原題は “The Beast in Me”。ストーリー以前に配役がツボにはまりました。「ああ、あの人がこの役なんだ!」と嬉しいサプライズの連続。
主要なところだけ挙げると、こんな感じです。「おおっ」度が高かった人から順に記しておきます。
クレア・デインズ:主人公アギー・ウィッグス役。「HOMELAND」でキャリー・マティソン役だった。歳をとって顔がますますコリコリしてきたように見える
マシュー・リス:準主人公ナイル・ジャーヴィス役。「ジ・アメリカンズ」でフィリップ・ジェニングス役だった人。同作で夫婦スパイ役を演じたケリー・ラッセル(「ザ・ディプロマット」で主演)が現在の妻。個人的に超久しぶり
ジョナサン・バンクス:ナイルの父マーティン・ウィッグス役。「ブレイキング・バッド」「ベター・コール・ソウル」でマイケル・”マイク”・エルマントラウト役だった人。当人は御年78歳ということでいよいよ本物の老人
ジュリー・アン・エメリー:マーティンの後妻ライラ・ジャーヴィス役。「ベター・コール・ソウル」のケトルマン夫人のほか「BOSCH/ボッシュ」「FARGO/ファーゴ」にも登場していた女優さん。いろんな役柄をこなす人
ティム・ギニー:リック(レッキング・ボール)役。「HOMELAND」ではスコット・ライアン(CIA特殊工作部隊の幹部)役だった
ブリタニー・スノウ:ナイルの後妻ニーナ・ジャーヴィス役。「ナイト・エージェント」(シーズン2)でピーターの先輩のアリスを演じていた(すぐに殺されてしまうのだけれど)
ウィル・ブリル:ナイルの元妻マディソンの兄弟クリストファー・イングラム役。「The OA」でスコット・ブラウン役を演じていた。それ以外にも有名作品にそれなりに登場している人
諜報もの、クライムサスペンスを好む者からしたら、おいしい演技陣の揃ったラインアップです。
あらすじ
小説家アギー・ウィッグスは郊外(ニューヨーク州 Oyster Bay Cove)に住まい、著名な最高裁女性判事ルース・ベイダー・ギンズバーグと判事アントニン・スカリアの友情について執筆しようとしていましたが、筆が進みません。アギーには元妻シェリーとの間にクーパーという息子がいました。4年前、自身の運転中にクーパーを事故で失って以来、アギーの人生は公私にわたって大きく変わったようです。
ある日、隣に妻を殺したという噂のある富豪ビジネスマンのナイル・ジャーヴィスが引っ越してきます。ナイルは暮らし方が常識的とはいえず、傲慢でいけ好かない男でしたが、地域の開発に野心を示し、アギーに関心をもって近づこうとします。ナイルには前科もちの叔父リックが仕えており、失踪した元妻マディソンの後釜としてニーナというパートナーがいました。なお、マディソンの遺体は見つかっておらず、夫のナイルは不起訴処分となっています。
ルース・ベイダー・ギンズバーグについての著作に関して一向に筆が進まないこともあり、金策に困っていたアギーはナイルの人生を本にしようと彼にもちかけます。ナイルはそれを受け入れますが、アギーの欲や弱点(お金に困っている/息子を死なせた男テディが遺書を残して姿を消した謎など)を使って、彼女をコントロールしようとします。
ナイルに気をつけるよう、突然現れて忠告したFBI特別捜査官ブライアン・アボットと情報交換を行うようになったこともあり、アギーはナイルを相手に上手く立ち回ろうとします。
FBIのブライアン・アボットもナイルを追います。ナイルの元妻マディソン、アギーの息子クーパーが死んだ自動車事故の加害者テディ、どちらも遺書を残して失踪しました。彼らは生きているのか、死んだのか。死んだとすれば遺体はどこにあるのか。小説家のアギーは核心に迫ろうとします。
登場人物
【アギー・ウィッグスの関係者】
アギー(アガサ)・ウィッグス:小説家。4年前に息子のクーパーを交通事故で亡くして以来、引きこもりがちで新作を出版していない。同性愛者。スティーヴという犬を飼っている
シェリー・モリス:アギーの元妻で絵描き
キャロル・マクギディッシュ:ブリックナー出版グループの編集者。アギーに協力的
テディ(セオドア)・フェニグ:アギーの自動車事故の相手。アギーとの間に禍根がある。ピザ屋 “ロベルトス” で働いている
ローナ・フェニグ:テディの母親
スタン/リック/リナ:近隣の住民
【ナイル・ジャーヴィスの関係者】
ナイル・ジャーヴィス:元妻マディソンを殺したという噂のあるセレブリティ。兄がいたが若くして死んだ
マディソン・ジャーヴィス:夫ナイルの不在中に失踪。捜索しても遺体の発見には至らず。ジェームズ&マライア・イングラムは彼女の両親。彼らは財団法人を運営し、複合施設 “ジャーヴィス・ヤード” 建設を資金面で支援している
ニーナ・ジャーヴィス:ナイルの現在の妻。かつてマディソンの財団法人で秘書をしていた。現在はマディソンのあとをついで美術商
マーティン・ジャーヴィス:ナイルの父で、MHJ不動産を展開する大物。アメリカ史上最大の複合施設 “ジャーヴィス・ヤード” 建設を手掛ける
ライラ・ジャーヴィス:マーティンの現在の妻
ワイアット&プレストン・ジャーヴィス:マーティンの双子の息子。ナイルの年の離れた異母弟たち
リック・ジャーヴィス:マーティンの弟で、ナイルの叔父。重犯罪の前科あり。甥であるナイルの犬の世話や、兄マーティンのための汚れ仕事などを担当している
オリヴィア・ベニテス:“ジャーヴィス・ヤード” 建設に反対するニューヨーク市議会議員。秘書官はイライジャ・ギャリティ
フィニアス・ゴールド:ニューヨーク市議会議員
エスメ・ノア/マイケル・モーガン:リスク管理を手掛けるモンゴメリーグループのコンサルタント
エリス・ボイド:イングラム家(マディソンの実家)の弁護士
エディ:汚職警官?
