パート5は “教授” の絶体絶命の大ピンチから始まります。タマヨ率いる情報局は強盗団に出し抜かれ、国家警察をクビになった妊婦アリシアは一段と狂気を増した行動に打って出ます。
強盗団も “教授” からのお別れのメッセージがあってからは「殉教・殉職(できるだけのことはしましょう)」ムードに包まれます。
[パート5のチーム編成]
ナイロビが死に、トーキョー、デンバー、リオ、ヘルシンキ、ストックホルム、リスボン、パレルモ、ボゴタ、マルセイユ、マニラの10名。
ほかに、コード名をもたない協力者たちがいる。
マティアスがパンプローナというコードネームを認められる。
「気持ち悪い」二大巨頭のアルトゥーロ(造幣局長で人質)とガンディア(スペイン銀行警備責任者で元特殊部隊の暗殺者)。アルトゥーロ(ヒーロー願望の強い俗物)は強盗団が内輪揉めしている間に銃を手に入れます。メンバーが感情に走ると、物事は計画から外れた方向へと流れていくのがお約束ですが、脇が甘いのよね。
減っていく強盗団の仲間たち。増えていく怪我人の数。どうしても劣勢感が募ります。「どういうふうに収まりをつけるのだろう?ハッピーエンドがありえるのだろうか?」そう思わずにはいられません。
もうひとりの下品な怪物ガンディアも、観る側の不快指数を上昇させてくれます。アリシア・シエラは “教授” たちを捕らえたものの国家警察や情報局から裏切られ、そんなとき出産を迎えます(制作側の思惑を推察すると、この場面のために彼女は妊娠させられていたのだろう)。
スペイン銀行では、強盗団がパレルモの指揮のもと作戦を練り直します。“世間のはみだし者(悪党、性的少数者、出身地で差別を受ける人たち)” が「負けるが勝ち」「損して得取れ」辺りをコンセプトに最後の戦いを挑もうという考えです。そしてスペイン最強の部隊が銀行を爆破して内部へ突入します。
戦闘シーンが多く気を抜けない展開なので、途中で「ちょっと一息」つきたくなります。
[パート5のポイント]
- 強盗団は、軍隊としての訓練を受けていないにも関わらず健闘する(もちろん背水の陣)
- 頭が悪いように見えて、人生を詩的に(本質に近いところで)理解しているデンバー。一方で、パートナーであるストックホルムのメンタルが危機に陥る
- 戦闘のさなかに人生最高のとき、最悪のときを思い出す強盗団のメンバーたち。まあ…いろいろと悲しい
- “教授” たちを捕らえていた元警部アリシアが出産。彼女は国家警察と強盗団、どちらにつくのか。あるいは独自路線を行くのか
- リスボンとパレルモが、なかなかのリーダーシップを示す。リスボンは警部としては優秀でなかったと思うが、リーダーとしては秀でているのかも。狂った目をしていたパレルモが少しずつ人間らしくなってくる
- 何度も挫折しそうになる “教授” と強盗団の夢は叶うのか
- ベルリン(故人)と妻タチアナ、息子ラファエルの物語(回想シーン) ⇒ 後の最大級の伏線回収に期待!!
犯罪を犯しつつ、同時に「いい人」であろうとすることで事態が悪化する、さらなる悲劇が起きるということをリオが指摘します。「いい人間であろう」とすることは自己満足、自己欺瞞、自分の苦しみを減らすための “あがき” なのかもしれません。
最近見た動画(ロシアによるウクライナ侵攻関連)のなかで「人間の世界に正義はない。正義があるのは神の世界のみ。したがって戦争に正義を求めるのはナンセンス」という発言を聞きました。戦争に限らず、有形無形を問わず、人間は自分の利得のため、何かを得たいがために動くのです。
人間は変わらない日常に飽きたとき、無意識のうちに自ら変化(含むトラブル)の種を蒔きます。手に入れた楽園に対し「これではない」と言います。そして後になって、その楽園を懐かしみます。
欲しいものを一切諦めたとき、手放したとき、スーっと水面に浮かんで現れるのが「見せかけではない良心」「愛」なのだろうと思います。人間がコントロールできるようで、できないもの。
そんな内面はともかく、強盗団と軍隊との極限の攻防が続きます。
ドキドキハラハラが連続しすぎるパート5。一方で心和む場面、ジーンとくる場面もあります。一気に見るとグッタリしますね(面白くて)。
疑問もあります。強盗団にはファンがたくさんいるではないですか。あれはなぜですかね。お金をバラまいたからですか?豊かで大衆をコントロールする体制側と搾取される大衆側という図式があり、体制へのレジスタンス運動という体を採っているからですか?単なる「いっときのムーブメント」でしょうか?そこまで応援し、気持ちを入れ込める理由がわかりません。しかし世界各地のレジスタンス運動には必ず支援者がいるので、私に当事者意識が欠けているだけかもしれません。
とはいえ「強盗団のみんな、ようやった!あっぱれ!」と思います。
そしてベルリンの息子ラファエルが受け取ったメモには何が書いてあったのだろうと。私の推理では「ラファエル。君は父ベルリンの計画の一部だったんだよ。次にどうするかは分かっているよな」です。
さて以前、ドラマ「エリート」についての記事で、観る者を惹きつける要因を4つ挙げました。それらすべてが「ペーパー・ハウス」にも当てはまります。
- 「現実にはありえないこと」の寄せ集めによって筋書きが構成されている
- 表現されている価値観が古くからの枠組みに基づいている
- 全体のストーリーに影響を与える、登場人物の個人的ストーリーの想定幅がそこそこ広い
- 安定したレギュラーを後方にシフトするタイミングが絶妙
「エリート」は現時点でシーズン4まで。シーズンひとつにつき、惹きつける要因をひとつ挙げていたので計4つです。「ペーパー・ハウス」はパート5までですので、上記にひとつ加えるとしたら「適度の不快感を、適切な頻度で視聴者にもたらす」となります。
「ペーパー・ハウス」のスピンオフとしてベルリンのドラマがリリースされるようですね。ベルリンは好きではないけれど、存在感があるから見ちゃうかも。
[キャスト紹介]
ホセ・マヌエル・ポガ(ガンディア役)
1980年生まれの俳優。「ペーパー・ハウス」でブレイクするまでは、マイナーな役が多かったそうだ。
ベツレヘム・クエスタ(マニラ役)
1984年セビリア生まれ。青年期までスペインのマラガで過ごす。エスクエラ・スーペリア・デ・アルテ・ドラマクティコ・デ・マラガなどで女優としての教育を受けた。舞台、映画、テレビなどで活躍。各種の賞にノミネートされている人のようである。ベツレヘムという名前が興味深い。
パトリック・クリアド(ラファエル役)
1995年マドリード生まれの俳優、作家。2005年よりテレビ出演ということなので子役出身。「ペーパー・ハウス」以外でも、私はこの人のナチュラルにクサい演技が好きである。顔はそれほど好きではない。特に鼻の穴。
ダイアナ・ゴメス(タチアナ役)
1989年バルセロナ生まれ。2006年にいくつかの映画のエキストラとして女優としてのキャリアをスタートした。
俳優陣のプロフィールを調べていると、特にスペインの場合 “Writer” という言葉が多く出てきます。実際に書籍や詩集を出版している人もいるので “作家” で基本間違いないと思われますが、“脚本家” も含まれるのでしょうか。しかし “脚本家” はもっと別の単語のようです。
[ロケ地]スペイン、デンマーク