旧ソ連から1990年に独立を回復したリトアニアを舞台としたサスペンス映画で、筋書きにも1990年の出来事が絡みます。
原題は “Piktuju Karta”。“Piktuju(悪魔の/邪悪な)” はリトアニア語表記では “piktųjų” が正しいようで “Karta” は “世代” という意味。英語のタイトルも、そのまんま “THE GENERATION OF EVIL”。
最新作というわけではありませんが、リトアニア作品が珍しいので取り上げます。
ソ連が崩壊した当時、旧連邦国の多くは危機的状況に直面。混乱の中で裏のある人間が地方の政治を牛耳り、忌まわしい記憶を残した。
この物語は関係者の証言を基に制作されたもので、実在の人物・団体とは一切関係はない。
冒頭のテロップより
導入部あらすじ
ギンタスは警察署長。映画の冒頭で、彼の息子ベネイが小学校へ本物の銃を持ち込むという問題を起こします。ベネイは誕生日を迎える父ギンタスへのプレゼントと言っていましたが、クラスメイトたちを驚かせたい気持ちが強かったようです。
街ではビルの外階段で首を吊った遺体が発見されます。捜査現場に遭遇した検事ライモナスが車に戻ると、フロントガラスとワイパーの間に旧ソ連の1ルーブル札が挟んでありました。車内で酒を口にする検事。その後、スマホに着信した何かに目を通します。
その夜の警察署長ギンタスの誕生パーティーには友人や名士たちが集い、彼は警察を退職して市長選に立候補する意向を表明。ギンタスの家族の関係性は良好とはいえないようで、娘アグネはパーティーに参加していませんでした。ギンタスは検事ライモナスの妻と不倫関係にあり、それに気づいたのかライモナスも誕生パーティーを欠席していました。
パーティーの最中、ギンタスの部下アルーナスの携帯電話に着信。「いつだ?」と返した彼はギンタスに耳打ちします。ギンタスと部下アルーナスが現場に向かうと、右目辺りを猟銃で撃ち抜いた検事ライモナスの遺体がありました。彼のポケットにあったスマホを確認すると、署長ギンタスとロレータ(ライモナスの妻)のセックス動画がありました。ギンタスは動画の流出経緯を調べようと部下アルーナスに通信データの確認を依頼。自分に不利な状況しか生まないスマホは秘密裡に破壊して、マンホール内に廃棄します。
中央の検事局からやってきた特別捜査官シモナスは、地方検事ライモナスの携帯電話がなくなっていること、猟銃での死を不審に感じます。そして彼の墓を掘り起こしての捜査に乗り出します。
その結果、ライモナスは自殺ではなかったことが判り、ギンタス署長と不倫関係にあったライモナスの妻も捜査の対象となります。
さらにライモナスは長時間の拷問のうえ、死んだ後に銃で撃たれたことが判明します。
アルーナスは死んだライモナスの携帯電話の通信記録を調べ、動画がリィエパ通りから送信されたことをギンタスに伝えます。そこに1軒しかない家の住人はギンタスもよく知っている人物でした。
遡って1990年、ヴィリニュスのKGB中央司令部。停電の隙を突いて重要なファイルが盗まれました。建物の外には、リトアニアの独立を求める人々が押しかけています。
KGB中央司令部からファイルを持ち出したのは若き日のラザで、独立運動を後押ししている新聞記者(?)ヴィタウタス・ヴェンツロヴァにKGBのスパイの情報を渡す取引に臨んでいました。
現在のリトアニアの地域コミュニティには、かつてKGBの情報源だった人たちが混じっていて、殺害事件は彼らにまつわるものであることがわかってきます。
警察署長ギンタスも自分にとって都合の悪いことは隠匿しようとし、部下の警官らによって容疑者として拘束されます。
登場人物
※ “シモナス”(中央の検事局からやってきた特別捜査官)と “シモニス”(神父) は別人です
- ギンタス・クラサウスカス:警察署長。旧ソ連の1ルーブル札を犯人から直接渡される。妻はイロナ。息子はベネイ。娘アグネとは折り合いが悪い
- ライモナス・リアウダンスカス:検事。ギンタスの親友。ギンタスの息子の名付け親でもある
- ロレータ・リアウダンスキエネ:ライモナスの妻。ギンタスのセフレ。自堕落でふしだらな印象の女性(なぜに、こういう人が検事の妻?)
- ラザ・キマンタイテ:ギンタスの友人。現市長。旧ソ連の1ルーブル札の画像がスマホに届く。エリカスは部下
- アルーナス:警官。ギンタスの部下で相棒
- シモナス(Simonas):中央検事局から出向いてきた特別捜査官。ライモナスの死が自殺として処理されたことについて疑念を抱く
- ケスタス:検視官または監察医
- スラバ:検事ライモナスの家を訪れた男
- アンタナス・シモニス(Antanas Simonis):神父。旧ソ連の1ルーブル札を寄付箱に見つける
- ユリウス・ペトリキス:判事。旧ソ連の1ルーブル札を車のガラスに押し付けられる
- ヴィタリユス:1990年当時の中尉。KGB中央司令部に所属し、情報提供者や工作員を管理していた
- ヴィタウタス・ヴェンツロヴァ:1990年当時、独立運動推進派の新聞発行者らしき立場にあった。実はKGBの内通者
感想&メモ:独立回復時期を素材としているのがポイント
大きな括りではサスペンス作品に分類されると思います。
連続殺人事件の種子は1990年に蒔かれており、約30年を経て不思議な出来事として現実世界に芽吹き始め、相互の関わりが少しずつ可視化されていきます。
30年前と聞くと大昔のようですが、たかだか平成2年であり、私は既に社会人だったので比較的最近のことのように感じます。
- 1990年当時、旧ソ連(KGB)のスパイが社会階層や思想的立場を超えて、リトアニア社会のいたるところに潜伏していた
- リトアニアの民衆や独立を推進する側にも、情報提供者(スパイ)を多数もっていた
- 独立後、KGBに情報提供を行っていたスパイや工作員の一部は、新しいリトアニア社会で行政や司法などの要職に就いた
上記をリトアニア社会や時代の背景として設定し、過去を隠匿したうえで社会的でそこそこ成功している人たちが、カルマの清算を余儀なくされるというストーリーになっています。
異国の人間から見た “リトアニア” らしさがあり、真犯人が判りづらく、因果応報的結末ではありますが、詳細に含みがもたされているという点で良作だと感じました。
[ロケ地]プルンゲ(リトアニア)
