国家レベルの駆け引きを背景に人ができることとは-映画「ミュンヘン:戦火燃ゆる前に」

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史実ベースのフィクションで、こちらもハラハラしっぱなしの物語です。“ロバート・ハリスの小説を実写化したサスペンスドラマ” とのことなので “歴史もの” というよりは ”創作サスペンス” のウエイトが大きいのでしょう。

本作が創作のベースとして取り上げている史実 “ミュンヘン会談” が第二次世界大戦のきっかけとなり、ひいては先の記事で書いた映画「ダンケルク」で描かれたダンケルク大撤退(ダイナモ作戦)にもつながったと推察されます。

まずは映画「ミュンヘン:戦火燃ゆる前に」(原題 “MUNICH”:THE EDGE OF WAR )のあらすじ(導入)を紹介します。

[あらすじ]

1930年代前半、ヒュー、ポール、レナはオックスフォード大学で学んでいた。ドイツから留学していたポールとレナは恋人同士で3人はとても仲がよかった。ポールとレナがドイツへ戻って後、ヒューはドイツを訪れる。ポールと政治やヒトラーを巡って論争となり、その後ふたりは疎遠に。そして1938年、ヒューはチェンバレン首相の私設秘書に、ポールはドイツの外交官になっていた。機密文書を入手したポールは極秘ルートを通じて、ミュンヘン会談に参加するチェンバレン首相にヒューが同行するよう働きかける。ヒトラーの主張に配慮したミュンヘン協定は “戦争回避” にならず、むしろ戦争を引き寄せると考えるポールは、ヒューに協力を依頼してミュンヘンを舞台に協定締結阻止へと行動を起こすのだが…。

私のように歴史をあまり知らない人にとっては「背景になっている史実のほうがよく分からない」状態と思いますので、そちらも補足しておきます。

1938年 “ミュンヘン会談” がどう転んだとしても、なんらかの形で第二次世界大戦の幕が切って落とされたのかもしれませんし、やはりイギリス軍らがダンケルクから大撤退する事態になっていたのかもしれませんが、国際関係の歴史において “ミュンヘン会談” がひとつのターニングポイントであったのは事実のようです。

[ミュンヘン会談とは]

1938年9月29日~30日、ドイツのミュンヘンで開催された国際会議。チェコスロバキアのズデーテン地方帰属問題をテーマとし、ドイツ(ヒトラー)、イギリス(チェンバレン首相)、フランス(ダラディエ首相)、イタリア(ムッソリーニ首相)が出席した。

ドイツ系住民が多数を占めるチェコスロバキアのズデーテン地方の自国への帰属を主張したドイツのアドルフ・ヒトラー総統に対し、イギリス・フランス両首脳は、これ以上の領土要求を行わないことを条件にヒトラーの要求を全面的に認め、1938年9月29日付けで署名された

この会談で成立したミュンヘン協定は、結果としてドイツの更なる増長を招き、第二次世界大戦を引き起こしたとみなされることが多い。

※これに先立って、イギリスとフランスはチェコスロバキア大統領にズデーテン地方のドイツへの割譲を勧告。さらにイギリス政府が「無条件で勧告を受諾しない場合、チェコスロバキアの運命に関心を持たない」という強硬な姿勢をとったため、9月21日、チェコスロバキア政府は勧告を受諾していた

※しかしそんな程度の譲歩ではドイツは納得せず、その強硬な態度に驚いたイギリスのチェンバレン大統領であったが、周囲の助言もあり “将来的な戦争準備のための今の戦争回避” を念頭に置いていた。また会談等を通じてヒトラーの人柄を信頼するようになっていた(らしい)

※アメリカ ⇒ 我関せず、ソ連 ⇒ 蚊帳の外、ドイツ ⇒ さらに増長

(主にWikipedia「ミュンヘン会談」を基に)

[ミュンヘン協定の内容]

