祖国アフガニスタンからの脱出。穏やかに語られる壮絶な物語-実話に基づく映画「FLEE フリー」

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途中まで書いたところで猛烈に仕事が忙しくなって放置していました。ようやく一段落したので完成させます。

ほとんどがアニメーション仕立ての作品。ところどころに記録映像が挿入されています。一般的なドキュメンタリーとは趣を異にします。しかし定義に立ち返ると “ドキュメンタリー” に分類してよいように思います。原題は “Flugt” でデンマーク語で「逃げる」という意味。

アミン・ナワビ(仮名)という36歳の男性は未成年であった時期に家族と離れ離れになり、ひとりデンマークに亡命しました。亡命の直接の理由ではなかったものの、彼は祖国アフガニスタンで認められることのないゲイでした。アフガン難民であり、ゲイでもあるというバックグラウンドをもちます。彼はデンマークで研究者として成功します。

アミンはこれまでの人生や出来事を穏やかに、優しさに満ちた口調で語ります。過酷で苦しみの多かった前半生でありながら、それを感じさせない声色と話し方。ときどき少しだけ実写が混じりますがアミン自身が姿を現すことはなく、彼の安全と平安な暮らしに配慮した描写になっています。

アミン一家の母語はダリー語のようです。アフガン・ペルシア語とも呼ばれ、イランのペルシア語、タジキスタンのタジク語とともに新ペルシア語のひとつとのこと。ところどころ聞き覚えのあるイラン・ペルシア語の単語(ダリ―語なんでしょうけれど)が聞こえてきます。

デンマークをはじめとした12か国が製作に関わっています。評価の高い作品です。

祖国を脱出した経緯

青少年だった頃、デンマークに亡命したアミン・ナワビ(仮名)。映画監督に向かって自らの生い立ちを少しずつ話し出すところから映画が始まります。

アフガニスタンは政治面で長く揺れ続けている国で、アミンの語りは1980年代半ば、彼が4歳の頃からスタートします。当時のアフガニスタンは社会主義政権とそれを支援するソビエト連邦軍の勢力と、ムジャヒディン(ジハードに参加する民兵や軍閥など)による反乱軍の間で紛争状態にありました。

アミンは母と兄、姉たちとカーブルで暮らしていました。父はアフガニスタン政府によって脅威とみなされ収監、その後消息不明になってしまいました。その後アメリカから武器供与を受けたムジャヒディンによるカブール制圧が目前となったタイミングで、アミンの家族は家を放置してロシアへ脱出(1992年頃と思われます)。ソ連崩壊によりロシア連邦に生まれ変わった時期であり、ロシアも貧困と混沌のなかにありました。アミンらにも苦難が待ち受けていました。

デンマークに亡命するまで

当時スウェーデンで暮らしていた長兄が、家族のモスクワでの生活を世話。一家はスウェーデンに移住することを計画します。スウェーデンへ密入国するには仲介業者に多額の支払いをせねばならず、長兄はその工面に苦労しました(ロシアへは観光ビザで入国していたので、正規ルートによる出国が不可能だったようです)。

やがて観光ビザの有効期限が切れ “不法滞在者” となるアミン一家。見逃してもらうためにロシアの警察官の横暴や賄賂の要求に対処することになります。その後いろいろあり(苦難と恐怖の連続です。映画をご覧ください)アミンは家族から離れて単身で亡命。密入国仲介業者が向かわせたデンマークに難民として受け入れられます。

難民としての受け入れ後

アミンは密入国仲介業者と取り交わした約束により、アフガニスタンでの生い立ちや家族、出国した後の出来事について語ることができませんでした。周囲の人々やパートナーのキャスパー(男性)に詳細を明かすことができず、それが大きな苦しみになっていたようです。このドキュメンタリー映画は彼の苦悩を解き放つ契機にもなりました。

デンマークで正規の高等教育を受けることができて研究者としても評価された、アメリカの大学にも招聘されたという点で “アフガン難民のサクセスストーリー” にも見えてきます。祖国の政治的危機下で家族全員がパスポートをもっていてロシアへ渡航できた、という事実から中流以上の家庭だったこともうかがえます。

アミンはゲイです。祖国では同性愛者は存在しないことになっており、明らかになると社会的嫌悪の対象となったそうです。どう考えても生きづらいので、遅かれ早かれアフガニスタン脱出を決意することになっていたのかもしれません。

亡命(難民になる)について思うこと

日本で暮らす私たち日本人が亡命したり、難民になったりすることは現時点でイメージしづらい事態と思います。この映画を見て感じたのは次のようなこと。

  • 先立つものとして大金、コネが必要
  • 過酷すぎる環境でも生き抜く体力、心身のタフさが必要
  • 決意するタイミングはかなり重要
  • 主体的に亡命を決意しても、各国の政治や情勢に翻弄されて自分の思い通りにはならない。よって運のよさは大切

自分が難民にならないで済むことを願っていますし、難民といってもいろんなパターンがあると思っていますが、命からがら祖国を後にする人たちの経緯を知ることのできる貴重な記録です。

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