼らの役割が大きくなる
- ピォトルと妻テレサの間には、わだかまりが残っている
- シーズン3を観ると「この人、シーズン1・2にもいたよね」と思い当たる人物がいる。比較的重要な役回りだったのかもしれないが、あまり注目されることのない自然な描写になっているところがすごいと思う
<シーズン2の終わり方>
- ピォトル・ザジツキ:妻テレサがアンナ・ヤス刑事と恋に落ちて彼のもとを去る。娘ヴァンダもテレサ&アンナのもとに。青年組合議長の妻ヘレナがピォトルの子どもを産んでいたが、ピォトルは自分に婚外子があることを知らない
- ウィトールド(ウィテク)・ヴァニッツ:ナディアに借金したのにやっぱりドイツへ行かない。シーズン2においてもピォトルが阻害要因になったと思う
シーズン3(1999年が舞台)
登場人物
<夕刊クーリエ紙編集部>
- ピォトル・ザジツキ:編集長だが休職中の模様(「そういうのってアリなんだ」と思った)。娘ヴァンダと暮らしている
<警察関係者>
- アンナ・ヤス:国家警察の巡査部長。おとり捜査中に怪我をしてアダム・ミカ刑事と再会する
- アダム・ミカ:リタイヤを迎えた刑事。アンナ・ヤス刑事と再び協力して事件捜査にあたる
- ヤレク・マレツキー:巡査部長に昇進している。シーズン2では “ペーペー感” が強かったがイケメンになっていた。シーズン2においてアンナ・ヤス刑事から贈られたハンドグリップで握力を鍛えている
- グルビ:アダム・ミカ刑事の後任予定者。太った刑事で “グルビ” はニックネーム
- 署長:相変わらず深みのない男。アダム・ミカ刑事の懇願により1999年12月まで捜査に関わることを許可する
<その他の登場人物>
- 全シーズンに登場する人
- ウィトールド(ウィテク)・ヴァニッツ:フリーの文筆家。表に出ない生活を送っている
- ナディア:“HOTEL CENTRUM” 内にあるニコール美容サロンで働いている。ウィテクと暮らしている。裏社会新勢力のマリアン・ハニスの手下ロールにみかじめ料を要求される。マリアン・ハニスとはザンクトパウリ(ドイツ・ハンブルグの地名)時代の知り合い ※ 「ザンクトパウリってどんなところ?」と思った方向けのドイツのドラマ「ルーデン~歓楽街の王者~」
- “HOTEL CENTRUM” の支配人:ウィテクと個人的な交流があり、重要な手紙を渡そうとする。コチョレク(コチョル)という名であることが判明。“HOTEL CENTRUM” 建設前は “HOTEL CENTRAL” で密かに売春を斡旋していた。フィリップという息子がいる
- アーシア(ヨアンナ)・ドレヴィッツ:ピォトルの新しいパートナー。“グロンティの森” の発掘調査に携わっている
- 回想シーンでシーズン3に影響を与える人
- テレサ:アンナ・ヤス刑事のパートナー。自動車事故により死去
- シーズン2・3に絡む人
- ヤツェク・ドブロヴォルスキー:マリアン・ハニスに拾われ “HOTEL CENTRUM” の新支配人として働く。支配人といっても傀儡である
- シーズン3で重要度が増す人
- ヴァンダ・ザジツキ:ピォトルとテレサの娘で15歳になっている。アンナ・ヤス刑事を慕っている
- キンガ・マトウィンスカ:新検事レシニヤクの補佐官
- ステファン・ヤシエイ:アンナ・ヤス刑事の父でロマ人。貧しい暮らしからのし上がった人物で裏社会にも顔が利く
ストーリー
<シーズン3のポイント>
- 物語は1999年11月から始まる
- “グロンティの森” で銃殺された女性の遺体とペンダントが発見される
- 国際的な人身売買組織が少女たちを拉致・輸送していることがわかる
- 殺された “HOTEL CENTRUM” の支配人コチョレクは1964年頃、スポーツセンターの指導員グロフ(ズビグニェフ・グロホヴィアク)と組んで少女たちに “HOTEL CENTRAL” で売春させていた。そのなかで水泳の有力選手だったヘレナは後年グロフと結婚。その20年後であるシーズン1(1984年)で夫グロフが殺されるという展開になっている
- アンナ・ヤス刑事の父ステファン・ヤスエイは死んだ支配人の息子フィリップを捜している。フィリップ探しに協力してもらう交換条件として、大事な手紙を捜し出すことをウィテクに提案する
<シーズン3の終わり方>
- ピォトル・ザジツキ:ヴァンダが見つかってよかったですね、という感じ
- ウィトールド(ウィテク)・ヴァニッツ:ようやくドイツへ行くことができた
シーズン3の導入部あらすじ
アンナ・ヤス刑事は国家警察の巡査部長。密輸業者に対するおとり捜査中に怪我をします。搬送された先がアダム・ミカ刑事の妻クリシアが勤務する市民病院でした。ふたりの刑事は2年ぶりに再会します。
その頃、アダム・ミカ刑事はリタイアにあたり、人身売買の網から命からがら逃げ出してきたらしいロマの少女の事件を解決しておきたいと考えていました。少女は市民病院に収容されていますが、ロマ語話者であるため、警察が事情聴取しようとしてもコミュニケーションがうまく取れません。アンナ・ヤス刑事がロマ語で手助けします。
一方 “HOTEL CENTRUM” の支配人は、自分の誕生日パーティーに長年の付き合いがあるウィトールド(ウィテク)・ヴァニッツを招きます。そこでウィテクは長い間待ちわびていた手紙を支配人から受け取る予定でした。彼がウィテクに手紙を渡そうと思ったのは、ある事件が明るみに出ようとしていたタイミングだったためと考えられます。しかし支配人は殺害され、ウィテクは手紙を受け取ることができませんでした。なかば隠遁生活を送っていたクーリエ紙の元記者は、現編集長のピォトル・ザジツキと2年ぶりにパーティー会場で再会します。
