物議を醸したイランが舞台の映画「聖地には蜘蛛が巣を張る」

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この映画を視聴したタイミングでイスラエル、アメリカによるイランへの攻撃がニュースになったため投稿意欲が失せていましたが、気を取り直して書くことにします。

原題は “Holy Spider”(عنکبوت مقدس) でイスラム教シーア派の聖地マシュハドが舞台。かつて私がイランを旅行した際、最初に訪れた都市です。イランは観光するぶんには非常に素晴らしい所です(行けばわかる)。漠然と中東紛争関連国と思われていますが、西アジアに位置し、アラブ人ではなくペルシャ人による国家。“おもてなしの心” は日本よりよほど上をいくと思います。

実話に基づく筋書きはシンプル

サイード・ハナエイ(イラン・イラク戦争の退役軍人/作中の姓はアズィミ)によって2000年から1年の間に16人の女性が殺害された実話をベースとしています。

女性ジャーナリストのアレズー・ラヒミは、セックスワーカーを狙った連続殺人犯を調査するためにテヘランから聖地マシュハドに赴きます。現地ホラサン紙の男性記者シャリフィのところには、ひとり殺すたびに犯人から殺害を知らせる電話があるといいます。シャリフィの協力を得ながらラヒミは自ら囮となって犯人に接触、命の危険を冒して真実に迫ろうとします。

映画においては、サヒード・アズィミはシーア派の殉教者イマーム・レザーに成り代わっての罰/浄化としてセックスワーカーたちを殺害した体(てい)になっています。彼の家族や友人は聖地を恐怖に陥れていた連続殺人犯(スパイダー・キラー)がサイードであることを知ってショックを受けますが、宗教的意思を代行する者として正当化。彼を英雄として称えます。

検事のハガニも「裁判では死刑判決となったが、死刑執行日に密かに脱走できるよう手筈を整える」ことをサイードに非公式に約束。一方のラヒミらは警察がプロトコルを遵守するかどうかについて疑念を抱き、彼の死刑を見守ります。検事はサイードの脱走を見逃すことを彼に伝えてイスラムの英雄として称えていましたが、彼を絞首刑にします。逃がすつもりだったのか、絞首刑にするつもりだったのか真意は不明です。

いくつもの正しさが錯綜する社会を描く

サイードは宗教的価値観に基づいて娼婦たちを殺害した(罰した/浄化した)つもりだったようで、ムスリムたちはそんな彼を英雄として称賛します。しかしサイードは娼婦を買う男性たちには制裁を一切加えていません。需要と供給で成り立っている商いですから、売春が戒められるべき行為ならば、女性だけが痛めつけられるのはおかしい気がします。シングルマザーであったり、娼婦も事情があっての娼婦です。

逮捕されたサイードは裁判で死刑を宣告されます。しかし検事は「君は英雄だ」とサイードを陰で持ち上げ「死刑を執行したかのように見せかけて逃げ道を用意する。そこから外に出れば君は自由だ」との特別扱いを匂わせます。法の下のスタンダードと信仰におけるスタンダード、ふたつが存在します。

女性ジャーナリストのアレズー・ラヒミは職場の上司、マシュハドの警察官ロスタミからハラスメントを受けます。イスラム社会における女性のポジションがクローズアップされます。

いわゆるイスラム勢力は “浄化” を大義とした破壊や殺戮を行いますが、このところの世界情勢をみる限りではユダヤ・キリスト教勢力も同様です。民主主義国家にさえ国際法は無視されており、法による正義(Justice)が形骸化している以上、各宗教や地域に根付く思想や主張により国際社会は分断していく一方です。

この作品を製作するにあたり、現在(2025年6月)の状況についてどのような想定をもっていたのか定かでありませんが、イスラム国家のみならず各種のレイヤー(社会や階層)に普遍的に存在する課題を浮き彫りにしています。宗教家は宗教家として、法学者は法学者として、政治家は政治家としての物の見方があり、折り合いの付きにくいものに妥当な根拠を与えて前に進んでいく社会の難しさを表現していたように思います。

製作者や出演者に相次いだ脅迫

アレズー・ラヒミ役のザル・アミール・エブラヒミは本作においてカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞。脚光を浴びる一方で、彼女やデンマーク系イラン人監督のアリ・アッバシを非難する声が上がりました。 本作の制作に関わった人々に対する脅迫も多数ありました。

イランの映画監督らは逮捕・収監されたり、製作活動を禁止されたりするケースが多く、ザル・アミール・エブラヒミはフランスへ亡命、アリ・アッバシはコペンハーゲンで暮らしています。

ドイツ、デンマーク、フランス、スウェーデン、ヨルダン、イタリアが製作に参加しています。

[ロケ地]ヨルダン ※イランでの撮影を断念

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