「泥の沼’97」は以前視聴したことがあるのですが、ドラマ「グレートウォーター:ヴロツワフの大洪水」を観たことにより、ポーランドにおける1997年の大洪水と関連した物語であることが腑に落ちました。
今まで記事にしていなかった本ドラマ、実は面白いです。第二次大戦後のポーランド社会が “共産→社会主義” を経由して変化するプロセスで、“かつて収容所のあった森” に絡んで発生した事件を刑事や記者が辿っていきます。ポーランド社会の特異性も感じられて興味深いです。街並みや建物の古くささも魅力的でポーランドへ旅行したくなります。
後から製作された「泥の沼’97」を先に、その前作「泥の沼」を後に別記事にて紹介しています(↓)。
“グロンティの森” で起きた12歳の少年の溺死事件
1997年7月、“グロンティの森” で12歳の少年ダニエル・グウィットの遺体が発見されます。ワルシャワから来たアンナ・ヤス刑事と仲間のアダム・ミカ刑事、新米警官ヤレク・マレツキーが捜査にあたります。
ダニエルは洪水による溺死(事故死)と思われましたが、午前3時という少年が出歩かない時間帯に死亡したとみられ、不審な点が残ります。警察や報道記者が捜査や取材を進めるうちに “グロンティの森” の堤防は自然に決壊したのではなく、人為的に破壊されたのではないかと疑い始めます。
“ラプトル” という謎の人物の存在、少年が不相応な大金をもっていたことも引っかかります。少年は母親とふたりで暮らしており、父は宗教団体の施設で生活。母は既に教団を抜けていたようです。
一方で、夕刊クーリエ新聞社は新しい編集長を迎えます。ピォトル・ザジツキです。かつてクーリエ紙の編集部に短期間在籍していましたが離職し、返り咲きです(復帰の裏には何か事情がありそう)。
妻テレサ(スクールカウンセラー)と娘ヴァンダを伴い、ワルシャワから移ってきました。そしてOAZA の住宅に入居。
娘のヴァンダは “グロンティの森” で溺死したダニエルと同じ学校へ通うことになります。妻のテレサは娘の学校のカウンセラーに。彼女は勤務先の学校のロッカーにあった、森で亡くなった少年のリュックを警察へ届けます。テレサはアンナ・ヤス刑事と出会います。
共産党の元地方幹部のユゼフ・キエラクや、OAZA オーナーのヤツェク・ドブロヴォルスキーも “グロンティの森” の闇に関わっています。キエラクは事業で経済的に成功し、夕刊クーリエ新聞社の広告主でもありました。ヴァルデック(キエラクのバカ息子)は誘拐され、身代金を支払ったにもかかわらず拘束されたままという状況です。
ダニエルの溺死事件は、ある人物の自供により解決済として処理されます。しかしアンナ・ヤス刑事は納得できず、捜査を続けます。
第二次大戦後の “森の事件” を追う人たち
このドラマでは、少年の溺死とは無関係と思われる過去の事件の経緯や回想が併行して展開していきます。
クーリエ紙の新編集長ザジツキは、第二次大戦後の “森の事件” を記事にしたいと考えていました。先んじて1982年、カジク・ドレヴィッツ記者が記事にしようと試みました。しかし反政府的であるという理由により18カ月間投獄されます。彼は “グロンティの森” の堤防について、人為的破壊があり得るかどうかを元土木工兵リザードに取材した後、姿を消します。
5年前に夕刊クーリエ新聞社を退職したウィトールド(ウィテク)・ヴァニッツは第二次大戦後の “森の事件” について情報をもっているようですが、ザジツキに協力的ではありません。ヴァニッツと(微妙に)恋人関係にある美容師ナディア役は、ドラマ「グレートウォーター:ヴロツワフの大洪水」で水文学者ヤシュミナ・トレメ役だったアグニェシュカ・ジュラウスカ。
元クーリエ紙記者のヴァニッツは、洪水によって流された “森の墓地” のことが忘れられません。それには事情がありました。かつて彼は柵を密かに越え、収容所にいる若いドイツ人女性のエルサ・ケプケと逢瀬を重ねていました。ある人物に恩を返さねばならないと考えているヴァニッツは、独自に記録を起こしてきました。
そして記事を完成させるため、重要証人を捜しに行こうとしています。
粘り強い捜査によって明るみに出る“つながり”
少年の溺死事件に話を戻します。 “グロンティの森” の事件を解決済みとしたいアンジェイ検事は、アンナ・ヤス刑事の主張する捜査継続に乗り気ではありません。
そして粘り強い捜査により、いろんな人と人との関係や新事実が次第に明らかに。一見バラバラな出来事のつながりも明確になっていきます。
ヤス刑事は同性愛者で、女だてらに男前。男前だけに大胆で無謀な捜査をします。一方でロマの血が流れていることもあり、占いに詳しかったり、捜査や推理において星の配置にこだわったりするところが乙女っぽいです(このドラマとして表現したかったのは、彼女が “マイノリティ” である、ということのようです)。
編集長ザジツキは、広告主キエラクの強い要望を受け、息子ヴァルデックの捜索に力を入れます。誘拐された息子がヴァウブジフにいるという情報を得て、息子の友人の案内で、父キエラクを伴い現地に向かいます。
少年に対して「誰が」「なぜ」「何を」したのか。手を下した “彼ら” にはどんな闇と企みがあったのか。最後まで結論が持ち越され、面白い作品です。
雰囲気だけで言うと、続編の構想がありそうな感じです(ヴァニッツと検事の関係はおぼろげに明かされましたが、ザジツキとヴァニッツに関する、重大なその後は明らかになっていません)。