ピォトルは新しいパートナーであるヨアンナとの新生活を考えていました。しかし娘のヴァンダには受け入れがたいものがあったようです。彼女は学校の宿泊行事の最中に姿を消します。担当刑事はグルビでしたが、アダム・ミカ刑事はヴァンダの第二の母アンナ・ヤス刑事とともに捜査にあたります。父であるピォトルも自分なりのやり方で娘を探し出そうとします。以前のシーズンでもそうでしたが、彼は思い立つとかなり無謀な手段を採ります。
“グロンティの森” では銃殺された女性の遺体とペンダントが発見され、戦後(1960年代)の死体であるにも関わらず、検察官たちによって戦前の死体として処理されようとしています。
シーズン3の登場人物
シーズン1・2で既に登場している人物を除きます(一部例外あり)。
[裏社会の新勢力]
マリアン・ハニス:かつては “HOTEL CENTRUM” で働いていた。西ドイツへ行き、売春宿を成功させる。ポーランドへ戻ってからはレストラン、ケバブ屋経営等の表稼業も行っているが、売春組織を率いており “HOTEL CENTRUM” から娼婦を多く引き抜いた
ロール:マリアン・ハニスの手下。副業あり
トラバント:マリアン・ハニスの手下
[人身売買組織関係者]
マリア・ツェルニャフスカ:ウクライナ出身の少女。組織に監禁され、性的暴行を受けるが脱出。グロンティの住宅地付近で保護される
バシア:人身売買される予定で組織に監禁されていた少女
“MIG17”:女性たちを拉致し、国境を越えて輸送している
“チェコの王”:組織の重要人物
[ヴァンダ・ザジツキの関係者]
キトカ・ハニス:ヴァンダとはバレーボールチームの仲間。マリアン・ハニスの娘
[“HOTEL CENTRUM” 支配人コチョレクの関係者]
ヴィオレッタ:コチョレクの妻。フィリップの母。旧姓はヴァシャク
ムシュカ:コチョレクの指示で “HOTEL CENTRAL” で売春していた。ヴィオレッタが去った後はコチョレクの実質的な妻だった
ドイツ人男性:コチョレクを通じて “HOTEL CENTRAL” で買春。ウィテクへの手紙をドイツの知人から預かっていた
アンナ・ヤス刑事の母:名前は明らかにされていない。元水泳選手。アンナが少女の頃はオリンピック委員会に籍を置いていた。 “HOTEL CENTRAL” に宿泊していたアンナの両親はコチョレク夫妻と顔見知り以上の間柄だった。回想シーンに出てくるが1999年時点では既に亡くなっている
シュスタク: “HOTEL CENTRAL” の支配人(ウエイターだったコチョレクの当時の上司)
シリーズを通しての面白さとは
“軽いもの” と “真面目なもの” があります。
テーブルに置いてあるだけの“ウゼトカ”
ポーランドの代表的なスイーツのひとつ “ウゼトカ”。ワルシャワに作られた道路を記念して1950年代に創作されました。お酒を効かせたチョコレートケーキだそうです。とてもおいしそうです。
写真を掲載できればよかったのですがフリー画像を見つけられませんでした。ご関心のある方は “ウゼトカ” で検索してください。
カフェでテーブルに供されますが、置かれているだけで食べる気配がありません。物語の展開よりも「いつになったら食べるのだろう」ということが気になります。
- シーズン1:ヘレナ・グロホヴィヤクとピォトル・ザジツキ記者
- シーズン2:アンナ・ヤス刑事とピォトル・ザジツキ編集長
- シーズン3:キンガ・マトウィンスカ補佐官とヤレク・マレツキー巡査部長
話はしているものの、注文した “ウゼトカ” を食べる人はいません。シーズン2でピォトルが指に付いたクリームを舐める程度です。
浮き彫りになっていく時を越えたつながり
シーズン3でマレッキー巡査部長が地道な努力で探し出そうとするドナータ・アレクサンドラ・ムジンスカ。実はシーズン1では輸入品店の女主人です。ウィテク・ヴァニッツの求めに応じて外貨交換をしたり、恋をしているユスティカに輸入衣料を提供したりしています。
シーズン3でステファン・ヤシエイが捜しているフィリップもシーズン1・2に登場しています。
シーズン1で夫を殺されたヘレナは過去にスポーツセンターを通じて売春させられており、殺された夫がどういう人物だったか、シーズン3から具体的にわかります。
シーズン1でユスティカを自殺に追いやった少女たちのひとりであるキンガがシーズン3では検察局の補佐官になって正義を実現しようとしたり、ユスティカの幼かった妹がクーリエ紙編集長のピォトルとパートナー関係になったり、成長や変化に気付くとドラマがますます面白くなります。
点と点がつながり、網のように編まれているので視聴する過程で物語がきちんと膨らんでいきます。過去の記憶と新たな情報がつながるためパースペクティブが精緻になっていきます。私はそういうドラマが好きです。
面白いというよりは“おまけの話”
アンナ・ヤス刑事を演じたマグダレーナ・ロジュチカは「泥の沼」シリーズの監督を務めたヤン・ホルーベックとパートナー関係にあり、ふたりの間には2人の娘がいます。
マグダレーナは過去のパートナーとの間にも女の子がいるので、3人の女の子のお母さんです。
3人目の子どもを2020年に産んでいます。出産を終えた翌2021年に「泥の沼 ’97」に出演したことになります。