スペインのドラマ「エリート」を「『ゴシップガール』と『殺人を無罪にする方法』を足して2で割ったような作品」と書いているサイトを見かけました。
「エリート」は「殺人を無罪にする方法」に似ていると私も感じます。「ゴシップガール」は観たことがないのでよく分かりません。
さて、こちらの記事で「エリート」シーズン4について「ラブシーンが多すぎる」と書きました。
ひとしきり文句を垂れましたので、本ドラマの面白さについても触れることにしました。
[ストーリーはここから始まる]
労働者階級のサムエル、クリスチャン、ナディアの通う公立高校の校舎が倒壊。事をうやむやにしたい建設会社によって奨学金を与えられた彼らは、富裕層や特権階級の子女の通う私立高校へ転入します。彼らは在校生の多くから馬鹿にされ、同等には扱われません。そんななか、サムエルは建設会社社長の娘マリナ、クリスチャンは女侯爵の娘カーラと親しくなります。ナディアは建設会社社長令息のグスマンによってハニートラップを仕掛けられます。
「エリート」がトータルで面白く仕上がっているいくつかの要因のうち、私の考えるポイントをひとつ書いておきます。
それは「現実にはありえないこと」の寄せ集めによって筋書きが構成されていること。例えばこんなことです(シーズン1に関するネタバレを含みますが、究極のそれはありません)。
- 校舎が倒壊した公立高校に通っていた3人の生徒(サムエル、クリスチャン、ナディア)が、イメージ回復を目論む建設会社から奨学金を得て、超お金持ちや家柄のよい家庭の子女(=エリート)の通う有名私立高校へ転入する ⇒ 通常、校舎は倒壊しない。「普通の人たち」に門戸を閉ざすことで価値を確立している学校が「高く見積もってもせいぜい普通の人たち」の転入を受け入れることはない
- 3人の生徒は転入先で、手抜き工事で倒壊事故を起こした建設会社の社長の子ども(グスマン、マリナ)と同級生になる ⇒ ましてや同級生などありえない
- 転入生サムエルが恋するマリナはHIVに感染している ⇒ 女子高生が「感染する確率」を考えると「ありえない」に近い
- マリナは転入生サムエルとその兄(仮釈放中)の両方と関係をもち、兄の子を身ごもる ⇒ 遊び人なりの安全圏でよろしくやっているのが自然と思う
- カーラ(女侯爵の娘)は同級生である恋人ポーロの指示により、転入してきたクリスチャンと関係をもつ。その様子をポーロが覗いて楽しむ ⇒ 性癖にはいろいろあれど、高校生の時期に開花する快楽のツボとは考えにくい。かなりのレアケース
「ありえないことだけ」では視聴者が理解できないため、ストーリーに没入しにくくなるのですが、「エリート」では「現実にはありえないこと」と「ほかの要素」のバランスが絶妙で、それがクセになるドラマを生んでいるように感じます。
シーズン1は、在校生と転入生の違い(階級・文化・宗教・生活レベル・価値観)が生む対立、反面で異質さに魅力を感じて惹かれ合う展開がベースになっています。お約束のパターンではありますが「エリート VS 負け犬」という構図です。惹かれ合うのはサムエル(&兄のニーノ)とマリナ、マリナの兄グスマンとナディアなど。
人間は自分の「本当」を知らないと言いますか、なぜそのように感じているのか、なぜそのような感情に突き動かされているのかを理解しないままに、自分の「得」になるように動きます。「得」と明確に意識することすらなく、本能に近いレベルの深いところで物事を自動的に選択しています。
「嘘」だらけの人生のなかに埋もれた「本当」があり、表に現れている反応や行動は、当人が「嘘」と気づいていない「嘘」。表面の違いに反発しても、内側に同じ「嘘」を共有している人同士は惹かれ合う、同じ「嘘」を共有しているということは同じ「本当」を共有しているのかも、というふうに見えるシーズン1です。
シーズン1の最終エピソードではプールサイドにて殺人が起きます。誰が犯人か視聴者には分かります。その人物は、犯人となる人物の心の痛み(「本当」)に触れてしまったので殺されました。殺人容疑でニーノ(転入生サムエルの兄)が拘束されます。その流れを汲んでシーズン2がスタートします。
[シーズン1でお仕事を終えたキャスト]
マリア・ペドロサ(マリナ役)
1996年マドリード生まれ。8歳でクラシックバレエを学び始める。母親のアドバイスに従って18歳までバレエのクラスに通う。「エリート」内でもクラシックではないけれど、何やらダンスらしきものを踊っている。バレエを続ける一方で演技のレッスンをスタート。「ペーパー・ハウス」(2017)、「エリート」(2018)などに出演。2022年2月時点でのボーイフレンドはアレックス・ゴンザレス(野球選手でなく俳優のほう)。