ジョニー・ウォリアー:不良青年のひとり
ニック・ライダー:ジャーヴィス家の顧問弁護士
ペドロ・ドミンゲス:ディベロッパー
【FBI関係者】
ブライアン・アボット:FBIニューヨーク支局の特別捜査官。ジャーヴィス事件の主任捜査官
エリカ・ブルトン:特別捜査官でブライアンの上司にあたる。ブライアンとはセフレ。建設業者の夫フランクと子ども(フェリシティ/ディラン)がいる
クリスティーナ・ムーア:特別捜査官
シモーン・セッズ:暗号解読の請負人。FBIの人間ではない
ジャック:エリカの協力者。警察関係者?
ルカ・ヨバノビッチ:特別捜査官。エリカと同位か、その上位者(少しだけ出てくる人)
感想・メモ:エピソード6の終わりから、さらに風向きが変わって秀逸
とても面白いドラマです。シリーズ前半で物語が沿う流れ&謎は以下のふたつ。
- ナイルの元妻マディソンの遺書を残しての失踪
- アギーと交通事故を起こしたテディの遺書を残しての失踪
①まずはナイルの元妻マディソンの「遺書はあるけど遺体なし事件。どういうこっちゃ」という方向に意識が向き、②「FBI特別捜査官ブライアン・アボットが追っていたジャーヴィス事件って何?」と疑問を抱いたところに、③複合施設 “ジャーヴィス・ヤード” 建設反対を翻そうというMHJ不動産の政治的+違法な工作が絡み、「ジャーヴィス家(マーティン/リック/ナイル)による主にビジネス面での野望に基づく犯罪の物語なのかな」との推測が生まれます。
しかし、そうなると “アギーと交通事故を起こしたテディの遺書を残しての失踪” がなぜ起きたのか、その必然性を説明することができません。FBIとジャーヴィス家をつなぐ内通者についての背景事情も前半を観ただけではわかりません。
エピソード6辺りまで視聴し、ジャーヴィス家のなかでもナイルが最もサイコパスであることが明白となり、一旦恐怖がピークに達したところで場面が転換、過去の出来事のあらましを含む新たな展開があります。物語(事件)の全体像を作り出すパズルピースが最後の2エピソードで揃っていくことで「一粒で二度おいしい」的な醍醐味をもたらします。
「BEAST-私のなかの獣-」とタイトルにあるように、サイコパスのナイルなりの “憎悪の体現/代行者” という道理というか苦悩が事件の背景にあったわけですが、そこはあまり深く描かれず、私自身もあまり求めていなかった部分です。
そして物語の最後に語られる「カルマは継承される」については、まさにその通りだと思います。
アギーを演じるクレア・デインズ:デビュー当時はアイドル的美しさが目立っていました。今やコリコリした筋肉質の顔、ひょっとしたらレズビアンの夫という立ち位置を表現していたのかもしれませんが、おっさんぽい姿かたちになっていました。大作「HOMELAND」で長年にわたり双極性障害のエージェント役を演じ続けたせいか、エキセントリックの混じった緊張感や不安定感の表現が上手く、観ているこちらもドキドキするし緊迫感が押し寄せてくるしで十分すぎる臨場感でした。
ナイルを演じるマシュー・リス:イカれた怖いサイコパスおじさんの演技が見事。沈黙しているときも、ただごとでない何かが内面でうごめいていることを感じさせました。ときどき見せる表情(口の開け方、眉のあげ方、首の傾げ方など)が妻の女優ケリー・ラッセルを思わせて、やはり夫婦は似てくるものなのだなと思いました。
[ロケ地]コネチカット州、ニュージャージー州