ズデーテン地方は1938年10月1日から動産もろともナチス・ドイツに即時割譲すること、加えてその他のドイツ人が優勢を占める地域は国際委員会の裁定により、人民投票によって所属を決定する事が定められた。ドイツの要求はほとんど認められ、ハンガリーとポーランドの領土要求にも配慮された結果となった。

※その後、チェンバレンはフランスに無断でヒトラーと会談を行い、英独海軍協定(1935年6月18日締結。イギリス海軍に対するドイツ海軍の規模を規制するもの)こそが両国相互不戦の象徴であるという英独共同宣言を行った。⇒ 1939年4月28日にヒトラーはこの協定の破棄を通告

※ “戦争回避” がチェンバレンの大義であったが、独断に近いでヒトラーと会談を行う等、勇み足なのか間抜けなのか、要らぬことをする(ここは私見)

(主にWikipedia「ミュンヘン会談」を基に)

結局のところ英独間の和平は1年しか続かず、第二次世界大戦へと突入します。戦争開始を1年遅らせただけでも “ミュンヘン協定” には意味があったのか、なかったのか。見解は人によりいろいろ。

恐らくベースの小説のモデルのひとつとなったドイツ国内の反ヒトラーグループ(当局から “黒いオーケストラグループ” と呼ばれていた)はヒトラーの暗殺を企んだものの、すべて失敗に終わっています。

映画の感想
  • 規模が大きくなればなるほど、政治に美しさや清らかさを求めることは不毛である(町内レベルであれば人情や道義のウエイトが高くなるが、国家レベルになると視点がまるで異なってくる)
  • 私が一番強く感じたのは「“世界は自分に対してウェルカムであり、自分にできることは無限大” と感じていられる間は子どもの延長線上にいる。世界が “全面的に自分を必要とする” ことはないことに気付き、ある種の諦観をもって世界に食らいついていくようになってからが大人」ということ。オックスフォード大学時代の3人は前者で、政治や外交の世界で働くようになってからは後者。前者は “あったほうがいい時代/時期” だが儚い幻。でも、そこでダンスできる間は、思う存分踊っておいたほうがいい。人生の味わい深さ、生への洞察は “想定しなかったギャップ” から生まれてくることが多い
  • 生きることの儚さ、虚しさが感じられる作品。自分の無力さを痛感しながらも、人は生きていかねばならない。それを前提として「どう生きるか」が人間の真価に関わる

最後にメモ。

個人的トリビア
  • 英首相秘書のヒューを演じたジョージ・マッケイ。彼の出演作をほとんど観たことがなかったが、素晴らしい演技をする俳優だと思った。シアーシャ・ローナンと以前交際していて、彼女はその後ジャック・ロウデン(「ベルファスト71」「ダンケルク」)と付き合っていると知って軽い驚き
  • ドイツの外交官ポール役のヤニス・ニーヴェーナー。ドイツの俳優だが「コリーニ事件」で若い頃のハンス・マイヤー(軍人)を演じていた人だった。本作ではメガネをかけていることが多くていまいちだが基本的に男前
  • ヒューの妻役を演じたジェシカ・ブラウン・フィンドレー。役柄としては恐らく、比較的ハイソな家柄に生まれ、世間知らず気味に育ったセクシーで美しい奥方。「現実はそんなに甘いものじゃないんだよ」というダンナに対し、家庭第一主義とヒューマニズム(戦いではなく交渉)と “未来に希望をもつべき” という立場をとっている。「ダウントン・アビー」のシビル役、「ブラック・ミラー」S1の “1500万メリット” アビー役とはまったく異なる演技を見せてくれている
  • ポールの恋人レーニャを演じたリヴ・リサ・フリース。美人というよりキュートと私は感じるのだが、大ヒットしたドイツの歴史スリラードラマ「バビロン・ベルリン」が出世作。英語、フランス語、北京語も話すことができる

[ロケ地]イギリス(リバプール)、ドイツ(ミュンヘン/ブランデンブルク)

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