寒いのが苦手なので北欧に住むことはできないと思います。しかし季節を問わず北欧の風景や色合い、空気感は大好きで “北欧ノワール” と呼ばれるドラマのジャンルも同様です。 “北欧ノワール” はいろいろ観てはいるものの書いたものはごくわずか、ということで、せっかくの正月休みということもあり「ボーダータウン 犯罪が眠る街」(原題 “Sorjonen / BORDER TOWN” )シリーズを取り上げることにしました。
新作でも何でもないフィンランドの作品です。続編も恐らく制作されないでしょう。全シーズンについてまとめると非常に縦長になるので、まずはシーズン1で区切ります。
ドラマ「ボーダータウン 犯罪が眠る街」シリーズの特徴
主人公はカリ・ソルヨネンという捜査官です。彼だけの不思議な能力があります。情報処理の仕方が “発達障害的” とも言えますし、後に “超常的” で “サイキック” な領域の力も発揮します(私にはそのように見えますが精神障害の発現かもしれません)。反応や動作、行動や言動が普通でないので周囲の一部は彼を見下しています。しかし、そういった人たちよりも余程優秀なので的確な推理、指示、行動により、着実に事件を解決に導いていきます。情報処理プロセスが独特かつ精緻で他者が真似することは不可能です。
カリ・ソルヨネンには妻のポーリーナ、娘ヤニナ(シーズン1当時で17歳設定)がいます。このシリーズの魅力はカリ・ソルヨネンの普通ではないところ、北欧の “低め安定のトーン&マナー”、事件がフィンランド社会の闇や裏側と絡んでいること、変わった(職業の)人物のいる家族の葛藤や成長に触れている点です。
カリ・ソルヨネンは常人と異なりますが、これ見よがしのうざく暑苦しいノリではないので「こういう個性もいいよね」と温かく見守ることができます。恐らく本人も生きづらさを感じ、何かと困っていることでしょう。
ざっくりとシーズン1~3に分かれてはいますが、シーズン内でも2~3エピソードにまとまるよう事件が小分けにされているので、結末を知るために長時間視聴し続けなくてはならないということがなく、日本の2時間ドラマ感覚で見られるのも特徴といえるでしょう。
同じ北欧であるためか「特捜部Qシリーズ」(デンマーク)や「トラップシリーズ」(アイスランド)に通じる要素があります。
シーズン1
扱う事件によっていくつかのパートに分かれています。「ドールハウス」(エピソード1~3)、「ドラゴンフライ」(エピソード4~5)、「狂気のバトル」(エピソード6~7)、「湖底の女」(エピソード8~9)、「秘められた狙い」(エピソード10~11)という構成です。
「ドールハウス」(エピソード1~3)
カリ・ソルヨネンの妻ポーリーナは脳腫瘍を患っています。彼女の治療を手助けするため、そして公私のバランスを上手く取れないカリの仕事を減らすためラッペーンランタへと引っ越します。そこはロシア国境から30㎞のところにあるポーリーナの故郷です。カリはヘルシンキにいた頃は中央警察(NBI)に属していました。
プライベートを優先した生活を送るつもりのカリでしたが、奇矯な行動で失笑を買いながらも抜群の有能さを発揮してしまったことにより重犯罪調査班(SECRI)と動きを共にすることになります。田舎の街ゆえ軽犯罪しか起きないだろうと高を括っていたところ、猟奇的で不可解な事件が起こります。
湖畔に若い女性の全裸死体が打ち上げられます。その頃、金持ち男相手の危険なアルバイトを請け負ったカティアはサンクトペテルブルクへ送り込まれようとしています。母親のレナ・ヤーコラはFSB(ロシア連邦保安庁)の元工作員で、その技能を生かしてカティアの行方を追います。
事件に関連がありそうな場所としてサイマーランタホテルエリアが浮上します。サイマーランタは市長ロベルト・デガーマンが絡んだ事業の重要な拠点であり、彼はカリの妻ポーリーナのかつての恋人でした。
