毒の宗教、毒の親―米ドキュメンタリー「シャイニー・ハッピー・ピープル~ダガー家の秘密~」

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私はリアリティ番組を一切観ません。どこをどう見ても “やらせ” だからです。最初からフィクションのドラマや映画にしてくれたほうがすっきりします。しかしリアリティ番組の展開に涙したり、感動したり、一喜一憂したりする人はいるようです。純粋なのだと思います。

日本でも見かける “大家族もの”。私はテレビを見ないので今もあるのかどうか詳しくないのですが、その企画の起源はアメリカにあるのかもしれません。

高視聴率をはじき出したアメリカのリアリティ番組

19人の子どもをもつダガー家の日常は、リアリティ番組に取り上げられたことで多数の人々の関心を惹きつけました。番組を製作したのはTLCというリアリティ番組専門チャンネルです。

ダガー家はキリスト教原理主義のIBLP(Institute in Basic Life Principles)の信者でした。IBLPをカルト組織と表現する人もいます。以下を読む限りでは同組織を “新興で異端に位置付けられるキリスト教” と解釈してよさそうです。

【キリスト教原理主義とは】

特にアメリカ合衆国で聖書の教えを硬直的、新興宗教的に解釈し歪曲するキリスト教右派、キリスト教根本主義、キリスト教会とその教派に向けて使用される。反同性愛や反中絶を声高に叫ぶのが特徴。

Wikipwdiaより

ダガー家のリアリティ番組が成功したことで利益を得たのは次の三者です。

  • 〔TLC〕リアリティ番組製作者 : 金のなる木のダガー家を発掘
  • 〔IBLP〕信者とその家族を支配する新興宗教 : ダガー家を広告塔とすることで拠点と信者を増やすチャンスを得る
  • 〔ダガー家〕夫が妻を、両親が子どもを支配しているIBLP信者:地方政界への足掛かりを作りつつあった一家の主のジム・ボブの知名度はさらにアップ。一家がリアリティ番組に出演することで、家長の彼は将来にわたって莫大な収入を得ることを約束される

この三者が、その後のスキャンダルによって内側からほころびていく姿に焦点を当てたのがドキュメンタリー「シャイニー・ハッピー・ピープル~ダガー家の秘密~」(原題: “Shiny Happy People: Duggar Family Secrets” )。Amazon Original の作品です。

信者に恐怖を植え付けて洗脳を行う宗教は毒。広告塔を演じて宗教組織や社会、自分の家族への影響力と支配力を強化する家長やその妻も毒。そんなふうでありながら審判によって神の国へ行けると思っているならば「片腹痛いわ」な話です。

ダガー家:父ジム・ボブ、母ミシェル、19人の子どもたち

子だくさんであったからこそダガー家はドキュメンタリーの題材となり、その後リアリティ番組の主役に抜擢されました。一家がテレビ番組に出演するのは、家長のジム・ボブによれば「神への献身」であるそうです。ダガー家はキリスト教原理主義IBLPのメンバーであったため、彼らがリアリティ番組の家庭生活を通じて説く信仰は、IBLPの信者を増加・拡大させることに貢献したのです。

ダガー家の子どもたちは全員、ファーストネームが “J” から始まります。 “キラキラネーム” にも似たセンスを感じます。時代に照らし合わせてあまりにも子だくさんの人には変人が多い気がします。

キリスト教原理主義のIBLPは “多産” を奨励しており、その背景には

“多産” によってIBLP信者の子どもが増える

⇒ アメリカの政界や法曹界などの要職に多数のIBLP人材を送り込むことができる

⇒ IBLPの影響力が社会に対して増大する

という考えがありました。IBLP創始者ビル・ゴサードは “IBLPの影響力が社会に対して増大する“ ことを「イエス・キリストの影響力を高めることになる」と表現していましたが、結局のところ「自分たちの支配欲が満たされる」ことを望んでいるとしか考えられません。

ダガー家の生活には普通でなさすぎる点が多々ありました。しかしリアリティ番組では “明るく楽しく美しい、みんながうらやむ理想の家族” として描かれ、闇の部分が公になることはありませんでした。

