舞踊の本質とは?ジョージアの映画「ダンサー そして私たちは踊った」

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ジャンルとしてはBL(ボーイズラブ)なのでしょうか。原題は “AND THEN WE DANCED ”。映画の舞台はジョージアですが、監督はスウェーデン出身のレヴァン・アキン。

私自身はBLカテゴリーに関心がないので、主人公メラブが同性愛に目覚めるという筋書きは重要ではありません。ゲイであることに対する周囲の反応、自分自身の受け入れがテーマになるのかな、とは思いますが、同性が恋愛対象だからといって何か崇高なわけでもないし、その逆もしかり。

関心をもったのは物語の舞台がジョージアであること、主人公たちがジョージア国立舞踊団のメイン団に入ることを夢見て日々練習に励むところです。

ジョージアを旅した人は「すごくいいところだよ」と推します。いつか訪れてみたい国。その文化を垣間見たい気持ちがありました。

[ジョージアってこんな国]

  • ワインやカスピ海ヨーグルトの発祥の地と言われている
  • 伝統文化を大切にしている
  • 4世紀にはキリスト教を国教としており、キリスト教信仰が長い国
  • ロシア帝国やソ連に支配されてきた。スターリンやシュワルナゼはジョージアの出身

上記を見ても興味の湧く国。ただし映画を観る限りでは、そこで暮らしている人たちには未来の希望が見えない国のようなのです。恐らく「貧しさを抜け出ることが難しい」のだと思います。

主人公のメラブも貧しい家庭の青年です。両親は離婚しており、電気代を支払えず、家の電気が止まります。夜はレストランの給仕係として働いて家計を助けていますが、貧困を抜け出すには程遠い状況です。

別居している父ヨセブも元ダンサー。メラブは素行がよいとは言えない兄ダヴィドとともに国立舞踊団でレッスンを積んできました。10歳のときから男女ペアを組んでいるマリとはとても仲がよく、深い関係はないものの親しい間柄です。

彼らは野球で言うと二軍に属していて、メイン団に所属できれば扱いがよくなり経済面でもラクになります。誰もがメイン団に昇格することを望んでいました。

そこにある日やってきたのがバトゥミ出身のイラクリ。メラブはイラクリをライバルに見立て、共に練習に励みます。最初は気になるライバルに過ぎなかったのですが、恋愛の対象としてイラクリに惹かれている自分を発見するメラブ。イラクリもまた家庭に事情を抱えていました。

映画で正式なジョージア舞踊の全容を見てはいないのですが、隣国アゼルバイジャンの舞踊に似ている気がしました。指導者のアレコは「もっと釘のように」「もっと銅像のように」踊れとメラブに言います。男性には男性性を表現して欲しいのに、メラブのダンスは曲線的で柔らかなのです。

メイン団に欠員ができたのでメラブも審査を受けるメンバーのひとりに選ばれます。欠員ができたのには公にしがたい理由があり、メイン団のザザがゲイであることが判明、矯正のために修道院へ送られたからだといいます。すなわちジョージアの社会は同性愛を認めていませんでした。

ストーリーのすべてが分かってしまうと面白くないと思うので、途中を飛ばして結末に話を進めます。

恐らくメラブはジョージアを出て、ほかに新天地を求めることを決めたのでしょう。「舞踊は完璧の追求ではない。我が国の精神そのものだ」が自説の指導者アレコの前で己を包み隠さない、しなやかな舞踊を披露します。伝統を前にして自分を偽ることを止めるメラブ。長年心血を注いできたジョージア舞踊を自分らしく踊ることによって、長く信じてきた世界に決別し、新たな扉を開くのです。

舞踊はもちろんのこと、ジョージアの建物、インテリアもかなり独特で、観る者の目を楽しませてくれます。

BLものに関心がないなりに言うと、同性愛をテーマに取り上げた映画としては2016年の「ムーンライト」のほうが好きです(こちらはアメリカが舞台)。

少年~青年時代に刻まれた印象的な恋が人生に大きな影響を与える、という点では「ダンサー そして私たちは踊った」も「ムーンライト」も同じ。

しかし「ムーンライト」は大人になって再会したふたりが、かつてのわだかまりを解いていく展開になっています。若さゆえのいっときの欲情ではなかったことが示されます。その日のために、ふたりのそれまでの人生があったことが伝わってきて切なくて、ぐっとくるのです。「ムーンライト」のほうが、多様な人間の機微をきめ細かに描写できていたとも思います。

「ムーンライト」と言えば、16歳当時のケヴィンを演じたのがジャレル・ジェローム。彼はドラマ「ボクらを見る目」ではコーリー役を演じ、どちらでも高い評価を得ています。

「ダンサー そして私たちは踊った」も「ムーンライト」もAmazonプライムビデオで視聴できます(本日現在)。ぜひご覧ください。

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