映画から「認知の歪み」を考えてみる(1)-「SWEET SIXTEEN」

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「SWEET SIXTEEN」は、「ライン・オブ・デューティー」でスティーブ・アーノットを演じた、マーティン・コムストンのデビュー作。巨匠とされるケン・ローチ監督。カンヌ国際映画祭、コンペティション部門で脚本賞を得た作品。舞台はスコットランドです。

注意! この投稿は映画を通して考察する内容なので、ネタバレがあります。

マーティン・コムストンは当時17歳。プロサッカーチームと契約した直後でしたが、この作品への出演をきっかけに俳優の道を歩むことになります。天が二物以上を与えたと言いますか、17歳にしてプロサッカー選手か役者か、という贅沢な選択を迫られた人。デビュー作の演技もみずみずしくて存在感があり、役者の道を選んでよかったのでは。ちなみに「SWEET SIXTEEN」のキャッチコピーは「心がヒリヒリしている」です。

Wikipediaからあらすじを引用(カッコ内は私の注記)。

もうすぐ16歳になるリアムは、学校にも行かず、毎日親友のピンボールと遊んで暮らしていた。リアムの母ジーンは、麻薬の売人でもある恋人スタンの犯罪を庇ったために刑務所に入っていた。そんな彼の夢は、父親(※スタンのこと?)とおじ(※ではなく祖父)を除いた家族のみんなで湖畔にある新しい家に住むことだった。なんとか数週間後の母親の出所までに手付金を稼ごうと頑張るリアムだったが、必死のあまりスタンの麻薬を盗んで捌くようになる。

服役中の母とその情夫スタンを引き離し、自分や姉(シングルマザー)と共に、家族としての絆を大切にしつつ、眺望の素敵な家で出所後の母の新しい生活をスタートさせることが、リアムの夢でした。つまり「持っている家庭が、当たり前のように持っているもの」が欠けているのが、彼の育った家庭であり、彼の家族だったということです。

家の手付金を稼ぐ手段が、母の情夫スタンの麻薬をくすねての売人。もうすぐ16歳の子が家を買うということが、そもそも荒唐無稽な願望なわけですが、それを指摘して目を覚まさせる役割の人が周囲にいません。

多額の資金を稼ぐにあたり、憎んでいるスタンの商品を盗み、彼と同じ商売を始める、という辺りが「彼の育ち(⇒ それまでの人生や環境から学習してきたこと)」であり「彼の想像力の限界(⇒ 成長する過程で、見聞きすることのできなかった世界が何であるか)」を顕しています。

いっぱしの大人の男のようにオシャレなスーツで身を固め、ちょっと緊張しながら母の出所を車で迎えに行く彼は、憎き疑似父(スタン)との間で母を取り合う “エディプスコンプレックス” の体現者でもあります。

悲しいかな、母は愚かな女なので、わずか16歳の息子が自分のために満身創痍でお金を稼ぎ、新たに住む家まで用意したにも関わらず、情夫スタンの元へと姿を消してしまいます。母は息子がしてくれたようなことを求めてはいなかった、ということです。

DVDの特典映像のひとつにTVスポットがあり、ナントカという日本の映画監督が「超泣ける映画です」みたいなことを言っていました。主人公をとても気の毒に思うけれど、映画として、どこが泣けるのでしようかね?私も50年以上生きてきて、キャッチコピーの「心がヒリヒリする」思春期の渇望や焦燥や痛みも体験上分かるのですが、「超泣ける」とは、少年の、母や家族に関する夢や幸せに対する一途な気持ち、それらを得るために覚悟をもって進んでいったことについてでしょうか?それとも、それらのどれも叶わなかったこと、その代償の大きさに対してでしょうか?よく分かりません。

主人公リアムに感情移入すると号泣映画になるのかもしれませんが、「叶わないことには、叶わない理由がある」というふうに私には見えます。したがって映画を観ていて、特に不条理を感じません。不条理というものがあるとすれば、彼が生まれた家庭や社会環境という人生の出発点に関してでしょうか。リアムやその姉のシャンテールは、環境が良くなかっただけで素地は利発です。彼らの母は愚鈍ですが、生まれたときからそうだったのかどうかはわかりません。

レビューでは「ケン・ローチの最高傑作」という評価も多かったと思います。ひょっとしたら傑作なのかも。いい映画と思いますよ(私も☆4つ以上付けると思う)。スコットランドの風景のなかでも、さびれた感じの街並み、日常などを淡々と描写しています。

この記事は(2)へと続きます。

映画から「認知の歪み」を考えてみる(2)-「SWEET SIXTEEN」
少年リアムの現実味に欠ける夢の何が問題だったのでしょうか。ごく普通の人たちにも「認知の歪み」はあるものです。

マーティン・ コムストン の出演する、傑作サスペンスドラマ(↓)

警察内オセロドラマ~「ライン・オブ・デューティー」が面白すぎてたまらない
面白いサスペンスものとなると、イギリスの「ライン・オブ・デューティー汚職特捜班」を挙げずにはおれません。警察内部における逸脱行為を捜査する部署AC-12のお話です。
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