成長したダガー家の長男ジョシュも父ジム・ボブに倣って政界入りを目論むようになります。番組は10年も継続して制作され、一家は順風満帆に見えました。そんなときスキャンダルが明るみに出ます。円満で完璧に見えていた家族のほころびが可視化されるときがやってきたのです。

「自身の自由を手にしたいなら権力者の望みに従いなさい」という教え

ダガー家の考え方や行動に多大なる影響を与えていたのがIBLPによる組織的な宗教教育。家長である男性が絶対的な権力をもち、妻や子どもたちはそれに対する服従を求められました。

IBLPの宗教思想においては「神(イエス・キリスト) ⇒ 男性(夫) ⇒ 女性(妻) ⇒ 子どもたち」というヒエラルキーが説かれます。夫が妻を、両親が子どもを支配しますが、そこには暴力や虐待があり、暴力を振るう側ではなく振るわれる側に問題があるとみなされました。つまり家庭内で起きることについて家長(夫・父)は罪に問われません。妻や子どもたちといった被害者側が罪悪感をもつことを強いられる構造になっています。

IBLPはホームスクールを推進しており、子どもたちは外界との関わりが少ない環境で育っています。プログラムの内容は偏っており、長年にわたる抑圧が自己否定の感情を強化するため、問題行動を引き起こします。ダガー家も例外ではありませんでした。

個人的な見解を言いますと、宗教がどうのこうのの問題はさておいて、子どもが19人もいたら、うち1~2人は “手のかかる困ったちゃん” であっても不思議はないと思います(統計的、確率的に)。ダガー家の場合、親による日常的な支配と虐待があったため、より確実に問題行動が発現したとは言えるでしょう。なおダガー家が隠匿していたのは性犯罪であるので問題行動としては深刻な部類に入ります。

キリスト教原理主義IBLP創始者ビル・ゴサードの野望

IBLPには創始者考案のセミナーやプログラムがありました。家庭問題や教育問題の解決や悪い習慣の克服を目的としたもの、子ども向けのプログラム、ホームスクールプログラムなどです。

IBLPが重きを置くのは “権力の美化” と “指示系統の徹底” と言われています。宗教のトップと、その似姿といえる家長がよい思いをする、軍隊のような組織を目指しているかのようです。

セミナーの光景などをみると自己啓発セミナーのような熱気と狂気に包まれていて非常に気持ちが悪いです。アメリカって宗教も自己啓発もネットワークビジネスもセールスマン教育も、ベースにある指向性というか枠組みが同じなのではないかと思ってしまいます。

創始者ゴサードと信者のダガー家は互いを上手に使って、それぞれのビジネスを大きくしていきます。ゴサードはアメリカ国内に拠点を増やし続け、海外にも目や足を向けるようになります。

本作はIBLP創始者ゴサードの指導者・人間としての歪みにも焦点を当てています。

「幸せな家族」幻想の行き着く先は

アメリカの人たちは「私たちっていい家族」という表向きの姿をとても大切にするように見受けられます。たとえば「大草原の小さな家」のように頼りになる働き者のお父さんがいて、愛情深いお母さんがいて、子どもたちが協力して両親を支えていくという姿が理想の家族像のベースにある感じがします。やたら広い国土や大自然を開拓して暮らしていた時代には、原初の共同体である家族の支え合いが重要だったため、その価値観が今なお根強く残っているのではないでしょうか。

そういった精神的土台をもつアメリカにおいて “ダガー家” は幸せな家族の1モデルを示したといえます。

ドキュメンタリーで解説されていますが、創始者ゴサードもスキャンダルによって後に失脚。IBLPの莫大な資産を手にするポジションにぴったり付けているのは、ほかならぬジム・ボブ・ダガーであるようです。

ジム・ボブは “理想の家族のダガー家” という看板を下ろすことなく、アーカンソー州の上院議員選挙に出馬。その後、彼の息子のひとりであるジェディディアも立候補しています。それくらい面の皮が厚くないとアメリカで生き抜くことは困難でしょう。

この作品は、ゴサードの思想の影響を受けている “ジョシュア・ジェネレーション” や “ティーンパクト” のメンバーが政界や法曹界に入って信仰に基づいた活動を行っていることや、キリスト教原理主義の布教や、それに反対する活動がSNSやインフルエンサーによって展開されていることなどにも触れています。

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