「ドラゴンフライ」(エピソード4~5)
カリの妻ポーリーナは仕事に応募できるレベルにまで回復しています。「ドールハウス」で行方不明となったカティアとカリの娘ヤニナは友だちになっています。ロベルト・デガーマンが主導するサイマーランタでのカジノ事業は思うように進んでいません。
麻薬取締官のサンテリ・カミネが殺害されます。彼と最後に話したのはミカ・テンホラで彼は十種競技選手として地元では有名でした。サンテリ・カミネは警官であったため国家警察が捜査を引き継ぎ、カリと旧知の仲のトーマス・ヘイッキネンが担当することに。そして次に死体となって発見されたのがミカでした。彼は複雑な家庭で育っていました。カリの提案でラッペーンランタ警察は元FSBのレナ・ヤーコラを雇います。カティアとヤニナの参加するパーティーで事件が起きます。
「狂気のバトル」(エピソード6~7)
カリの妻ポーリーナはデガーマン市長の秘書として働いています。秘書を務める彼の妹アンネリの出産休暇に伴う臨時雇用です。娘ヤニナは撮影マニアのエリアスと親密な間柄になっています。カリとレナ、どちらの家庭も大きな緊張を抱えます。「ドールハウス」でカリの部下だったヨハンナ・メッツォは警察を退職してデガーマンの会社の警備責任者になっています。
カリの同僚ハンヌ=ペッカのところへやってきたエスコートクラブのロシア人女性が暴れ出し流血騒動となります。女性からはドラッグもアルコールも検出されませんでした。カリは女性について調べを進めます。一方で欧州警察がドッグファイトの組織を追っており、デガーマンの倉庫が試合場になったことから、レナとニコ・ウシタロが捜査にあたります。極めて大きな危険を伴うと判断したカリはレナの潜入捜査中止を上司タイナ・ベントゥネンに提案しますが聞き入れられません。
「湖底の女」(エピソード8~9)
妻ポーリーナが過去のヌード写真を巡って訴えを行っていたことを知り、妻が元恋人ロベルト・デガーマンのもとで働いていることに不安を感じるカリ。ロベルトは臨時雇用の彼女のために広報室長というポジションを新たに用意します。娘ヤニナは恋人エリアス・ストロムが撮影した彼女の写真の公開を巡って仲たがいの状態にあります。エリアスはロベルトと異母兄弟に当たる婚外子であり既に十分なまでの資産を保有しています。
湖底で檻に入れられた状態の女性が発見されます。意識が戻っても記憶障害に陥っていて身元は不明なまま。彼女は妊娠していました。カリたちは第一発見者である技術会社の研究員ペッテリ宅を訪れます。彼の妻ニーナはエストニア出身で婦人科の女医。赤ん坊を抱いている写真が飾られていましたが、現在子どもはいないとのことでした。そんなとき、上司タイナの元を地元の政治家ミント・ベステリネンが訪れます。盗まれた車を盗難届を出すことなく極秘で探して欲しいとのことでした。
「秘められた狙い」(エピソード10~11)
カリの娘ヤニナはデガーマンの血を引くエリアスと深い仲になっています。
ヤニナはヨット内で目を覚まします。身体のあちこちに血が付いていますが、何があったのかを覚えていません。同じヨット内で死体が発見されます。名前はエスコ・カールティルネンで児童福祉を担当するソーシャルワーカーでした。別件で何人かの死が判明します。ヤニナは殺人容疑で拘束され、カリはほかの捜査へ回されますが「普段は家族を犠牲にして捜査に繰り出しているのに、自分の家族のために動かないとは何事だ」といつもは優しい妻ポーリーナに気合いを入れられ独自捜査を開始。デガーマン家はカリを危険視しています。
カリたちは犯人を追い詰めます。しかし謎が残されます。ポーリーナの病気が再発します。
[ロケ地]フィンランド(ラッペーンランタ)、リトアニア