ルワンダ大虐殺をベースにした重厚なドラマ「ブラック・アース・ライジング」

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原題はそのまんま “Black Earth Rising”。イギリスによる2018年の作品です。

かつて途中まで視聴。重厚感あり過ぎ、情報量多過ぎで、腰を据えて改めて観ようと思っていた作品。ゴールデンウイークという好機会なので思い出して視聴しました。非常に興味深く見ごたえのあるドラマで、かなり面白いのですが大衆受けしなさそうです。高品質で大人向け。

過去のルワンダ情勢や国際関係、国際司法を知らないと深く理解できないし、理解を積み重ねないと「なぜこういう展開になるのか」がわからない内容(それは私だけかもしれませんが…)。

ルワンダの大虐殺をベースに物語が展開していきます。しかし史実と微妙に一致しません。ドラマに登場するルワンダのビビ・ムンタンジ大統領は女性ですが、現実にはルワンダの歴代大統領に女性はいません。

女性大統領を立てることで史実に忠実ではない、モデルとなった特定の人物はいないと「言っておく」ようなものです。

いろんな国のいろんな人物が登場するので、私のように複雑なことを理解するのが苦手な人間にとっては難解なドラマです。たくさんの情報をできるだけシンプルに整理しながら、解説や感想を書いていきたいと思います。

物語はこんな感じで始まる

ルワンダ大虐殺を生きのびた少女ケイト。国際的な弁護士で検察官も務めるイヴ・アシュビーの養女としてイギリスで育ちます。ケイトは心的ショックにより、ルワンダにいた当時のことを覚えていません。PTSDに悩まされています。

少しずつ快方に向かい法的調査員としての仕事もできるようになってきた矢先、母のイヴがルワンダ愛国戦線(PRF)元将軍サイモン・ニヤモヤの起訴を担当することを知ります。サイモンはツチ族を大量に虐殺するフツ族と戦った、かつての英雄であったため、ケイトは母親のイヴに怒りを覚えます。

その後、ケイトの母イヴ、その部下ゴッドウィン、元PRFサイモンが国際刑事裁判所にて射殺されます。ケイトとイヴの上司にあたる法廷弁護士マイケル、ルワンダ政界の要人アリス、アメリカ国務省の次官補ユーニスは古くからの知り合いで、サイモンの裁判を通じて成し遂げたい、共通の何かがあったようです。しかしイヴやサイモンの死により宙に浮きます。さらに、かつてRPFの指揮官だったアリスが戦争犯罪の容疑によりフランスで起訴されます。

ケイトは背景と真相を明るみにすべく調査を開始。地理的にも組織的にも壮大な規模の物語が展開していきます。

主要な登場人物

いろいろ出てきますが、知っておいたほうがよい人物のみ。

[ルワンダ政界中枢にいる人たち]

ビビ・ムンタンジ:女性の大統領で孤児。出自に謎がある。シングルマザーだが、娘の父親を明かしていない

デビッド・ルニフラ:大統領特別顧問。ルワンダ愛国戦線(RPF)元メンバーのサイモンとは旧知の仲。彼の起訴を担当する検察官イヴとも知り合い

アリス・ムネゼロ:ルワンダの議員。ルワンダ愛国戦線(RPF)の元指揮官。虐殺の舞台となった教会でフランス人のパテノード神父を射殺した罪で起訴され、フランスへ送還される。演じるノーマ・ドゥメズウェニはドラマ「ザ・ウォッチャー」で探偵セオドラ役だった人

フランク・ムネゼロ:アリスの夫。ルワンダのプレミアム銀行頭取。お調子者で落ち着きがない

ダーク・シュライバー:デビッドの下で働く検察チームの国際犯罪顧問。雇い主はドイツ政府。7年間、国際刑事裁判所で調査員をしていた

[ルワンダ愛国戦線(RPF)関係者]

サイモン・ニヤモヤ:ルワンダ愛国戦線(RPF)の元将軍。フツ族の大虐殺に抵抗したツチ族の英雄。その後はコンゴ民主共和国で傭兵となり、同国の鉱物を流通させて対価を得ていた。ルワンダの大統領特別顧問デビッド・ルニフラの謀により、アメリカに投降した体でオランダのハーグにある国際刑事裁判所(ICC:International Criminal Court)に起訴される。ハーグの国際刑事裁判所にて射殺される

※ 前述のデビッド・ルニフラアリス・ムネゼロもRPF関係者である

【国際司法裁判所(ICJ)と国際刑事裁判所(ICC)】

どちらもオランダのハーグにあるので混同されがち。国連の常設司法機関ICJは「国家間の法的紛争(係争案件)」の解決を役割としている。一方、ICCは国連から独立した機関で「個人」の戦争犯罪等の刑事責任を明らかにして処罰を科す。ICCに対してアメリカ、中国、ロシアは批准していない。ルワンダも加盟していない

[イギリスの法律事務所メンバー]

マイケル・エニス:事務所のトップを務める法廷弁護士。ガンを患っている。元金融アナリストで、事故で寝たきりとなった娘ハナがいる。演じるジョン・グッドマンが映画「アルゴ」でハリウッドの実在するメイクアップアーティスト、ジョン・チェンバースを演じていた人であることを発見

イヴ・アシュビー:優秀な国際弁護士でケイトの養母。元RPFのサイモン・ニヤモヤの裁判では起訴担当検察官。ハーグの国際刑事裁判所にて射殺される。かつてNGO職員エド・ホルトと婚約していた。熱心なキリスト教信者で民族独立主義者の妹ソーカ・ビーティーとは縁を切っている

ケイト・アシュビー:幼い頃にルワンダの大虐殺で家族を失い、イヴの養女となった。過去の記憶がなくPTSDの治療を受けている。演じているのは個性的な顔立ちのミカエラ・コーエル。「ブラック・ミラー」シーズン4の「宇宙船カリスタ―号」での演技が印象的

ゴッドウィン・ホール:かつてケイトと不倫関係にあった。ハーグの国際刑事裁判所にて射殺される

[ルワンダの大虐殺関与者とその周辺]

パトリス・ガニマナ:フツ族の元将軍で大虐殺の首謀者。長年に亘り姿を隠しており、戦争犯罪について裁きの場に出たことがなかったが、ロンドンで発見される

パスカル・パテノード神父:ルワンダで活動していたフランス人神父。1994年、教会を舞台とした虐殺への関与が疑われた

フロランス・パテノード:フランスで暮らす神父パスカルの母。ルワンダ愛国戦線(RPF)の元指揮官アリス・ムネゼロを告訴する

ジャック・アントワン・バーレ: パテノード神父の母に告訴を勧める。裁判費用のスポンサー。1987~94年にエリゼ宮で軍部の顧問をしていた。パトリス・ガニマナがルワンダ政府軍の将校だった頃の知人

ソフィ・バーレ:ジャックの娘。Barré ResourcesのCEO。どこかで見たことのある人だなあと思ったら、最近視聴したドラマ「ナイト・マネージャー」のソフィ役の女優さんだった。どちらでもアンニュイな女性で名前がソフィ

クレマン・バーレ:ソフィの兄で軍人。記録によれば、1993年に中央アフリカ共和国での訓練中に死亡

アレクサンドル・ルサージ:フランス軍准将。ルワンダではクレマン・バーレの上官だった。パスカル・パテノードの遺体を確認した人物

ジュリアナ・カバンガ:11歳のとき、ルワンダのパテノード神父の教会に逃げ込んだ人々が虐殺に遭うのを目撃して以降、会話ができなくなった女性

[諜報員]

タット・ピコー:フランスの元諜報部員。アリス・ムネゼロの弁護のため、情報収集するケイトを危険視する

フロランス・カラメラ:パリでケイトに接触。パテノード神父についての情報を提供して「俺は君の味方だ」と言う。ルワンダルーツの工作員

[弁護士たち]

ブレイク・ゲインズ:パトリス・ガニマナの弁護士。悪辣な男。弁護士料の支払いでガニマナの支援者と揉める。演じているのは本作監督&脚本家のヒューゴ・ブリック

ダニエル・ドルウィザバ・ザンド:ブレイク・ゲインズの後任弁護士。ガニマナを担当

マーク・バイナー:ケイトの養母イヴが以前勤務していた法律事務所の代表。リタイヤ生活を送っている

ジョン・ニューフィールド:ブレイク・ゲインズの遺言を管理していた弁護士

[その他]

ユーニス・クレイトン:アメリカ国務省の国務次官補でアフリカ局のトップ

キャピ・ペトロディス:ハーグの国際刑事裁判所(ICC)検察局に所属。イギリスの弁護士マイケル・エニスやアメリカ国務省のユーニス・クレイトンと親しい

サミュエル・カモニア:「平和を築くキリストユニバーサル教会」の牧師。同教会はコンゴ民主共和国のサンケレとイギリスのロンドン、2カ所に拠点をもっている

ンカンザ・アンカンガ:「平和を築くキリストユニバーサル教会」の関係者

いろんな見方ができるドラマ

ルワンダの大虐殺と国民たちの大きなトラウマ、西洋社会のエゴがアフリカにもたらした悪影響、個人の戦争犯罪に対する国際司法のあり方など、壮大なドラマゆえに視点の置きどころもいろいろ。

このドラマとしては、それらのなかでも “弁護士のイヴとマイケル、ルワンダのアリス、アメリカ国務省のユーニスが成し遂げようとしていたこと” に目を向けさせたいようです。

上述(↑)のように国際刑事裁判所が本質的にもっている弱点を、ルワンダ大虐殺の首謀者パトリス・ガニマナの弁護団は突いてきます。そんなときユーニスはマイケルに言います。「目的はガニマナを裁くことじゃない」と。

「じゃあ、目的は何なの?」と問いたいところです。国際刑事裁判所で裁かれなくなったガニマナを、ルワンダの大統領ビビ・ムンタンジの名の元で裁く意向を発表するデビッド・ルニフラ(大統領特別顧問)。ガニマナを移送し、ルワンダでの裁判が実現した場合、ムンタンジ大統領支持率の急上昇が予想され、それはマイケル陣営の望むことではなかったようなのです。

マイケルに協力を断られた大統領特別顧問は、イヴが集めた虐殺に関する資料を求めて養女ケイトに接近します。ケイトは調査名目で故郷のルワンダへ渡ります。

先に、このドラマは実在の人物をモデルにしていないと書きました。しかし要所は取り入れていて、本作のビビ・ムンタンジ大統領と現大統領ポール・カガメ(ツチ族初)に共通するのは、①憲法改正により大統領の3選を可能としたこと、②海外からの投資を受け入れることによる著しい経済発展を実現、③政権にとって有利に働く法改正の実施(あるいは野党や反体制側の弾圧)です。

  • 議員のアリス・ムネゼロは、そんなルワンダ政界の危うい状況にストップをかけたい
  • かつてNGO職員として活動していたイヴやユーニスはツチ族によるフツ族の大規模虐殺の事実を把握していたものの、「大虐殺と言えばフツ族がツチ族に対して行ったもの」という国際社会の認識に照らし合わせて、それを告発するタイミングを見計らっていた
  • 弁護士マイケルはイヴの養女となったルワンダの少女の成長を見守るに必要な年月を考慮した

各人各様にコンゴの難民キャンプを舞台としたツチ族によるフチ族の大虐殺を明るみに出すベストタイミングを待っていて、それが元RPF将軍サイモン・ニヤモヤの投降と裁判だったと考えられます(あくまでも私の解釈です)。

日本の人は関心がなさそうだが相当な秀作

ルワンダの紛争(1990~3年)、ルワンダ大虐殺(1994年)は紛れもない民族紛争ですが、もともとフツ族とツチ族を分けるものとして何か明確な線引き基準があったわけではないようです。

ルワンダはドイツの植民地、ベルギーの植民地を経て1961年に独立。ルワンダ紛争はフツ系政権および同政権を支援するフランス語圏アフリカ、フランス本国と、主にツチ難民から構成されるルワンダ愛国戦線(RPF)および同組織を支援するウガンダ政府との間に起きた争いでした。1994年にハビャリマナ&ンタリャミラ両大統領暗殺事件が発生。政府と暴徒化したフツ族による、ツチ族と穏健派フツ族に対するジェノサイドがルワンダ虐殺です。

このドラマはイギリスで一時期、国際社会の感情に配慮して「寛容な地球」というタイトルに改変されていました。想像以上に際どい内容だったのかもしれません。大地に眠る鉱物資源問題、紛争鉱物にならないように配慮した採掘・流通の方法、近隣国や西洋諸国の思惑など、周辺の動きも複雑に絡んでいます。

イギリスのドラマらしく、もって回った修辞的なやりとりが多く、何を言おうとしているのか理解するためにググることもしばしば。一例を挙げるとイングランドの女王エリザベス、スコットランドの女王メアリー、その愛人たちに喩えられても、イギリス人じゃないからわからんわ、な世界。そういった痒いところを自分で掻く努力を厭わなければ、視聴する価値が大いにある作品。

国際社会の司法や裁判のあり方、アフリカ新興国の抱える問題、地下資源で大きな利益を得たい人たち、戦争被害で心に傷を負った人たち、多面的に丁寧に描いたドラマとしてかなりの秀作だと思います。

[ロケ地]ガーナ、イギリスほか

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